子猫の困った行動への対応法【第3回】動物病院に慣れさせよう

猫は縄張りをもつ臆病な動物です。犬と異なり、たとえ信頼する飼い主さんと一緒であっても、知らない場所に行くこと(すなわち縄張りから出ること)は好みません。その上、子猫期から外出する機会がなく、家族のみとしか接触せずに、極端に社会化不足の状況で成長することが多くなります。

そのため、何もしなければ動物病院での出来事がトラウマになることは避けられません。このような猫は、恐怖から攻撃的になり診察時にキャリーから出すことも難しくなり、治療が十分にできないばかりか、動物病院に連れて来ることも難しくなります。

まだ警戒心が十分に発達していない子猫期から、診察時におもちゃを見せたり、好物を与えるなど、できるだけ不安を与えないように工夫する必要があります。緊張している場合は、隠れているという安心感をもたせるためにバスタオルなどで覆ってから診察を行うことになります。この際も、知らないにおいのする病院のタオルよりも、自分の家のにおいのついたタオルを使うことで、より安心感を与えることができます(写真1)。猫は言葉の意味は分かりませんが、その場の雰囲気や人の声のトーンを読み取りますから、穏やかに会話し、大きな声や音、素早い動きは控えるべきです。

写真1:診察台の上でリラックスしている猫

私の動物病院では、診察室や入院室には猫用のフェロモン製剤を使用し、飼い主さんには以下のご案内をしています。

安全でストレスの少ない通院のためにキャリーに慣らす

猫は不慣れな場所が苦手であり、特に成猫になると警戒心が強くなります。予防注射や去勢・不妊手術など、嫌なことをするときだけキャリーに入れると、キャリーと嫌な出来事を関連付けてしまいます。そうすると、キャリーを見ただけで逃げてしまうようになり、動物病院に連れて来ることが難しくなります。また、入院やペットホテルのときに緊張して食事も食べられないという猫もいます。まずはキャリーに慣らす練習をし、安心できる場所にしましょう。

ペットホテルや入院時には、慣れたキャリーを持ってきていただき、入院ケージの中に入れてあげると、猫がリラックスできます(写真2)。

写真2:キャリーでリラックスしている猫

慣れたにおいのついたタオルを持参する

猫は知らないにおいや、知らない人にさわられることが苦手です。あらかじめ、猫がよく寝る場所にタオルを置き、タオルの上で食事を与えるなどしてタオルに慣れたにおいを付けておきます。診察時に猫を安心させるために、この慣れたにおいの付いたタオルをもってきてください。待合室などでキャリーの上からかけてあげることで、犬や知らない人がいても隠れている気分で過ごすことができます。

また、体重を計る際に診察台に敷いたり、採血時の保定のときに猫にかけてあげると、ストレスを軽減できます。ただしタオルをかけられることに慣れていないと、逆にびっくりすることもあるので、自宅でタオルに優しく包む練習をしておきましょう。タオルで包んだ後には、褒めて好物をあげるようにしましょう。

動物病院に行くときは空腹にして好物と慣れた食器を持参する

当院では動物病院の印象をよくするため、診察室で好物を与えます。

猫は食べ慣れていないものを食べないことがあるため、自宅から好物をもっていきましょう。半日ぐらい食事を抜いて、空腹にしておくとより効果的です。また、不慣れなにおいを警戒するので、自宅で使っている食器を持参していただくのもお勧めです。緊張して食べられない子もいるので、まず自宅でキャリーの中で食べることに慣らしておいてください(写真3)。ペットホテルや入院時などにも慣れた食器や好物を持参しましょう。

写真3:キャリーの中で食べることに慣らす

日頃から猫の全身をさわってチェックする習慣をつくる

ブラッシングや歯磨き、爪切りなどのケアを快く受け入れてくれるように、優しく体中をさわる練習をしましょう。

また、投薬が必要になったときに備えて、子猫期からフードを使って投薬の練習をしておきましょう。

同居の猫がいる場合には帰宅後しばらく分けておく

動物病院に来た猫が病院のにおいを付けて帰ると、家の猫がびっくりしてケンカになる場合があります。特に動物病院で怖い経験をしたことがある場合、それを思い出して攻撃することがあります。においが消えるのを待つために、家に帰ってしばらくは別々の部屋で過ごさせましょう。

念のため会わせる前に、1頭の猫のおでこや尻尾の付け根などにこすり付けたタオルでもう1頭を撫でてあげるなどして、においの交換をしておくとよいでしょう。

さて、この連載では全3回で、子猫と接する上での様々な注意点や社会化のための対応法を紹介してきました。子猫がこの先、人の社会で幸せに生活していくための、参考としてください。

子猫の困った行動への対応法【第1回】遊びによる攻撃行動 – いきもののわ (midori-ikimono.com)

子猫の困った行動への対応法【第2回】社会化の機会づくり – いきもののわ (midori-ikimono.com)

【執筆】
村田香織(むらた・かおり)
獣医師、博士(獣医学)、もみの木動物病院(神戸市)副院長。株式会社イン・クローバー代表取締役。日本獣医動物行動研究会 獣医行動診療科認定医。日本動物病院協会(JAHA)の「こいぬこねこの教育アドバイザー養成講座」などで講師も務める。獣医学と動物行動学に基づいて、人とペットが幸せに暮らすための知識を広めている。主な著書に『「困った行動」がなくなる犬のこころの処方箋』(青春出版)、『こころのワクチン』(パレード)、『パピークラス&こねこ塾スタートBOOK』(EDUWARD Press)。