いくら体に良いビタミン、ミネラル、機能性サプリメントだったとしても、規定量以下であれば効能は期待できません。また、規定量以上であれば副反応(副作用のうち悪い作用のこと)の出る可能性があります。
人用のサプリメントの規定量
日本のサプリメントに対する認識は、アメリカやヨーロッパに比べて遅れており、ほとんどが「機能」などの表示ができない「健康食品」として扱われています。
たとえば日本では、規定(日本人食事摂取基準2015年度版;厚生労働省)で欠乏症を補う量(耐用上限量=標準摂取量)しか明記できないのですが、アメリカでは病気を予防するための量が明記されています。利点としては、量が多い時だけ免疫力上昇やがん予防の効果が出ると記載されているようです。
しかしながら、ビタミンD、亜鉛、ビタミンA、ナイアシン、ビタミンB6、葉酸などの過剰投与は遺伝子へ悪い影響を発現してしまうおそれがあるため、医学的知識がないとかなり危険です。そのため、海外の高濃度の人用サプリメントを安易にペットに与えてしまうと、中毒量になるリスクがあることを理解しておく必要があります(宮澤賢史、2018)。
ペットのサプリメントの規定量
犬や猫のビタミンやミネラルについては、AAFCO(Association of American Feed Control Officials:アメリカ飼料検査官協会)において規定量が紹介されています(後述)。その規定量の上限を適切に守れば問題はないでしょう。しかし、何らかの理由で上限を超えた場合は、人と同様に副反応が出る可能性があります。そして、これら副反応に関する検証は、十分に行われていないのが実情です。
人の機能性サプリメントの多くは、開発時にきちんと高用量による毒性試験および安全性試験が実施されています。ペットの機能性サプリメントでは、実験動物や人のデータはあるものの、犬・猫の試験をしていないものも少なからずありますが、きちんと犬・猫での毒性試験および安全性試験を踏まえて割り出された規定量を遵守して投与している場合、副反応はほとんど問題にならないはずです。
以下、AAFCO(2016)の栄養基準値(DMB)をもとにした推奨量を紹介します。
※推奨量算出にあたって、フードの想定カロリーを4,000kcal ME/kgとしており、代謝エネルギー1,000kcalあたりの推奨量となります。
※犬・猫ともに、成犬または成猫である維持期を想定しています。
■ビタミンの推奨量と注意点
・チアミン(B1)
推奨量:犬2.25mg/kg(最小値)、猫5.6mg/kg(最小値)
チアミン(B1)は、貝類、イカ、タコに含まれるチアミナーゼによって分解が促進されるため、欠乏症となることがあります。欠乏症になると、食欲低下、嘔吐、成長不良、けいれん、神経障害などが生じます。なお、中毒ではない物理的な障害として、加工されたスルメイカなどを食べ過ぎると、胃袋の中でボリュームが増し、腹部痛や消化器障害などが出るおそれもあるので注意が必要です。
・ビオチン
推奨量:犬はデータなし、猫0.07mg/kg(最小値)
生の卵白にはビオチンと結合するアビジンが含まれるため、生の卵白を与えることでビオチン欠乏が生じ、皮膚炎や脱毛などの原因となります。卵白を焼くことで卵白内のアビジンは分解されます。
・ビタミンC
推奨量:体内合成できるため規定なし。
健康な犬や猫では、ブドウ糖からビタミンCを体内で合成できるので、原則、欠乏症は起きません。しかし、人では過度なストレス時のコルチゾール増加によるビタミンCの減少があり、犬や猫で起こらないとは断言できません。
・ビタミンA(レチノール)
推奨量:犬5,000~250,000IU/kg(最小値~最大値)、猫3,332~333,300IU/kg(最小値~最大値)
ビタミンA(レチノール)は、正常な視覚、健康な被毛、皮膚、粘膜、歯をつくります。猫はカロテンをもとに体内でビタミンAを作ることができないため、食物から摂取する必要があります。ビタミンAの欠乏はまれです。しかし逆に、サプリメントやビタミンA含有量の多いレバーなどで過剰に摂取すると(過剰症)、猫では痛みを伴う骨疾患や、肝臓障害などの中毒症が出ることがあります。
・ビタミンD
推奨量:犬500~3,000IU/kg(最小値~最大値)、猫280~30,080IU/kg(最小値~最大値)
ビタミンDは、カルシウムとリンを腸から吸収しやすくし、骨や歯の形成を助けます。欠乏は非常にまれですが、若齢の場合はくる病を、成猫の場合は骨軟化症などを引き起こすことがあります。サプリメントなどで過剰に摂取すると、高カルシウム血症の原因となります。
・ビタミンE
推奨量:犬50IU/kg(最小値)、猫40IU/kg(最小値)
ビタミンEは、細胞膜の健全性を保ち、強力な生体内抗酸化成分として働きます。欠乏すると、黄色脂肪症の原因になったり、心臓や筋肉にダメージを与えたりすることもあります。毒性が低いのでサプリメントなどで過剰に摂取しても、過剰症はほとんどみられません。
・ビタミンK
推奨量:犬はデータなし、猫0.1mg/kg(最小値)
ビタミンKは、腸内細菌によって合成され、凝血因子の形成を調整します。腸内の栄養の吸収不良を伴う疾患や、血液を固まらせる作用のある薬物の使用によって、欠乏することがあります。
その他のビタミンの推奨量(最小値)は以下、表1を参照してください。
表1:その他ビタミンの推奨量(最小値)
■ミネラルの推奨量と注意点
・鉄
推奨量:犬40mg/kg(最小値)、猫80mg/kg(最小値)
鉄は、赤血球で酸素や二酸化炭素などを受け渡すヘモグロビンや、筋肉内で酸素を蓄えるミオグロビンの構成成分です。不足すると、貧血や、組織の低酸素状態が生じます。
・銅
推奨量:犬7.3mg/kg(最小値)、猫5mg/kg(最小値)
銅は、鉄の代謝に関与する成分です。不足すると、貧血、食欲不振、成長低下などの原因となります。
・亜鉛
推奨量:犬80mg/kg(最小値)、猫75mg/kg(最小値)
亜鉛は、多数の酵素の構成成分です。遺伝情報(DNA)や、タンパク質代謝に関与します。また、男性ホルモンの分泌と維持、網膜、抗酸化作用、免疫機能の維持、皮膚や髪、爪の栄養なども関与します。不足すると、高血圧、リウマチ性関節症、胃潰瘍、骨粗鬆症、皮膚障害、味覚障害などが生じます。
・ヨウ素
推奨量:犬1.0~11mg/kg(最小値~最大値)、猫0.6~9mg/kg(最小値~最大値)
ヨウ素は、甲状腺ホルモンの構成成分です。不足すると、成長不良や繁殖障害の原因となります。
・マンガン
推奨量:犬5mg/kg(最小値)、猫7.6mg/kg(最小値)
マンガンは、軟骨の形成、糖質以外から糖を作る働き、そして生殖機能などに関与しています。不足することで、成長不良や繁殖障害を引き起こします。
・セレン
推奨量:犬0.35~2mg/kg(最小値)、猫0.3mg/kg(最小値)
セレンは抗酸化作用を持ちます。不足すると、骨格筋・心筋の変性、浮腫、成長低下、食欲不振などが生じます。
・コバルト
推奨量:データなし
コバルトは、ビタミンB12の構成成分です。不足すると、貧血、食欲不振、成長低下などが生じます。
・クロム
推奨量:データなし
クロムは、糖代謝(糖が体に備蓄され適切な量ずつエネルギーとして使われるしくみ)に関与する成分です。不足すると、成長不良、繁殖障害、血糖値を正常に保つ機能の低下などが生じます。
・カルシウム
推奨量:犬0.5~2.5%(最小値~最大値、超大型犬のみ最小値1.8%)、猫0.6%(最小値)
カルシウムは、細胞の働き、骨格構造、筋収縮などに関与します。
・リン
推奨量:犬0.4~1.6%(最小値~最大値)、猫0.5%(最小値)
リンは、細胞の働きや骨格構造に関与します。ただし、リンが過剰(高リン血症)な状態になると、カルシウムの吸収阻害、動脈硬化、心筋梗塞などが生じます。
・ナトリウム
推奨量:犬0.08%(最小値)、猫0.2%(最小値)
ナトリウムは、細胞の働きや、体液のpHおよび体液濃度のバランス制御に関与します。
・カリウム
推奨量:犬0.6%(最小値)、猫0.6%(最小値)
カリウムは、神経伝達、筋収縮、細胞の働き、そして体液のpHおよび体液濃度のバランス制御などに関与します。
・クロール(塩素)
推奨量:犬0.12%(最小値)、猫0.3%(最小値)
クロールは、細胞の働きや、体液のpHおよび体液濃度のバランス制御に関与します。
・マグネシウム
推奨量:犬0.06%(最小値)、猫0.04%(最小値)
マグネシウムは、骨格構造、神経伝達、筋収縮、細胞の働きなどに関与します。マグネシウムが欠乏すると(低マグネシウム)、心臓病や糖尿病、不眠症などを発症しやすくなります。
■タンパク質・脂肪の推奨量と注意点
タンパク質はロイシンやリジンなどが、脂肪ではリノール酸、EPA、DHAなどが有名です。EPA+DHAはイワシ、サンマ、サバ、ヒラメ、タイ、ウナギ、卵、牡蠣、タコなどに多く含まれる成分です。推奨量は表2をご覧ください。
表2:タンパク質・脂肪の推奨量
【執筆者】
小沼 守(おぬま・まもる)
獣医師、博士(獣医学)。千葉科学大学教授、大相模動物クリニック名誉院長。日本サプリメント協会ペット栄養部会長、日本ペット栄養学会動物用サプリメント研究推進委員会委員、獣医アトピー・アレルギー・免疫学会編集委員、日本機能性香料医学会理事・編集委員他。20年以上にわたりペットサプリメントを含む機能性食品の研究と開発に携わっている。
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