「乳がんで苦しむ猫をゼロにする」キャットリボン運動を知ろう

キャットリボン運動ってなに?

猫にも、人と同じように乳がんがあるってご存じでしたか?

「キャットリボン運動」は、人間の乳がんの啓発運動である「ピンクリボン運動」にちなんで名づけられた、猫の乳がんの啓発運動です。

2019年に、動物のがん専門獣医師である小林哲也先生(日本小動物医療センター付属日本小動物がんセンターセンター長、米国獣医内科専門医[腫瘍学])が代表を務めるJVCOG(日本獣医がん臨床研究グループ)によって、猫の乳がんの正しい知識を普及させることを目的にはじまりました。現在では、猫好きの獣医師や愛玩動物看護師を主体としたメンバーが、インターネットやイベントを通してさまざまな情報を発信しています。

日々がんと戦う猫たちとご家族に寄り添う獣医師たちの、「乳がんで苦しむ猫をゼロにしたい!」という思いから、「キャットリボン運動」は立ち上がりました。

乳がんは猫に最も多いがんのひとつ

近年では猫も人と同じように長寿化しており、高齢期でも元気な猫も珍しくありません。筆者も21歳の高齢猫と暮らしています。

高齢期の猫で気になるのは、やはり病気のことです。2022年に日本の動物病院のデータを集めて分析したところ、腫瘍(がん)で亡くなる猫は全体の20%、腎臓系の病気に次いで2番目に多い死因であることがわかりました(表1)。

表1:猫の死亡原因
(出典:日本獣医師会雑誌 第75 巻e128~e133, 2022)

そして乳がんは、猫に最も多い腫瘍のひとつです(図1)。

図1:日本における猫の悪性腫瘍トップ10
(出典: Veterinary Oncology Vol.8, Interzoo, 2015)

猫の乳がんは、人の乳がんと同じように、乳腺という母乳を分泌する組織にできる腫瘍です。猫の乳腺にできるしこりのうち、約8割が悪性腫瘍と言われています。

猫の乳腺は、左右4対、合計8個あります。前肢の付け根(人でいう脇の下)あたりから、後肢の付け根あたりまで、胸からおなかにかけて広く分布しています。

他の腫瘍と比べると身体の表面にできるので、初期段階では症状がなく、多くは猫自身も気にしていません。さらには胸からおなかはご家族が日ごろ頻繁に触る場所ではないため、しこりがかなり大きくならないと気がつかず、乳がんが進行してしまった段階で動物病院に連れてこられることも少なくありません。

しかし猫の乳がんは、「いかに小さいうちに発見して治療するか」が予後に、つまり生存期間に大きく影響することがわかっているのです。

乳がんの基礎知識

どんな猫に多いの?

猫の乳がんは中高齢期で発生することが多く、中央値は12歳です。99%においてメスに発生します。ただし、ごくまれにオスにも発生することに注意しなければなりません。

早めの不妊手術が発生率を低下させる?

性ホルモンと関係があり、はやめの不妊手術が乳がんの発生率を低下させることがわかっています(表2)。

表2:猫の乳がん発生低下率
(出典 : Overlay B, JVIM, 2015)

同時に複数できることも?

猫には8つの乳腺があるため、それぞれに乳がんができる可能性があります。同時に複数の乳がんが発生することもあるので、しこりをひとつ見つけたら、他の乳腺にもしこりがないか確認する必要があります。33~60%の猫において、乳がんがひとつ見つかった場合、他の乳腺にも乳がんが発生していると報告されています。

猫のご家族に知ってほしいこと

しこり(乳がん)の大きさ

最初は小さいしこりであるがんは、経過とともにだんだん大きくなります。治療を開始したときにすでにしこりの大きさが2センチメートルを超えていた場合は、生存期間が短くなることがわかっています(図2)。

がんが小さいうちに見つけて治療を開始することが、とても大切なのです。はやく見つけてあげられたら、様子見をせずに、速やかにかかりつけの動物病院に相談してください。

図2:腫瘍の直径と生存期間の中央値
(出典:McNeill CJ, JVIM, 2009)

治療方法

猫の乳腺は「リンパ管」と呼ばれる細い管でつながっています。そのため、乳がんを見つけて手術を受けることにした場合、片側もしくは両方の乳腺をすべて切除することが、再発防止のために有効なことがわかっています。

「小さなしこりを取るのにおおきな傷をつけるのは、痛そうだしかわいそう」という気持ちはわかります。それでも、その先の愛猫との暮らしのためには、ご家族には勇気ある決断をしていただきたいです。

「乳腺マッサージ」をしよう!

乳がんはおうちで見つけられる病気です。定期的に愛猫とスキンシップをとりながら乳がんチェックをする習慣を、ぜひ取り入れてみてください。コツは、嫌がる猫には無理やりするのではなく、お互いにふれあいを楽しむことです。目安となる頻度は月1回ですが、乳腺は8個ありますから、2、3日ごとに1個ずつチェックするのでも十分です。

① 猫ちゃんの機嫌がいいときにしましょう!

「なでて~!」とすりすりしてくれるときが最適です。

② 猫ちゃんを仰向けにします(図3)。

お膝で挟むような形や、片方を下にするようにごろんとした体勢でもOKです。

図3:乳腺マッサージを行う体勢

③ 猫ちゃんの乳腺は広範囲。脇の下から後肢の付け根までまんべんなく触りましょう。

くるくるなでてみたり、皮膚を指でつまんでみたり、乳首以外は何も触らないことを確認しましょう。「上からチェックする」「下からチェックする」など、いつもの順番を決めておくと、もれなくマッサージできますよ。

図4:脇の下から後肢の付け根までまんべんなく触りましょう

④ 猫ちゃんが途中で飽きちゃったときは、即終了! 

続きは、また次回。

お手本動画:https://youtu.be/5_oQOhiPGLk

キャットリボン運動の3つの活動

キャットリボン運動は「ご家族に向けた活動」「獣医師に向けた活動」「乳がんの研究」の3つの活動を中心にしています。

また、10月22日をキャットリボン運動の日と定めて、毎年イベントを行っています。

人の乳がんの「ピンクリボン運動」月間である10月の、にゃんにゃん(22)の日に定めました。

ご家族に向けた活動

より多くのご家族が小さいしこりを見つけられるように、ウェブサイトやイベントなどを通して「乳がんの早期発見・早期治療」「おうちでの乳腺マッサージのすすめ」の情報発信をしています。

また「2センチメートルになる前にしこりを見つけてほしい!」という思いから直径2センチメートルのキャットリボン運動ロゴのピンバッジをチャリティグッズとして販売しています(写真1)。

筆者も実際にピンバッジをつけていたら、知人に「それはピンクリボンですか?」と話しかけられて、「実は猫のキャットリボン運動で……」と話がふくらんだことがあります。

この運動に関わっている猫好き獣医師による「いろんな猫柄があったらかわいいのでは……?」という猫愛から生まれた「10猫柄」のセットもあります。

写真1:キャットリボン運動ロゴのピンバッジ

獣医師に向けた活動

猫の乳がんの標準的な治療法を普及するために、がんの専門家が集まるJVCOG(日本獣医がん臨床研究グループ)の理事による獣医師・動物病院スタッフ向けの学術講演や、記事の執筆などをしています。

また、動物病院を通してキャットリボン運動を啓発するための活動をしています。この活動に賛同する動物病院では、院内ポスターやステッカー、SNSなどを通してキャットリボン運動についてご家族にお伝えいただいています。

乳がんの研究を進める

JVCOGの主事業として、日本における乳がんの臨床研究促進をしています。

この活動を応援したい!と思ったら?

「キャットリボン運動を応援したい!」と思った方は、まずは、愛猫の乳がんマッサージを始めてみてくださいね。

そのほか、「猫たちのためにできることがあればやりたい、この運動をサポートしたい」という気持ちを持った方は、お知り合いの愛猫家にお伝えしたり、SNS等でこの記事をシェアしてさらに多くの愛猫家の皆さまに届けてください!

その他、キャットリボン運動のことをもっと知りたい方や、チャリティグッズが欲しい方は、ぜひ公式サイトをご覧ください。

キャットリボン運動 公式ホームページ
https://catribbon.jp/

【執筆者】
井上 舞(いのうえ・まい)
ロイヤルカナン ジャポン合同会社の学術担当獣医師。ねこ医学会理事、一般社団法人日本がん臨床研究グループ事務局キャットリボン運動実行委員などを務める。