「家を守る」と書いてヤモリ
ヤモリと聞くと、民家の壁や街路樹にくっついている姿を思い浮かべる人が多いでしょう。ヤモリは家を守ると書いて「家守(ヤモリ)」です。家に集まる害虫を食べてくれることから名付けられたのでしょう。
ヤモリは爬虫類の仲間です。井戸を守ると書く「井守(イモリ)」とよく混同されるのですが、イモリは両生類であり、基本的に水辺で暮らします。名前は似ていますが、まったく異なる生きものです。
忍者のような能力の数々
ヤモリは扁平な体をしており、小さな隙間でも器用にくぐり抜けることのできる、まるで忍者のような生きものです。
忍者のような要素は他にもたくさんあります。例えば、天井であってもペタペタと這うことができるのです。その秘密は足の裏にあります。足の裏に非常に細かな毛が生えており、この毛と壁の間にファンデルワールス力と呼ばれる分子間力が働くことでくっついているのです。この毛のおかげで、ツルツルのガラス面であっても移動できます。
ヤモリは、体色を変えることも得意です。夜間のヤモリはだいたい白っぽい体色ですが、日中は異なる体色になっているのです。日中にヤモリと出会うことは少ないですが、夜間の活動に備えて体温を高めるために日光浴をしている姿を、ときどき目にすることができます。そのとき、樹木にくっついているヤモリは樹皮に似た色になっていたり、太陽をよりよく吸収できるように茶色っぽく変化していたりするのです。
灯りの近くは良い狩場
ヤモリは昆虫やクモ類などを主食としているため、街灯などの虫が飛んでくる灯りには多くのヤモリがやってきます。灯りの強い場所には成体の大型個体が陣取り、小さな個体や幼体は灯りから少し離れた場所にいておこぼれを狙います。地面に糞がたくさん落ちているのは、良い餌場のあかしです。
メスのヤモリは、一度に2個の卵を産みます。建物の隙間に入り込み、戸袋、天井裏、物置などの人目につかない場所に産卵するのです。卵から孵化したヤモリは、すぐにさまざまな場所にくっつく生活をはじめます。産まれたばかりのころは小さなクモなどを食べながら脱皮を繰り返し、どんどんと成長します。不意に敵に襲われて尻尾を失ってしまっても、2、3ヵ月あれば再び生えてきます。
ニホンヤモリは国内に広く分布していますが、もともとは外来種だったと言われています。侵入時期はかなり古く、私が生まれるよりもはるか昔から日本で暮らしている大先輩です。侵入経路は不明ですが、おそらく物資に紛れ込んできたのでしょう。
今回紹介したニホンヤモリ以外にも、日本にはまだまだ多くのヤモリの仲間が暮らしています。これからも新しい仲間を紹介していきます。
【文・写真】
関 慎太郎(せき・しんたろう)
1972年兵庫県生まれ。自然写真家、びわこベース代表、日本両棲類研究所展示飼育部長。身近な生きものの生態写真撮影がライフワーク。滋賀県や京都府内の水族館立ち上げに関わる。
『日本のいきものビジュアルガイド はっけん!』シリーズ(ニホンヤモリ、ニホンイシガメ、オオサンショウウオ、ニホンアマガエル、オタマジャクシ、イモリ、トカゲ)、『野外観察のための日本産両生類図鑑 第3版』『同 爬虫類図鑑 第3版』、『世界 温帯域の淡水魚図鑑』『日本産 淡水性・汽水性エビ・カニ図鑑』(いずれも緑書房)、『うまれたよ!イモリ』(岩崎書店)、『日本サンショウウオ探検記 減り続ければいなくなる!?』(少年写真新聞社)など著書多数。最新刊『日本のいきものビジュアルガイド はっけん! 小型サンショウウオ』(緑書房)が2023年9月29日に発売。
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