愛玩動物看護師とは?【第2回】愛玩動物看護師までの道のり

獣医師とチームを組んで獣医療に向きあう「愛玩動物看護師」という職業。

前回の記事では、愛玩動物看護師とはどんな仕事なのかを紹介しました。今回は、動物病院での仕事に興味がある学生さんや転職を考えている社会人向けに、国家資格の愛玩動物看護師にはどのようにすればなれるのかを紹介します。

※ 本稿は2023年11月時点の情報をわかりやすく紹介するものです。愛玩動物看護師の資格を得るための詳しい情報については、農林水産省のウェブサイト等にて確認してください。

前回のおさらい

愛玩動物看護師になるには、国家資格が必要です。

そして、国家資格を得るには「愛玩動物看護師国家試験」に合格する必要があります。国家試験に合格したのちに、農林水産大臣と環境大臣に認可されて愛玩動物看護師名簿に登録されることで、晴れて愛玩動物看護師を名乗れるようになるのです。

愛玩動物看護師の資格を持つことで、医療行為を伴う診療補助が行えるようになります。

昨年度、第1回目の愛玩動物看護師国家試験が行われました。第2回目となる今年度の試験は、2024年2月18日に全国主要都市で実施される予定です。

こんな人に向いている

「動物が好き」でないと務まらないのが、愛玩動物看護師という職業です。しかしながら必要なのは「動物が好き」という気持ちだけではありません。国家資格になったこともあり、社会的な役割や責任も求められます。

まず、診療の補助をスムーズに行うために必要なのは、飼い主さんとのコミュニケーションです。愛玩動物看護師の業務には、飼い主さんから聞き出した情報をチームの獣医師などと共有するほか、飼い主さんが適正な飼育をするための助言や指導(栄養指導を含む)を行うことも含まれます。

これらの業務をこなすためには、どの飼い主さんにも伝わるように分かりやすく説明するコミュニケーション能力が欠かせません。人と話すのが苦手な人は、就職までに慣れておくと良いでしょう。

写真:飼い主への説明や、飼い主から聞き取った情報の伝達が必要(上、下)

また、動物の診療を行うためにはチームの協力が必須です。

獣医師や先輩からの助言や指導、そして周りの意見などを素直に受け入れて行動できる姿勢は、愛玩動物看護師として成長する助けになるものです。

写真:チームの協力は欠かせない(上、下)

さらには、些細なことに気づける観察力も必要です。

動物は言葉を発しません。なので、入院看護をしている動物の大小の変化に気づいて獣医師に報告することが重要となってきます。私たち愛玩動物看護師の観察力や洞察力が、動物の命を救うことにつながるのです。普段から動物と触れあって観察することで、いつもと違う状態に気づく力も養えるといいですね。

業務内容については前回の記事でも軽く触れていますので、あわせて確認してください。

受験資格を得るために:指定を受けた学校・養成所で学ぶ

愛玩動物看護師国家試験の受験資格を得るためには、いくつかの条件が設けられています。

まずは、これからスタンダードになっていく方法からご紹介します。

■指定を受けた学校・養成所で学ぶ

国から指定を受けた学校・養成所に入学し、指定されたカリキュラム(知識および技能を身につけるもの)を履修したうえで卒業することで、国家試験の受験資格を得られます。動物看護系の4年制大学や、動物系専門学校などの3年制の養成所のうち、指定を受けた機関が含まれます。

このカリキュラムでは、愛玩動物看護師として必要な知識や技術を、座学や実習を通して学ぶことができます。具体例を挙げるときりがありませんが、例えば動物形態機能学、動物内科学、動物行動学などを通して動物の生態や仕組みを学んだり、動物福祉、公衆衛生学、動物関連法規などを通して動物愛護や動物と人が共存するための法制度を学んだりできます。他にも、内科、外科、栄養学、看護学などといった、獣医療施設で働くために必要な科目があります。これらに他のカリキュラムを加えたものが、国家試験の出題範囲となります。

上記の授業の他にも、麻酔手術や血液検査などの臨床実習や、動物病院での現場実習などもカリキュラムに含まれます。座学だけではなく、実際に体を動かして学習する内容も定められているのです。実際の動物に触れる実習もたくさんあります。

このように楽しく学ぶことができるのも、学校ならではの魅力ですね。

■学校で動物看護を学ぶ魅力

私が専門学校で学んでいた当時は、国家試験も統一認定試験もなかったため、学校によって学習内容が異なりました。そのため、専門学校独自の科目を修学したあとに、卒業試験に合格して卒業するという流れでした。学んだ内容に差はありましたが、学校を卒業すれば動物看護師として働くことができました。

私が専門学校への進学を決めたのは18年ほど前になります。専門学校でたくさんの犬や猫を飼育しており、学生1人に対し1頭ずつ担当犬を与えてもらえることが決め手でした。当時の学習期間は2年間でしたが、その毎日を担当している犬と過ごし、実習も一緒に行うなど、動物と緊密に触れ合うことで扱いに慣れていきました。

学校独自のカリキュラムでしたが、基礎的な飼育管理やグルーミング、そして繁殖に携わった経験は、就職後にとても役立っています。専門学校で学んだ「ペットのプロ」としての心構えは、15年間この仕事を続けられた理由にもなっています。

写真:動物看護師には日常のグルーミングについての知識も必須

現在は法律により学習内容が定められたことにより、「国から指定を受けた学校・養成所」であればどこを卒業しても国家試験の受験資格相当の技術や知識を得られます。当時の私からするととても羨ましいことに、今は昔より幅広い動物看護学を学ぶことができるのです。

また、4年制大学の中には大学付属の動物病院で技能実習ができる所もあるため、就職先を選ぶうえで良い経験となります。大学卒業の経歴が履歴書に書けるのもメリットになるかもしれません。

受験資格を得るために:特例措置を利用する

いくつかの条件はありますが、学校に入学せずに受験資格を得る方法も存在します。

本来、愛玩動物看護師国家試験を受験するためには、先述したカリキュラムを履修する必要があります。しかし、現職者や指定校以外の卒業者でも受験できるよう、令和9年4月まで特例措置が設けられているのです。

以下の条件で受験資格を得られます。どの条件に当てはまるかは人それぞれとなるため、確認してください。

■指定されたカリキュラムをすでに履修済みである

1つ目の特例措置の対象は、動物看護師の養成機関(4年制大学または3年制専門学校など)にて、先述したカリキュラムの代わりとなるカリキュラム(指定動物看護師コアカリキュラム2019年と同等以上)を履修済みの、卒業者もしくは在学者です。

ただし、このルートで受験資格を得るためには、国が(農林水産大臣および環境大臣が)指定する「指定講習会」を受講する必要があります。受講の修了証明を取得することで、愛玩動物看護師国家試験の受験資格が得られます。

■実務経験が5年以上ある

2つ目の特例措置の対象は、「愛玩動物看護師(診療の補助を除く)に係る実務経験を5年以上有するもの、または農林水産大臣、環境大臣がそれと同等以上の経験を有すると認めたもの」です。

※この特例措置が施行されるのは令和9年4月までとなり、あくまでも現時点(2023年11月)の措置となります。それ以降についてはさらなる法改正により決定されるそうです。これから愛玩動物看護師を目指す方は現時点では対象にはなっていないため、養成所等に進学する必要があります。

つまり、学校・養成所に通っていない場合や、修学した際に定められたカリキュラムと同等以上の履修をしていない場合でも、動物病院にて動物看護師業務を5年以上行っていれば、指定講習会を受けたうえで国家試験の予備試験を受験できるのです。この予備試験に合格することで、愛玩動物看護師国家試験の受験資格を得られます。

この特例措置のおかげで、今から学校へ行くことが難しい現職のスタッフでも受験資格を得られます。すでに務めはじめている場合は、特例措置の施行期間内に5年以上の実務経験を積むのも手段の1つになりますね。

私は昨年度、この特例措置により受験資格を得て国家試験を受験しました。日々の診療補助業務をこなしながら、他のスタッフたちと一緒に隙間時間や退勤後に勉強会をしました。おそらくは全国の現職の動物看護師さんが、同じように業務をこなしながら受験勉強をしていたと思います。とても大変な1年でしたが、貴重な経験になりました。

第1回目の国家試験では、受験者総数20,798人のうち約半数の9,539人が、5年以上の実務経験を積んで受験していました。残りの約半数は養成機関の在学者もしくは卒業者です。昨年度の時点で実務経験が5年未満だった人も、令和9年までに受験していくことになりますが、その受験者数は徐々に減っていくことが予想できます。

写真:業務をこなしながらの受験勉強は貴重な経験となった

■その他

今は海外在住だけれど将来的に日本で愛玩動物看護師として働きたいという方は、条件を満たす外国の動物看護関係の学校を卒業したり、「愛玩動物看護師国家資格」に相当するとされる海外の免許を取得したりすることで、愛玩動物看護師試験の受験資格を得られます。

これから愛玩動物看護師を目指す方へ

愛玩動物看護師国家試験の実施は1年に1度だけです。

国家資格と聞くと身構えてしまう人もいるかもしれません。しかし、指定された学校・養成所ではしっかりとしたカリキュラムが組まれているため、私が学校に通っていたころとは比べ物にならないほど幅広い知識や技術を学ぶことができます。そのカリキュラムをしっかりとこなすことで、国家資格の取得という結果につながることと思います。その上で、愛玩動物看護師として大事なコミュニケーション能力などを磨いてください。

獣医師の指示のもとで診療の補助業務が行える資格は、愛玩動物看護師のみです。国家試験を突破することで、動物の治療のサポートにおける幅広い場面で活躍できるようになります。今まで以上に、やりがいを感じる機会も増えてくるでしょう。

担うことのできる業務が広がり、期待が高まる職業となった愛玩動物看護師。

この記事を読んで愛玩動物看護師を志す人が1人でも増えると嬉しいです。

・連載記事
動物にかかわるお仕事紹介:愛玩動物看護師とは?【第1回】知っていますか? 新たに誕生した国家資格・愛玩動物看護師 – いきもののわ (midori-ikimono.com)

【執筆】
旭 あすか(あさひ・あすか)
1988年生まれ。IPC国際ペットカルチャー総合学院を2011年に卒業後、りんごの樹動物病院(愛知県安城市)にて動物看護師として勤務。2017年動物看護師長に就任。院内の働き方や動物看護師の業務の改善を進める。2023年に愛玩動物看護師免許を取得。その他、世界基準の心肺蘇生~獣医蘇生再評価運動(RECOVER)を2018年に修了。院内業務にとどまらず、おもに臨床病理学(糞便検査、尿検査、血液塗沫など)分野の愛玩動物看護師向けセミナーで講師を務めている。自身のインスタグラムでは「愛玩動物看護師のリアル」を発信し、知識・技術ならびに社会的認知度の向上のために尽力している。
Instagram:asahi_asuka_vnca