樹洞で子育てをするカエル
子育てをするカエルがいることを知っていますか?
アイフィンガーガエルは、沖縄県の西表島と石垣島に暮らすカエルです。国外では台湾にもいます。「日本のカエル」というイメージを抱きづらい変わった和名は、記載者がドイツ人の昆虫学者アイフィンガー氏に献名したことに由来します。
大きさは3~4センチメートルほど。普段は樹上で暮らしています。大雨の日に路上にいるのを発見したことはあるものの、まず地面では見られません。
樹洞に水が溜まるような南国特有の環境を生息場所としています。これは、水の溜まった樹洞の、水面よりすこし上の幹肌に産卵するためです。
卵は産卵後しばらくすると乾燥してきますが、そばにいるメスが水に浸かってから卵に触れることで湿らせます。
幼生は卵を食べて育つ
こうして無事に孵化した幼生(オタマジャクシ)は、直下の水溜まりに落ちて生活をはじめます。樹洞のような特殊な環境には餌となる生きものが少ないため、ここでメスが大事な役割を果たします。
メスが水にお尻を浸すと、幼生が集まってきてお尻をつつきます。すると、つつかれたメスのお尻から未受精卵が出てくるのですが、幼生はこの卵を食べるのです。アイフィンガーガエルは、卵を食べないとうまく育てない変わったカエルなのです。
幼生は卵を食べやすいように、口が上向きについている変わった形態をしています。顔つきもいかつめです。
意外なところで見つかるかも
「ピッ、ピッ、ピッ」と断続的で特異な鳴き声は、静かな森林に遠くまで通ります。樹上で暮らしているため、鳴き声を頼りに探してもなかなか見つけることができません。見つけたときには、次のフィールドワークのモチベーションに繋がるような、かけがえのない嬉しさを感じるほどです。
こう書くと難しく思われてしまうかもしれませんが、じつは身近で見つけられることもあります。アイフィンガーガエルに関しても、暮らしているのは山中ばかりではありません!
「特殊な環境」とは書きましたが、これまでにさまざまな場所でアイフィンガーガエルの卵を見つけてきました。捨てられて雨水が入ったコップ、内側に水が溜まった古タイヤ、壊れたガードレールの支柱部分など……。思いがけない観察ポイントに出会えるのも、フィールドワークの醍醐味ですね。
【文・写真】
関 慎太郎(せき・しんたろう)
1972年兵庫県生まれ。自然写真家、びわこベース代表、日本両棲類研究所展示飼育部長。身近な生きものの生態写真撮影がライフワーク。滋賀県や京都府内の水族館立ち上げに関わる。
『日本のいきものビジュアルガイド はっけん!』シリーズ(ニホンヤモリ、ニホンイシガメ、オオサンショウウオ、ニホンアマガエル、オタマジャクシ、イモリ、トカゲ)、『野外観察のための日本産両生類図鑑 第3版』『同 爬虫類図鑑 第3版』、『世界 温帯域の淡水魚図鑑』『日本産 淡水性・汽水性エビ・カニ図鑑』(いずれも緑書房)、『うまれたよ!イモリ』(岩崎書店)、『日本サンショウウオ探検記 減り続ければいなくなる!?』(少年写真新聞社)など著書多数。最新刊『日本のいきものビジュアルガイド はっけん! 小型サンショウウオ』(緑書房)が2023年9月29日に発売。
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