はっけん! 日本の爬虫類・両生類【第10回】ヒメハブ Ovophis okinavensis(Boulenger, 1892)

未確認生物である「ツチノコ」は、姿形の似通った目撃情報が日本全国にあります。実在するならばぜひ見てみたいものですが、欲深い私には見えないのかもしれません。

いまだにツチノコの目撃には至っていない私ですが、代わりに日本に暮らす数多くのヘビを見てきました。そのなかでも一番ツチノコの姿形に近いのは、おそらく今回紹介する「ヒメハブ」でしょう。

その姿は、まるでツチノコ?

ヒメハブは奄美諸島と沖縄諸島に分布するヘビです。奄美大島や沖縄島北部などの森では、降雨時の夜間に林道を車で走っているとよく目撃します。本州には分布しないため、人によっては馴染みが薄いかもしれません。

さて、その姿はというと……まるでツチノコです。太く短い胴に、ちょろりとした尻尾がついています。

写真:胴が太く短く、尻尾が細長い姿はまるでツチノコ

このヘビは、近づくと飛び掛かるようにして攻撃してくる上に毒をもっており、嚙まれると厄介ですので、見かけたときにはなるべく遠くからの観察に留めてください。本州のヘビに例えると、ニホンマムシのような立ち位置です。

写真:近づくと飛び掛かるようにして攻撃してくる

冬はカエルの産卵場所を狙う

ヒメハブは無類のカエル好きです。アマミアカガエルやリュウキュウアカガエル、ハナサキガエルの仲間などは、12月から1月の比較的暖かい雨の夜を狙って、一斉に集まって産卵します。この産卵は数日で終わります。集まったカエルを効率的に捕食するために、ヒメハブはこの貴重な日を狙って産卵場所に集まります。私がカエルの産卵シーンを見るために特等席を陣取ろうとすると、その場所にはいつもヒメハブが先に鎮座しているため、思わず後ずさりをしてしまいます。陣取りにも、上には上がいるのです。粘り強いのか横着なのか、私が2日間通ってもまったく動いていない個体もいました。

写真:無類のカエル好き

本州に比べると暖かい奄美大島や沖縄の冬ですが、それでも肌寒くなる日があります。しかしヒメハブは低温への耐性が非常に高いようで、ほとんどの本州のヘビが土に潜って寝ているような日にも活動できるのです。もしかしたら、根性で動いているのかもしれません。

子ヘビを産むことも

ヒメハブは産卵から少しの間、親が卵を保護することも知られています。多くの場合は薄い殻に包まれた卵を産むヒメハブですが、ときにはお腹の中で孵化した子ヘビを産むこともあるようです。こんなに太くて短いヘビのお腹に子どもがいるところを想像してみると、ますます太くビール瓶のようになりますよね。まさしく、ツチノコです。

写真:お腹の中で孵化した子ヘビを産むこともある

【文・写真】
関 慎太郎(せき・しんたろう)
1972年兵庫県生まれ。自然写真家、びわこベース代表、日本両棲類研究所展示飼育部長。身近な生きものの生態写真撮影がライフワーク。滋賀県や京都府内の水族館立ち上げに関わる。『日本のいきものビジュアルガイド はっけん!』シリーズ(ニホンヤモリ、ニホンイシガメ、オオサンショウウオ、ニホンアマガエル、オタマジャクシ、イモリ、トカゲ、小型サンショウウオ)、『野外観察のための日本産両生類図鑑 第3版』『同 爬虫類図鑑 第3版』、『世界 温帯域の淡水魚図鑑』、『日本産 淡水性・汽水性エビ・カニ図鑑』(いずれも緑書房)、『うまれたよ! イモリ』(岩崎書店)、『日本サンショウウオ探検記 減り続ければいなくなる!?』(少年写真新聞社)など著書多数。最新刊『日本のいきものビジュアルガイド はっけん! カナヘビ』(緑書房)が2024年3月29日に発売。