3万匹のカブトムシ⁈ 茨城にあるカブトムシの養殖場

風光明媚な山や湖をもち、自然が豊かな茨城県かすみがうら市。実はここで、カブトムシが養殖されていることをご存知ですか?

全国の昆虫好きにカブトムシ・クワガタなどを届けているミタニさんに、カブトムシの養殖方法や、販売するときの工夫、飼育用品の開発秘話などについてお聞きしました!

写真:ミタニの三谷将史さん

昆虫を届けつづけて約55年!

当社は、「昆虫を全国の子どもたちに届けたい」という想いから1968年に創業されました。創業当時は、夏祭りの露店などへの昆虫の卸売業が主でした。

現在では全国のホームセンターなどで、自社の養殖場で育てた国産カブトムシの他、自然から採集したカブトムシ・クワガタ、ブリーダーなどから仕入れたカブトムシ・クワガタ、関連製品などを幅広く販売しています。

カブトムシ養殖のスケジュールってどんなもの?

まず、45センチ×65センチ(高さ21センチ)のコンテナに、摺り切りいっぱいの床材(幼虫のエサとなるように調整された土など)と幼虫50匹を入れます。やがて、幼虫が食べることで床材が目減りし、幼虫に押し上げられた糞が表面に目立つようになります。そこに土を足し、また幼虫たちが食べて……という繰り返しで育てていきます。

写真:カブトムシの幼虫

2010年前後に養殖をはじめたばかりの頃は、床材作りにはかなり試行錯誤しました。床材により成虫の大きさが変わりますし、水分量が少し違うだけでコバエが沸いたりカビが生えたりします。近年ではノウハウの蓄積により、かなり安定して養殖できるようになりました。

使用しているコンテナにも工夫があります。たとえば、コンテナの側面には水分調整の水が抜けるように穴が開けてあります。中で育てる幼虫の数も、試行錯誤したポイントです。大きなコンテナなので、50匹以上の幼虫を育てられそうに見えるかもしれませんが、大きく育てるためにはサナギをつくるスペースを考慮に入れる必要があるのです。

写真:1箱あたり50匹が飼育されている(上、下)

幼虫が大きくなったら、温度管理でサナギ化を促します。徐々に室温を暖かくすると、季節が変わったと勘違いした幼虫が蛹室(サナギになるための部屋)を作るのです。幼虫は、蛹室を作るときにギーギーという大きな音を出すので、「今、蛹室を作っているな」と、外からでもわかりますよ。

写真:カブトムシのサナギ

5月中旬にサナギにしたいときは、1~2月から室温を上げていきます。一度に出荷するわけではないので、養殖場の部屋ごとにサナギにするタイミングをずらします。

サナギになってから40~50日間ほどで成虫が羽化します。ちなみに、2024年は3万匹ほど養殖しています。羽化すると養殖場で1000匹ぐらいのカブトムシが一気に動き回るので、壮観ですよ。

写真:養殖場で羽化したカブトムシ(上、下)

羽化した成虫は早めに回収する必要があります。「カブトムシのサナギは独特の振動で他の幼虫を寄せつけないようにして身を守る」という研究結果があるのですが、成虫のカブトムシはその振動を気にしないため、土に潜ったときに他の蛹室を壊してしまうのです。室内でライトをつけて、寄ってきたところを手で集めます。

*国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所 「カブトムシの蛹は振動で身をまもる」 https://www.ffpri.affrc.go.jp/research/saizensen/2011/20111011-01.html

写真:集められたカブトムシ

元気なカブトムシを全国に届けるために、成虫は20℃以下の過ごしやすい環境で管理し、餌をあげて、翌日には出荷します。こうして、5月中旬~下旬ごろに最初の出荷をします。

写真:出荷準備中のカブトムシ

7月頃に自然界のカブトムシが取れたら、そのカブトムシが産んだ卵を来年の養殖に使います。同じ血統をずっと育てているわけではないのです。

実は、クワガタや外国産カブトムシと、国産カブトムシでは、まったく養殖の方法が異なるのです。国産カブトムシの幼虫は喧嘩しませんが、クワガタの幼虫は喧嘩するので、1匹ずつボトルに入れて育てる必要があります。また、国産カブトムシは蛹室を縦に作るのですが、クワガタも外国産カブトムシも基本的には横に作るため、養殖するスペースも必要です。

写真:国産カブトムシの蛹室

弊社で販売しているオオクワガタ、ヘラクレスオオカブト、ニジイロクワガタなどの昆虫は専門のブリーダーから仕入れています。アトラスオオカブトや、外国産のヒラタクワガタなどは、養殖ではなく現地から輸入しています。コクワガタやノコギリクワガタ、国産カブトムシの一部は、日本で採集したものなのです。

1日に1人で200匹を捕獲⁈

茨城県の県西地区の農家の方の協力を受けて採集したカブトムシ・クワガタを販売しています。1人で1日に100~200匹を取るような方々です。日本のカブトムシは6月下旬から8月上旬が採集シーズンですが、満月の日はそちらに虫が飛んでいくので罠にかからないなど、さまざまな要因で捕獲数が変わります。カブトムシのほかにも、ノコギリクワガタ、コクワガタなども採集します。なんと、たまにヒラタクワガタが取れたりもしますよ。

捕獲には発酵臭がする疑似餌を使った罠を使うことがほとんどです。疑似餌に寄ってくる個体は、お腹を空かせているので、出荷前に昆虫ゼリーを豊富にあげるようにしています。

ホームセンターで販売できるようになったワケ

全国のホームセンターやペットショップで販売されています。

写真:ホームセンターの昆虫コーナーで売られているカブトムシ

ホームセンターでの販売をはじめるまでにはハードルがありました。飼育担当者がいるペットショップなどは、10~20匹を大きなケースで飼育できますが、ほとんどのホームセンターでは飼育に専念できる担当者がいないため、管理が難しいのです。「どうしたら販売しやすいか」と考えたすえに、1980年代ごろから、小さなプラスチックケースにオスとメスを一緒に入れる販売方式をはじめました。これなら店頭での世話も楽ですし、子どもたちも好きな個体を間近で選び、ケースのまま持ち帰れます。

昆虫ゼリーや昆虫マットの開発

餌である昆虫ゼリーや、下に敷いたり幼虫の餌にしたりする昆虫マットなども、昔から販売しています。

昔の昆虫マットは、ただの木のおがくずを使っていたりしたので、幼虫の餌にはできませんでした。そこから、自然界での昆虫の生態などを考慮したさまざまなマットなどを開発しました。

例えば当社の定番商品であるクヌギマットは、茨城県霞ヶ浦市のシイタケ業者さんが野晒しにしている原木にカブトムシの幼虫がいたことから開発されたものです。他にも、牛のたい肥にも幼虫がいることから着想を得て、発酵により栄養価を高くしたマットも開発しました。また、コバエなどが嫌がるヒノキ系針葉樹を使ったマットも販売しています。

写真:クヌギが使用された「はじめて昆虫飼育マット」シリーズ

写真:コバエ・ダニ対策として選ばれる「コバエがいやがる昆虫マット 5L」(左)、「防ダニ王 5L」(右)

また、昔は餌として昆虫にスイカなどを与えることが多かったのですが、水分量が多いためカブトムシ・クワガタにあげすぎると良くないですし、飼育環境もベタベタになる上、ハエも寄ってきます。当社では、最初は樹液のような蜜を餌として販売していましたが、やがて昆虫ゼリーを主に販売するようになりました。おもに室内で飼うことから、扱いやすく清潔な昆虫ゼリーは人気があるのです。

写真:さまざまな昆虫ゼリーを取り扱っている

1980年代には、オオクワガタが「黒いダイヤ」として百貨店などで扱われたこともありました。また、2003年に登場したアーケードゲーム『甲虫王者ムシキング』の流行時は、直前の1999年に「植物検疫法」が改定されて外国から昆虫が輸入できるようになったこととあいまって、大きな昆虫ブームが起きました。しかし、そうした突発的なブームを除くと、販売は安定しています。カブトムシ・クワガタの飼育は、多くの子どもが通る道でもありますし、支えてくださる大人のファンの方もいらっしゃいます。また、自分たちでの昆虫採集を楽しんでいる方々が大勢いて、昆虫用品を買ってくださるのです。

昆虫は、卵、幼虫、成虫と何代にもわたって飼育が楽しめます。ギネス世界記録の88ミリメートル(頭角から上羽の先まで)を目指して国産カブトムシを育てたり、お気に入りのフォルムの昆虫を育てて標本にしたり、それぞれの楽しみ方を見つけて飼育にチャレンジしてみてください!

写真:カブトムシの飼育には楽しみ方がいろいろ!

三谷将史(みたに・まさし)
株式会社ミタニ 営業部部長。1985年生まれ、茨城県出身。2021年に営業部長に就任。