愛玩動物看護師とは?【第1回】知っていますか? 新たに誕生した国家資格・愛玩動物看護師

はじめまして、愛玩動物看護師の旭あすかといいます。愛知県の動物病院に勤務しています。

ここまで読んで「愛玩動物看護師ってなに?」「たんに動物看護師じゃだめなの?」って思った方もいるかもしれませんね。

愛玩動物看護師は2023年4月に誕生したばかりの国家資格です。なので、獣医療の業界にいる人や動物病院に熱心に通われている方以外には、まだ十分に知られていないかもしれません。

この連載は、その愛玩動物看護師について、「どんな資格なのか」「どんな役割を担っているのか(そして、これから担っていくのか)」などを知ってもらいたくて始めました。さらに、「愛玩動物看護師になりたい」と考えている人には、どうしたらなれるのか、なども紹介していきます。

まずは、愛玩動物看護師とは? という基本情報からお話ししていきます。

2023年4月に誕生した「愛玩動物看護師」

2022年6月、日本で新たに施行された「愛玩動物看護師法」。この法律は、愛玩動物(犬・猫をはじめその他政令で定める動物)に関する獣医療の向上や愛玩動物の適正な飼育に貢献することを目的として制定されたもので、国家資格「愛玩動物看護師」が定められました。

2023年2月には第1回の愛玩動物看護師国家試験が実施され、受験者20,798名のうち18,481名が合格し、同年4月より、愛玩動物看護師として動物病院などで勤務しています。

■動物看護師から認定動物看護師、そして愛玩動物看護師へ

これまでの獣医療現場では、動物の採血や点滴、投薬などの医療行為は、獣医師のみが認められていました。また、動物病院で「看護」業務を行ううえで、特別な免許や資格は原則必要ありませんでした。

動物病院で看護業務を行う人たちを、慣習的に動物看護師と呼んでいましたが、人医療の看護師と違って国家資格をもっているわけではありませんでした。つまり、動物看護師といっても、どんな勉強をしてきて、どんな知識や技術をもっているかは、人それぞれ違いがあったというわけです。

そのような問題に対し、動物看護師の知識・技術の高位平準化を図ることを目的に、2011年に動物看護師統一認定機構という民間団体が設立されました。この機構では、行政と連携しながら動物看護教育におけるコア・カリキュラムを策定し、それをもとにした認定試験を実施しました。専門学校などで学んだ人や現職の動物看護師は、その認定試験に合格することで(民間資格ではあるものの)「認定動物看護師」という資格を得ることができました。この資格が一般化したことで、動物看護系の専門学校や大学などで定められたカリキュラムを学び、認定試験を合格し、動物病院へ就職するという流れができました。

つまり、従来、動物病院で動物看護師と呼ばれてきた人たちの多くは、認定動物看護師の資格を有する人たちでした。ただし、先にお話ししたとおり、あくまでも特別な資格が必須でなかったため、その資格をもたない人たちも、同じ動物看護師として働いていました。

そして、より専門性の高い動物看護師の育成、動物看護師の職域の拡大などを目的として、2023年2月19日に第1回の「愛玩動物看護国家試験」が実施されました。これにより、民間資格ではなく、獣医師や人医療の看護師と同じように国家資格としての「愛玩動物看護師」という職業が誕生しました。

注意点として、今回の国家資格化に伴い、「愛玩動物看護師でない者は、愛玩動物看護師又はこれに紛らわしい名称を使用することはできない」と法令で定められたため、国家資格を有さない人が動物看護師と名乗ることはできません。そのため動物病院では、アニマルケアスタッフや動物診療助手といった名称になっています。つまり、愛玩動物看護師法が施行された今、「動物看護師」=「愛玩動物看護師」となります。

■愛玩動物看護師の業務範囲の広がり

これまで、動物看護師の業務内容としては、院内の清掃や受付対応、診察室などでの動物の保定(検査や処置を安全に進めるために動物を不動化すること)、検査や手術などに必要な医療器具の準備や片づけといった診療補助でした。

そのほかにも、基本的なしつけ、日常のお手入れ、シニア期のケア、子犬・子猫期の暮らしのポイントなどについて、飼い主さんへ助言や指導を行ってきました。動物看護師は直接的な医療行為はできないものの、人と動物との幸せな暮らしのために幅広い業務に携わってきたわけです。

写真:高齢犬へのリハビリ風景

それが、今回の国家資格化により業務範囲が拡大し、愛玩動物看護師の診療補助業務として、獣医師の指示のもとに行う採血、投薬(経口など)、マイクロチップ挿入、カテーテルによる採尿などが可能となりました。これまで、獣医師が行っていた業務を愛玩動物看護師が担当することにより、獣医師の実務的な負担が軽減できますので、より質の高い医療サービスの提供につながることも期待されています。

写真:愛玩動物看護師が皮下点滴を実施中

なお、国家資格を有さないアニマルケアスタッフなどには、医療行為が伴う診療補助業務は認められていませんが、動物の保定、入院動物のお世話や診断を伴わない検査、動物の日常の手入れやしつけに関する指導・助言、栄養指導などは引き続き行うことができます。

愛玩動物看護師と社会とのつながり

愛玩動物看護師法制定の背景として、「ペットは家族の一員」という考え方が一般的になり、獣医療に対する期待が高まっていることがあげられます。それら社会的な要請にこたえるためには、動物看護師をより高い水準まで育成する必要があります。

私自身の現場での実感としても、人医療並みの高度専門医療を提供している2次診療施設への紹介やセカンドオピニオンの活用など、より質の高い獣医療を求められるケースが増えています。そんな飼い主さんの思いに耳を傾け、主治医である獣医師に要望を伝えることも愛玩動物看護師として重要な役割です。

さらには、動物介在教育や動物介在活動への支援、動物飼養困難者(高齢者等)への飼育支援、災害時の被災動物の適正飼養のための支援なども重要です。また、多頭飼育崩壊や飼育放棄、動物虐待といった問題への参画も求められます。

愛玩動物看護師として、獣医療の領域だけではなく、幅広い問題に関わることで、動物と人が豊かに共存していく社会づくりを前進させる役割を担っていかなければならないと考えています。

写真:自力で水が飲めない高齢犬への介助風景

写真:デンタルケアを実施中

愛玩動物看護師に求められる能力・業務

これまで述べてきたとおり、愛玩動物看護師に求められる業務は多岐にわたります。それらを遂行するためには、どのような能力が必要なのでしょうか。

私自身は「正しい知識に基づいた飼い主さんへの指導力」「診療補助業務を遂行できる技術力」「それらを実現するためのチームワークづくり」だと考えています。

まず、指導力についてですが、国家資格者ですので、以前よりも確かな知識が求められます。飼い主さんとの対話や専門的な相談も増えてきます。たとえば、動物の長寿化に伴い、ケアや介護に苦労される事例が増えていますが、そのような場面においても正しい知識を伝え、あるいは相手の状況に応じて適切に助言や対応ができなければなりません。

技術力に関しては、これまで獣医師のみに許されていた採血なども、安全かつ素早く実施できなければなりません。もちろん、1つ間違えると動物を傷つけてしまうことがあります。そうならないために、技術を磨く必要があります。動物病院内での教育環境の整備も大切です。

医療現場においてチームワークはとても重要です。個人プレーでは救える命も救えませんし、勝手な行動は許されません。獣医師と愛玩動物看護師の信頼と協力は、確かな医療サービスの提供になくてはならないものです。愛玩動物看護師にはチームの一員としての責任が伴いますので、日々の業務などから知識や技術を高め、経験を積んでいくことが求められます。

写真:獣医師との情報共有

写真:入院動物看護の引き継ぎ

愛玩動物看護師の未来に期待

新しく誕生した「愛玩動物看護師」という国家資格。今回お話ししてきたとおり、やりがいが増えるぶん、責任も重くなります。いずれにせよ、一人ひとりの愛玩動物看護師の努力によって、人医療における看護師のように、社会から広く認知され、信頼される存在に近づいていくものと考えています。

私自身もそうありたいですし、誇れる仕事として、これからも真摯にたくさんの動物と飼い主さんに向き合っていきたいと思います。そして、愛玩動物看護師という職業をもっともっと知ってもらいたいと願っています。

次回は「愛玩動物看護師になるためには?」についてお伝えします。

【執筆】
旭 あすか(あさひ・あすか)
1988年生まれ。IPC国際ペットカルチャー総合学院を2011年に卒業後、りんごの樹動物病院(愛知県安城市)にて動物看護師として勤務。2017年動物看護師長に就任。院内の働き方や動物看護師の業務の改善を進める。2023年に愛玩動物看護師免許を取得。その他、世界基準の心肺蘇生~獣医蘇生再評価運動(RECOVER)を2018年に修了。院内業務にとどまらず、おもに臨床病理学(糞便検査、尿検査、血液塗沫など)分野の愛玩動物看護師向けセミナーで講師を務めている。自身のインスタグラムでは「愛玩動物看護師のリアル」を発信し、知識・技術ならびに社会的認知度の向上のために尽力している。
Instagram:asahi_asuka_vnca