サプリメントと医薬品の相互作用
2012年に行われた、消費者の「健康食品」の利用に関する実態調査によると、34~46%が「健康食品」を医薬品と併用しており、特に70代では約67%が併用しているとの結果でした。さらには「健康食品」を利用している通院者のうち約80% が、医薬品の処方をしている医師に健康食品の利用を伝えていないという、驚きの結果でした。
ここから、ペットにおいても同様の認識を持つ飼い主さんも多いことが推察されます。実際に、サプリメントを安易に与えてしまっていたり、誤って飲んでしまったりという事例も、臨床現場では度々報告されています。結果的に相乗効果でよい結果が得られればよいのですが、副反応(副作用の中で悪い作用のこと)が出る場合もあるため注意が必要です。
ペットに使われていた人用サプリメント・医薬品
人用サプリメントだけでなく、人用医薬品もペットに悪い影響を与えているケースがあります。
2016年に、イギリスの保険会社MORE THANが、イギリス国内に暮らす犬や猫の飼い主1000人に対するアンケート調査を行いました。
結果、約5%の飼い主がプロテイン飲料(サプリメント含む)やプロテインバーをペットに与えていることが判明しました。ペットに与えた主な理由は、ペットのスタミナ増強や体形改善が61%、健康改善が35%でした。特に注意すべきは、プロテインパウダー、ダイエット用のサプリ、人用のビタミンです。これらを摂取した約15%の動物が体調を崩したといわれておりますので、むやみに与えるべきではないことは言うまでもありません。
また、約9%の飼い主が人用医薬品を人とは薬物代謝の違うことを考慮せず安易にペットへ与えているという事実も明らかになっています。調査において、ペットに投与されていたことが判明した人用医薬品の中には、動物医療で一般的に使われているものもあったものの、使い方を誤れば命を奪いかねない危険な医薬品も含まれていました。
犬や猫において中毒を起こす可能性のある製品類
犬は雑食ですが、猫は完全肉食であり、祖先の頃から毒を持たない生き物を食べてきたため、毒への耐性がつきませんでした。猫はまた、解毒に必要である肝臓のグルクロン酸抱合という代謝機構に関わる酵素が一部欠損しているなど、解毒能力も発達しませんでした。このような理由で、薬剤(ペルメトリン系のノミ・ダニ駆除剤など)や植物(観葉植物など)による中毒は、犬より猫のほうが出やすい特徴があります。また、毒物を判別するための味覚が発達していないことも、猫が中毒になりやすい一因のようです。
【ポイント】
・猫は毒物や薬物の代謝が苦手
・特に猫は、観葉植物などでも毒物になる
・特に猫において、ペルメトリン系のノミ・ダニ駆除剤を誤用しないように注意する
・特に猫において、人用の医薬品・サプリメントなどを誤飲させないようにする
犬や猫で中毒を発現させる可能性のある製品類を、「動物用薬剤」「人用サプリメント」「食品」「エッセンシャルオイル・アロマオイル・植物」の順で紹介していきます(栗田吾郎、2018)。
これらを確認の上、犬や猫に与えたり誤飲させたりしないよう注意してください。
■動物用薬剤(高用量や個体差によって中毒を発症する可能性があるもの)
・ペルメトリン
具体例:ノミ・ダニ駆除剤、蚊の忌避作用をもつ外用薬。
猫に対しては外用薬の使用も避けるべきであり、舐めると特に強い中毒となります。同居犬に処方されている場合には、特に注意が必要です。
・NSAIDs:非ステロイド系消炎鎮痛薬
具体例:鎮痛剤など。
猫はNSAIDsの代謝が苦手なため、犬よりも代謝が遅く、結果として腎機能障害などの副反応を起こしやすくなっています。また、NSAIDsの代謝にはタウリンが使われるため、ホームメイド食などで暮らしておりタウリン不足の猫には特に注意が必要となります。
猫で認可されている薬剤としては、メロキシカムや、ロベナコキシブなどが該当します。
・犬猫用以外の薬剤:メタアルデヒド軟体動物駆除剤
メタアルデヒド軟体動物駆除剤は、メタアルデヒドはキャンプ用固形燃料などとしても使われるますが、犬や猫が摂取すると消化器症状や神経症状などが発現します。
■人用サプリメント
・脂溶性ビタミン(A、D、E)
具体例:ビタミン(A、D、E)やマルチビタミンの人用サプリメント。
人用サプリメント(特に海外製は注意)は各種の過剰症を引き起こる可能性があるので、サプリメントは必ずペット用を与えましょう。また、ビタミンDは犬と猫どちらにも腎機能障害の危険性があるので注意が必要です。
・ニンニク系サプリメント
具体例:人用の健康食品。
犬や猫が摂取することで、ネギ中毒と同じく、溶血性貧血を引き起こします。
・αリポ酸
具体例:人用のダイエットサプリメント。
猫に対して毒性が強く、肝不全となる可能性があります。猫が好む匂いなので注意が必要です。
・メラトニン
具体例:海外製メラトニン。
人用のメラトニンの中には、人工甘味料として犬や猫で低血糖を発現するキシリトール入りのものがあるので注意が必要となります。詳しくは、後述の「キシリトール」の項目を参照してください。
・鉄
具体例:肥料、サプリメント、脱酸素剤(食品などの密閉容器の中を脱酸素状態にする薬剤のうち、鉄の酸化を利用して酸素を吸収するもの)など。
毒性量の鉄を摂取すると、非常に有毒となります。投与量は複合的に検討されます。犬が鉄中毒になると、嘔吐、下痢、血便、無気力、腹痛、ショック、振戦などを引き起こします。
・亜鉛
具体例:サプリメント、亜鉛メッキ金属製品(ナット、ボルト、ハードウェアなど)、亜鉛含有軟膏、コインなど。
犬や猫において危険なほか、鳥類などにおいても危険です。亜鉛中毒は、赤血球の破壊、肝臓の損傷、腎不全、および心不全につながる可能性があります。亜鉛中毒の臨床徴候には、衰弱、貧血、黄疸、嘔吐、呼吸や心拍数の増加、尿変色(黄疸)、食欲不振や食欲廃絶、時に死亡などがあります。亜鉛中毒の治療は、亜鉛製品の摘出またはキレート処置となります。
・カルシウム
具体例:ビタミンD3含有カルシウムサプリメント。
一般的に、カルシウム単体では消化管からの吸収は不十分ですが、ビタミンD3と併用すると吸収が促進され、毒性のリスクを大幅に増加させます。犬の中毒の臨床徴候には、多飲および多尿、吐き気、嘔吐、下痢または便秘、そして高用量での急性腎不全などがあります。
・5-ヒドロキシトリプトファン(5-HTP)
具体例:OTC医薬品(Over The Counter:市販薬を指す)に分類されるサプリメント。
アフリカ原産のグリフォニアという植物から抽出された成分である5-HTPは、セロトニン前駆物質です。人に対する効能としては、セロトニンの増加による抑うつへの効果があります。犬や猫に対する毒性としては、行動の変化、ふるえなどの神経筋活動の増加などがあります。なお、うつ病治療薬である選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)も皮膚病や問題行動等の治療で用いることもありますが、犬や猫において同様の作用を発現することもありますので注意が必要です。
・その他の人用サプリメント
麻黄(人用の生薬として用いられる。鼻詰まりに効果のある成分であるプソイドエフェドリンや、気管支喘息に効果のある成分であるエフェドリンが含まれる)、亜麻仁油(亜麻の種子から作られる)、ペニーロイヤルオイル(ハーブの精油。犬や猫において肝不全を引き起こす)なども、犬や猫が摂取すると中毒を発現する可能性があります。
■人の食べ物・飲み物
・キシリトール(人工甘味料)
具体例:食品(プリン、ゼラチンスナック、ソース、シロップ、ジャムなど)、ガム、キャンディー、ミント系マウスオオッシャー、歯磨き粉、サプリメント(無糖チュアブルマルチビタミン、魚油、メラトニン)など。
キシリトール含有量は製品によって異なります。犬や猫が中毒量を摂取するとインシュリンの急激な放出が起こり、急性の低血糖や急性肝障害が発現します。2018年に、2000人の飼い主を対象に行われたイギリスの調査では、およそ8%の人が犬の口臭予防として人用の歯磨き粉を使っていることが判明しましたが、人用の歯磨き粉にはキシリトールが含まれているものもありますので注意が必要です。
・香辛料
具体例:コショウ、ペッパー、とうがらし、カレー、タバスコ、わさびなど。
犬や猫において、胃腸炎や内臓障害の原因になる可能性があります。犬の食糞症を防ぐためとうがらしを用いる民間療法がありますが、栄養学的には与えるべきではありません。とうがらしを使わず、しつけ不備や消化吸収障害を考慮する方が良いでしょう。
・アボカド
アボカドの果実、種、葉などに含まれるペルシンは、犬や猫のほか、ウマ、ウシ、フェレット、鳥などのペットや家畜において摂取すると中毒症状を起こし、けいれんや呼吸困難などに陥ることがあります。
・キウイフルーツ
キウイフルーツは、マタタビ科マタタビ属の果実です。マタタビの仲間なので、猫において匂いに反応し、興奮作用を発現することがあります。
・生や大量のレバー
レバーは、脂溶性ビタミンAおよびビタミンB群が豊富に含まれているため、過剰分は排出されずに体内に蓄積されます。これにより「ビタミンA過剰症」となり、骨の変形などを発現することがあります。
・塩分
具体例:缶詰、スナック菓子、フライドチキン、ハンバーガーなど。
体の小さな犬にとっては、人の食べものの塩分濃度は高すぎます。急性食塩中毒に陥り、嘔吐、ふらつき、下痢、昏睡などの症状が引き起こされる可能性があります。
・マカデミアナッツ
具体例:マカデミアナッツ入りのチョコ、クッキー、ケーキなど。
原因物質は特定されていないものの、マカデミアナッツによって歩行不全、筋肉の弱化、呼吸困難、ふるえ、四肢の腫脹といった症状が引き起こされる可能性が指摘されています。
・ポリフェノールカテキン(主な成分のエピガロカテキンガレートが56~72%配合)
具体例:緑茶、抹茶など。
空腹状態の犬に対して、様々な濃度で中毒を発現します(満腹では発現が確認されていません)。中毒症状としては、肝細胞・消化管上皮細胞・ 腎臓の尿細管の壊死、生殖器の萎縮、造血組織の萎縮と壊死などが確認されており、中には死亡する犬もいます(Kapetanovica IM et al, 2009; Kuei-Meng Wu et al, 2010)。
・カフェイン
具体例:コーヒー、強壮剤など。
中枢神経に対する強い興奮作用をもちます。犬においては、頻脈、過呼吸、興奮、ふるえ、けいれん、不整脈などが考えられます。犬や猫における致死量は、体重1kgあたりおよそ150mgと推計されます。
・アロエベラ(アロエ属の多肉植物)
具体例:生薬、食品(ゲル、ジュース)、外用薬(ジェル)など。
マンナン、アンスロン、アントラキノン配糖体、レクチンなどの成分による効能をもちます。犬や猫においては、中毒になると、嘔吐や下痢、食欲不振、尿色の変化、まれに振戦を発現します。
・アルコール
人のアルコール性肝炎のように肝機能障害を発現するため、与えるべきではありません。しかしながら、ペットにアルコールをわざと摂取させ、ふらついている様子をSNSに投稿するような悲しい事例があります。
・アワビ
アワビの肝(中腸腺)には、ピロフォオホルバイドという成分が含まれ、この成分が血中に流れると日光にあたる耳の先端などで活性化した酵素が細胞を破壊して皮膚炎となります。光線過敏症であり、ときに皮膚の壊死をきたします。
■エッセンシャルオイル・アロマオイル・植物
※エッセンシャルオイル(精油)は、植物から抽出した天然物質です。
※アロマオイルは、エッセンシャルオイルをアルコールやキャリアオイルで薄めたものです。
・インドセンダン油
具体例:ニームオイル。
犬や猫においてノミの駆虫薬として使われることもありますが、経口摂取をすると無気力、流涎、ふるえなどの症状を引き起こします。
・フトモモ科の植物
具体例:ティーツリーオイル。
Khan SAらの報告では、ティーツリーオイルを与え中毒症状を起こした犬337頭および猫106頭(合計443頭)を調査したところ、意図的に与えられたケースが約90%でした。投与法としては、皮膚への塗布が50%であり、他は経口のみや塗布+経口の両方でした。主な症状としては、流延、麻痺、運動失調、ふるえなどの中枢神経症状がありました。調査対象となった事故のほとんどにおいて、意図的に与えられていることから、人用の製品を安易に与えたか、もしくはティーツリーオイル配合のペット用シャンプーなどの商品(すべての犬猫で発現するわけではない)を利用した可能性があります。(Khan SA et al, 2014)
・ポプリ
具体例:リフレッシャーオイル(花、木くず、果実、葉、キノコ、スパイス、苔などの混合物)。
犬や猫において、消化器症状を起こします。
・その他のエッセンシャルオイル
具体例:チョウジ油、ユーカリオイル、ペパーミントオイル、パイン精油など。
オイルの種類により症状は異なりますが、犬や猫が摂取すると、流涎、沈うつ、ふるえ、脱毛などの症状が引き起こされる可能性があります。
・ゲルセミウム属の植物(ジャスミンなど)
つるに神経毒(アルカロイド、ゲルミン、センペルビリンなど)が含まれます。犬や猫が摂取することで、筋肉衰弱、麻痺、呼吸数の低下、低体温、嚥下困難や呼吸困難、視力障害、発作、死亡などを引き起こします。
・アマリリス
犬や猫が摂取することで、低血圧、呼吸抑制などを発現します。
・ポインセチア
ポインセチアには、フォルボールという毒性成分が含まれます。特に猫において、摂取すると下痢、嘔吐、皮膚炎などが引き起こされます。
・その他の植物
犬や猫がシクラメン属の植物を摂取すると、流涎、嘔吐、下痢、アレルギーなどが引き起こされる可能性があります。また、スパティフィラム属の植物を摂取すると、口腔内潰瘍などが引き起こされる可能性があります。
次回は「サプリメントを与える際の工夫」について取り上げます。
【執筆者】
小沼 守(おぬま・まもる)
獣医師、博士(獣医学)。千葉科学大学教授、大相模動物クリニック名誉院長。日本サプリメント協会ペット栄養部会長、日本ペット栄養学会動物用サプリメント研究推進委員会委員、獣医アトピー・アレルギー・免疫学会編集委員、日本機能性香料医学会理事・編集委員他。20年以上にわたりペットサプリメントを含む機能性食品の研究と開発に携わっている。
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