子猫の困った行動への対応法【第2回】社会化の機会づくり

子猫飼育におけるポイント:社会化の機会を与える

前回の記事 で記載したように、現代の日本のほとんどの地域で猫の完全室内飼育が望まれます。ただし完全室内飼育では、より積極的な社会化のための努力が必要となります。また散歩やドッグランなどに飼い主さんと外出する機会の多い犬と異なり、猫は外出する機会はほとんどありません。それでも日常生活で困ることがないため、問題意識をもつことなく成長してしまいます。ですが、このような猫はすべて潜在的に社会化不足による問題を抱えていると考えられます。

完全室内飼育の猫の寿命は長くなっており、20年近く生きることも珍しくありません。この間には来客はもちろん、引っ越しや自宅のリフォーム工事、飼い主さんの結婚や出産、新しいペットの飼育など、様々な生活上の変化が起こります。また動物病院の受診やペットホテルなど、何らかの理由で外出しなければならないことも必ずあります。

社会化不足の猫ではこのような変化が大きなストレスとなり、攻撃行動や常同障害などといった問題行動のきっかけとなるケースが認められます。また、問題行動を起こさなくとも過剰なストレスは自律神経系、内分泌系に影響を与え、食欲不振や免疫力の低下から体調不良を引き起こすこともあります。

したがって子猫期に、今後出会うことになる可能性のある様々な刺激に慣らし、環境の変化に対する適応力を備えておくことは重要です。

【ポイント! 子猫の社会化】

◇室内のみの刺激では必ず社会化不足になるため、意識的に社会化を行う必要がある
◇キャリーに慣らし安心できる場所、すなわち「プチテリトリー」にする
◇ 子猫期からキャリーでの移動や外出に慣れさせ、楽しい経験を積ませる

■キャリーを活かした社会化

地震発生後の飼い猫にみられた変化についての調査では、地震後の恐怖反応が「室内飼育」、「キャリーを使用していない」条件で有意に強かったことが報告されています。キャリーでの移動時に感じる揺れは地震の揺れにも慣らす効果があったのかもしれません。また、キャリーで移動する習慣がある猫は、意図せずに大きな音などを含む様々な刺激に慣れていた可能性もあります。

このことからも、猫においても災害をはじめ、将来起こりうる様々な環境の変化に備えておくべきです。すなわち、発達期に十分な社会化の機会を与えておくことが重要と考えられます。

筆者の動物病院の子猫教室(以下、こねこ塾)では、飼い主さんにキャリーに入れての散歩や知人宅への訪問を勧めています。猫は、縄張りを重視する動物です。自分の縄張りから出ることは、同時に他個体の縄張りに侵入することでもあり、猫にとって危険を伴う行為です。

完全室内飼育している猫の縄張りは家の中ですが、家から出なければならない機会もあります。まだ縄張りを確立していない子猫期に、家以外の場所やキャリーでの移動に慣らしておくことは有益です。

キャリーを猫が安心できる縄張りの一部にしておくという意味で、筆者はこれを「プチテリトリー」と呼んでいます。キャリーをプチテリトリーにしておくことで移動のストレスを減らし、知らない環境で安心感を与えることができます。キャリーでリラックスできるようになれば、動物病院にもキャリーに入れて連れて行くことができます。

移動の際や動物病院では不安を与えないように、キャリーにタオルをかけるなどして目隠しをするといいでしょう。ペットホテルや入院中に、緊張して食事を食べないという猫は少なくないですが、慣れたキャリーを入院ケージの中に入れると、リラックスするのが早く、食事もすぐに食べてくれることが多いです(写真1)。

写真1:慣れたキャリーを動物病院で活用する

ただし、キャリーを安心できるプチテリトリーにするためには、子猫期からの下準備が必要です。目新しい刺激に対して好奇心の強い時期にキャリーで外出して楽しい経験を積ませることで、キャリーでの移動に慣らしておくことができます。子猫期であれば知らない場所にも比較的短時間で慣らすことができます。子猫期からキャリーに入れて散歩をすることで、聞き慣れない物音や知らない場所、知らない人に慣れる機会を安全につくることができるのです(写真2、3)。

写真2:キャリーをプチテリトリーにしておくと、知らない場所でもリラックスできる

写真3:社会化のために公園で子供からおやつをもらうのもよい

歩道を歩きながら自動車や自転車を見せてもいいですし、近所の公園の木陰などに座って小鳥の声を聞かせたり、子供たちが遊んでいるのを見せるのもいいでしょう。子猫はキャリーの中で恐怖を感じずに様々なものを見たり、音を聞いたり、においを嗅いだりすることができます。

さらに、空腹状態で好物をもって外出すると、キャリーでの外出がより楽しくなります。落ち着けそうな場所にキャリーを置いて隙間から好物を入れてみます。好物を入れる際には子猫が出てしまうのを避けるために、ドアを開けるのではなく、キャリーの網目などを利用します。この際、好物を喜んで食べるようならいいのですが、怯えている様子であれば刺激が強すぎます。静かな場所に移動するか、キャリーにタオルをかけるなどして刺激強度を調節してから、再度好物を見せてリラックス度をチェックするといいでしょう。

知人宅などに訪問した際には落ち着くまでキャリーのドアを閉めておきます。落ち着いていればドアを開けて自ら出てくるのを待つといいでしょう。その際には、室内であっても狭い場所に入り込まないように注意し、外部に通じるドアは確実に閉まっていることを確認しておく必要があります。念のためにカラーやハーネスなどを付け、逃亡に注意します。

【キャリーに慣らすステップ】

安全性や衛生面からハードキャリーが推奨されます。また、入院ケージに入れることを考えると前のドアを外すことができるものが好ましいです(写真4)。

①前のドアを取り外して猫が普段いる部屋に置き、中に猫の好物を入れます。猫は好物を食べるために自らこの中に入ります。食べものはドライフードでもいいのですが、嗜好性が高いものの方が、より学習効果が上がります。
② ①を繰り返せば、キャリーに自発的に入るようになります。自分から入ったら、食べものを入れるようにします。
③ ドアを閉め、キャリーの隙間から好物を追加して、キャリーの中にいるとよいことがあると教えます。閉じ込められたという感覚をもたせないように、最初は頻繁に食べものを追加します。
④ キャリーに入ることに慣れたら、キャリーでの移動にも慣らします。まず室内を移動して様々な場所で好物を与えます。猫がキャリーの中で安心している様子であれば、同様に外出することにも慣らします。
⑤ 日頃から、キャリーの中には敷物を敷くなどして居心地をよくしておきます。キャリーを様々な場所に置き、猫が喜んで入ることを確認します。おもちゃでしっかり遊んで疲れたタイミングで、好物などとともに猫を入れるのもいいでしょう。自らキャリーに入り寝るようになれば、キャリーを安心できる場所として受け入れたと考えられます。

写真4:前のドアを外すことができるキャリー

すでにキャリーを警戒するようになってしまった猫のトレーニングにはかなりの時間を要します。理論的には系統的脱感作(恐怖などの情動反応を生じる刺激を弱め、反応が生じない程度の刺激として繰り返し与え、少しずつ強度を強めて最初の反応を消失させる方法)と拮抗条件づけ(恐怖などのネガティブな情動反応を引き起こす刺激と好物などのポジティブな情動を引き起こす刺激を一緒に提示することで恐怖反応を消失させたり、快感情に変化させること)を用いれば可能ですが、時間がかかることが多いです。筆者は飼い主さんに、毎日キャリーに好物を「お供え」するつもりで、根気よく取り組んでもらうよう伝えています。

当院では数年前より、行政から保護された子猫を引き取って里親を探す取り組みをしています。その子猫たちは社会化のために、キャリーに入れてスタッフの家や散歩に連れて行きます。それを繰り返すと、子猫はキャリーを見せると自分から近づいて入るようになります。成猫と違って社会化期の子猫は好奇心が強く、キャリーで様々な場所に行くことが報酬となっているのです。

子猫期から定期的にキャリーで移動して楽しい経験を積ませておけば、キャリーで動物病院に連れて行く際にもキャリーを見せただけで逃げるといった反応は予防できるでしょう。

次回は「来院時の注意点」を解説します。

子猫の困った行動への対応法【第1回】遊びによる攻撃行動– いきもののわ (midori-ikimono.com) .

[参考文献]
・村田香織.パピークラス&こねこ塾スタートBOOK ─子犬・子猫のしつけ方教育アドバイス─.2019.インターズー.
・水谷雄一郎,髙島一昭,髙島久恵ら.鳥取県中部を震源とする地震発生後に飼育猫に見られた変化.第38 回動物臨床医学会年次大会抄録.2017:pp.235-236.

【文・写真】
村田香織(むらた・かおり)
獣医師、博士(獣医学)、もみの木動物病院(神戸市)副院長。株式会社イン・クローバー代表取締役。日本獣医動物行動研究会 獣医行動診療科認定医。日本動物病院協会(JAHA)の「こいぬこねこの教育アドバイザー養成講座」などで講師も務める。獣医学と動物行動学に基づいて、人とペットが幸せに暮らすための知識を広めている。主な著書に『「困った行動」がなくなる犬のこころの処方箋』(青春出版)、『こころのワクチン』(パレード)。