高い知能のスーパーネズミ:デグー【中編】デグーの意思表示(発声)

デグーは群れの中で複雑な社会的相互作用を受け、幅広いレパートリーのある発声(鳴き声)と行動(ボディランゲージ)で意思を表現しますが、現在は行動よりも発声の解析の方が進んでいます。デグーに接触するときは、意思を理解し、テンダー・ラビング・ケア(TLC:やさしく愛情を込めたケア)の考えに添って対応することが理想です。

発声(鳴き声)

野生のデグーは1~2頭の雄と2~5頭の雌から構成された群れで生活をしています。デグーは複雑な行動とレパートリーのある鳴き声で、群れの中での様々なコミュニケーションをとっています。

これまでの研究において、鳴き声は15種類あるいは17種類に分類されています。デグーは多様な種類の鳴き声を使ってコミュニケーションを取り合うことから「歌うアンデスのネズミ」とも呼ばれています。

これらの鳴き声は、モルモットやチンチラとくらべて多数研究されていますが、実際の詳細な鳴き声の定義と解釈は未だに統一されておらず、相手や仲間へ警告を伝えるAlarm call(アラームコール:警告音)やMothering call(マザーリングコール:母性音)などの一部の鳴き声のみが明確になっているだけです。

デグーの鳴き声に対する解釈は各研究者においても曖昧ですが、発生音の強調や音節、高低などにより、機嫌の良し悪しや意思などを意外と明確に判断できます。

・機嫌のよいときやリラックスしているとき…「ピピピ」「ピロピロ」と小鳥のさえずりのように鳴きます(Chittering:チッターリング:さえずり)
・機嫌が悪いとき…「キーキー」「クークー」と悪意がこもった感じの音で鳴きます(Whineing:ワイニング:すすり泣き)
・警戒や威嚇のとき…「プギー」「キュー」と高く大きな声で叫ぶように鳴きます(Barking:バーキング:吠える)
・寂しいとき…「キュー」であったり、細い声を長く伸ばして鳴きます

これらの鳴き声の認知は発達とともに獲得されます。成体では他個体によりアラームコールが発せられると、外敵にみつからないよう動きを止めますが、生後1カ月齢以内の幼体は一瞬動きを止めるものの数秒後には発声しながら仲間との遊びを再開します。

このような幼体の反応は、アラームコールの認知ができない、あるいは反応が未熟であると推測されています。2カ月齢になると成体と同様の反応が可能になります。

一般的に雄よりも雌の方が声が大きい可能性があります。これは、野生の群れが主に雌のグループで構成され、雄が1あるいは2頭しか存在しないという事実に関連しています。以下に代表的な鳴き声を解説します。

■コミュニケーション時の鳴き声

個体同士が挨拶のように社会的な絆を深める意味で、鼻と鼻や鼻と口を接触させるとき、あるいは毛繕いをしあっているときに声を出します。特に親密な仲間同士で出す声で、「ピピピ」「ピロピロ」「チチチ」と小鳥のさえずりのような甲高い短い鳴き声です(チッターリング)。4~11回と長く反復して発せられることもあります。チッターリングはTrilling(トリリング:声を震わせて鳴く)とともに、マザーリングコールの1つの構成音でもあります。

■仲間の確認の鳴き声

遠くにいる仲間を確認するときに、Chaffing(チャフィング:からかい)と呼ばれる「キッキッキッ」「チッチッチッ」という鳴き声を上げます。一般的には3回(最大で15回)ほど連続して発せられます。

■要求の鳴き声

餌などを要求するとき「プキュプキュ」「キュッキュッ」と甲高い声で可愛く鳴きます。ケージから出たい、あるいは撫でてほしいといった際に要求する目的でも発せられます。

■寂しいときの鳴き声

「キュー」「キュイー」という切ない感じの低い音の鳴き声は、寂しがっているときで、長時間連続して鳴いていることもあります。

■威嚇・警戒の鳴き声

軽い威嚇や警戒時はワイニングと呼ばれる「キーキー」「クークー」と連続した高音の鳴き声を上げます。相手を遠くに追い払いたいような不快時に聞かれ、悪意がこもった感じです。強い威嚇や警戒のときはGroaning(グローニング:うめき声)と呼ばれる「プギー」「キュー」と甲高く連続した鳴き声を上げます。

前肢で相手を押したり(ボクシング)、突進などの攻撃的な行動を伴うこともありますが、たいていは軽度の脅迫や警告の意味です。また、雄に特有のものとして、敵対的な相手に遭遇した際に聞かれる、撃退や威嚇などを目的とした即時の攻撃的な「ジッジッ」と低い耳障りな鳴き声があり、Grunting(グランティング:不平をいう)と呼ばれています。一般的には3~5回くらい連続して発せられます。相手を追い払うための鳴き声ではありますが、仲間に危険を知らせる目的もあり、アラームコールでもあります。グランティングは敵対的な状況特有の緊急時の鳴き声で、飼育下での日常生活ではめったに聞かれません。

■主張時の鳴き声/Barking call(バーキングコール)

「キッキッ」「ピーッピーッ」と大きな鳴き声で、バーキングと呼ばれます。通常11回以上連続して鳴き続けるのが特徴です。雄が縄張りの主張のために上げる声ですが、周囲に問題が起きたときに警戒や警告のために雌も同じ鳴き声をアラームコールとして発します。抗議のきしみ音(Protest squeaking:プロテストスクイーキング)や抗議のうなり声(Protest growling:プロテストグロウリング)と呼ばれている鳴き声も、バーキングに近いものと考えられています。バーキングは口を開け、耳を後ろに倒して鳴きます。

■興奮時の鳴き声

嬉しいときや興奮している際に「ウキャー」と柔らかく甲高い短い鳴き声を上げ、Warbling(ウォーブリング:さえずり)と呼ばれます。仲間と出会ったときや、子育て中に聞かれることが多いです。興奮のあまり尾を打ちつけながら「ウキャウキャ」と鳴きまくることもあります。

■不快時/不機嫌時の鳴き声

不快時は、Chirping(チアーピング:甲高い声)と呼ばれる「クックッ」「チッチッ」という短い音の鳴き声を上げます。一般的には連続して3回ほど発しますが、嫌いな相手に遭遇した場合などは最大16回鳴き続けることもあります。

不機嫌時は、Piping(ピッピング:不機嫌)と呼ばれる「プイップイッ」と明確な鳴き声を上げます。仲間と毛繕い中に出す鳴き声で、過剰な毛繕いが不快、あるいは少し痛く感じたことを伝えています。

■マウンティングを拒否するときの鳴き声

マウンティングの前や最中に相手に対して反発した場合、Tweeting(ツイーティング:さえずる)と呼ばれる「キュキュウ」「チッチ」という鳴き声を上げます。一般的に4~10回ほど連続して鳴き続けます。

■嫌なときや怖いときの鳴き声

嫌なときや怖いときは、Squealing(スクイーリング:金切り声)と呼ばれる「キーキー」「プギー」と甲高い鳴き声を上げます。一般的には敵対的な相手に使用され、痛みを伴う経験の結果としての無意識の発声でもあります。相手を驚かすための鳴き声ともいわれ、アラームコールのような役目もします。口を開け、耳を後ろに倒して鳴きます。

■繁殖時の鳴き声

・求愛コール
「ピュルルルー」「ピュイピュイピルピルピル」と甲高い声は、発情時の求愛の鳴き声で、声が長く持続するのが特徴です。雌雄にかかわらず、求愛時は同じ音を発します。発情した雄はバーキングコールで強く主張することも多くみられます。Post-copulatory call(交尾後コール)やCourtship call(コートシップコール:交尾コール)と記載されているものは、バーキングの鳴き声に相当するものと推測されています。

・マザーリングコール
授乳中や幼体の世話をしている母親が発する鳴き声は、マザーリングコールと呼ばれています(写真1)。聞き心地の良い高音を繰り返す音声で、Maternal call(マターナルコール)とも呼ばれ、幼体をなだめて精神的に落ち着かせる効果があります。マザーリングコールは、主にトリリングと呼ばれる「トゥルル」と短い柔らかく反復的な鳴き声が主体といわれています。5~20回連続して発することが多いです。Braunらは、トリリング以外にチッターリングも構成された鳴き声であると報告しています。また、幼体をなだめる効果以外にも、脳の感情システムの発達に効果があるといわれています。

写真1:母親は子に対してマザーリングコールやマターナルコールと呼ばれる優しい鳴き声を出す

・Distress call(遭難コール)/Isolation call(隔離コール)
遭難コールとは幼体だけが発する声で、同腹子が巣から離れたときに、いつでも巣に戻れるようにするための鳴き声です。Whistling(ホイッスリング:口笛)と呼ばれる「キュイキュイ」「チーチー」と甲高くて短い鳴き声で、4~5日経過すると鳴く回数も減少し、生後約6週齢になるとほとんど鳴かなくなります。また、幼体が母親から離されたときに、やはりホイッスリングと呼ばれる「キュキュ」「クゥクゥ」と優しい低い鳴き声が幼体から発せられ、隔離コールと呼ばれています。遭難コール、隔離コールともに親や仲間に自分や巣の位置を知らせる意味があります(写真2)。

写真2:幼体は母親から離れると遭難コールや隔離コールと呼ばれる小さな鳴き声を上げる

・幼体が怖いときの鳴き声
主に幼体が、周囲に何か問題があったときや警戒しているとき、成体に向かってWheeping(ウィーピング:甲高い声で鳴く)と呼ばれる「キィキィ」と短く強い鳴き声を上げます。鳴きながら、逃げたり、隠れたりしてじっと息を潜める行動をとり、仲間も同じ行動をみせるため、群れの中での危険を警告するためのアラームコール的な役目もあります。

■声以外の音による意思表示

鳴き声以外にも、Teeth chattering(ティースチャタリング:歯ぎしり)やTail beating(テールビィーティング:尾叩き)、Head thumping(ヘッドサンピング:頭打ち)、Drumming(ドラミング:後肢を地面に叩きつける)によって音を発生させます。

・ティースチャタリング
歯ぎしりには2種類の意味があります。攻撃的な歯ぎしりは非常に速く、カチカチといった音で歯を鳴らし、ワイニングやグローニングなどの声も上げます。幸せでリラックスした状態だと歯ぎしりの速度は遅く、グリグリとした音で「ピピピピ」という鳴き声を上げます。

・テールビィーティング
尾を地面に素早く叩きつけることによって音を出します。デグーが興奮しているときや交尾の直前に最も頻繁にみられます。

・ヘッドサンピング
小屋やトンネルの屋根に頭を打ちつけて音を出し、仲間に場所や危険を伝達することがあります。

・ドラミング
後肢を地面に素早く叩きつけることによって音を発します。アラームコールの前後に地面を叩き、地下巣の仲間に危険を警告します。主に野生個体でみられます。

今回はここまでとし、次回の後編では、とてもおもしろい「行動(ボディランゲージ)」の数々を紹介します。

・連載記事

高い知能のスーパーネズミ:デグー【前編】デグーの知能とストレス – いきもののわ (midori-ikimono.com)

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*本稿は『モルモット・チンチラ・デグーの医学』(著:霍野晋吉、緑書房)の一部を改変し、まとめたものです。

【執筆】
霍野晋吉(つるの・しんきち)
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部卒業。獣医師、博士(獣医学)。1996年古河アニマルクリニック開業(茨城県)。1997年エキゾチックペットクリニック開業(神奈川県)。現在は株式会社EIC(https://exo.co.jp)の代表を務め、エキゾチックアニマルの獣医学の啓発や教育に関わる活動を行っている。その他、日本獣医生命科学大学非常勤講師、ヤマザキ動物看護大学特任教授、(一社)日本コンパニオンラビット協会代表理事、(一社)日本獣医エキゾチック動物学会顧問なども務める。著書に『カラーアトラス エキゾチックアニマル 哺乳類編 第3版』『同 爬虫類・両生類編 第2版』『同 鳥類編』『ウサギの医学』『モルモット・チンチラ・デグーの医学』(いずれも緑書房)。

[参考文献]
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