猫好きさんにおすすめスポット【第10回】新潟:日光寺「消えゆく猫檀家の伝承」

この連載では猫にまつわる伝承を数多く紹介してきました。このような伝承のうち、寺で飼われていた猫が恩返しとして寺を栄えさせる伝承を「猫檀家」と言います。新潟県糸魚川市にある日光寺にも猫檀家の伝承があるのですが、今にも消えそうになっています。現住職も伝承の詳細は伝え聞いておらず、正確な記録も残っていないのです。住職が覚えていた伝承を次の通り紹介します。

写真:日光寺

消えゆく猫檀家の伝承

その昔、猫が好きな僧が日光寺にいました。その僧は猫をとてもかわいがり、毎日餌を与えていました。しかし、いつしかその猫は病気となり、亡くなってしまいました。

あるとき、とある身分の高い人物が病気となり、占い師を頼ったところ「越後の僧にお経を唱えてもらえば治る」というお告げを受けました。そこで、日光寺で猫が好きな僧にお経を唱えてもらったところ、たちまち病気が回復しました。その人物からのお礼を受け、日光寺はとても栄えました。

はたして、お告げを授けた占い師の正体は、日光寺で可愛がられていた猫だったのでしょうか。かつて油屋を営んでいたという近所の方が詳細を知っているらしいのですが、今は病に伏せており、話を聞くことができませんでした。場所は伝わっていないものの、猫塚も存在するそうです。

少しでもこの記事が、今まさに消えゆく猫の伝承を保存するきっかけになることを願うばかりです。

日光寺

「日光寺けんか祭り」で有名な日光寺は、748年(天平20年)に行基によって創立され、良恵によって開山(かいさん:寺院を創始すること)されました。行基は行脚僧でしたが、この地の南方の山頂に現れた阿弥陀三尊を拝して草庵を建て、本尊となる仏像を刻んだことが伝えられています。

806年(大同元年)には坂上田村麻呂より観音堂が寄進されたそうです。言い伝えによれば、坂上田村麻呂が越路(こしじ:新潟県の中央部の地名)の賊を討伐する際に、本尊を拝して勝利を収めました。すると天皇から大工、左官、絵師が派遣されて、粗末だった寺が再建されたとのこと。

日光寺は古くから神仏習合の形態を保っており、白山神社と合同で開催する日光寺けんか祭りが例祭となっています。この祭りでは、五穀豊穣や豊漁を祈願して、2基の神輿が壊れるほど激しくぶつかり合います。例年では4月の第3日曜日に挙行されていましたが、2024年は中止となりました。

[参考文献]
・小山直嗣著『新潟県伝説集成上越編』,1995年(恒文社)
・一般社団法人新潟県糸魚川市観光協会「糸魚川観光ガイド」2024年5月参照

日光寺

住所:新潟県糸魚川市日光寺377

【執筆】
岩崎永治(いわざき・えいじ)
1983年群馬県生まれ。博士(獣医学)、一般社団法人日本ペット栄養学会代議員。日本ペットフード株式会社研究開発第2部研究学術課所属。同社に就職後、イリノイ大学アニマルサイエンス学科へ2度にわたって留学、日本獣医生命科学大学大学院研究生を経て博士号を取得。専門は猫の栄養学。「かわいいだけじゃない猫」を伝えることを信条に掲げ、日本猫のルーツを探求している。〈和猫研究所〉を立ち上げ、ツイッターなどで各地の猫にまつわる情報を発信している。著書に『和猫のあしあと 東京の猫伝説をたどる』(緑書房)、『猫はなぜごはんに飽きるのか? 猫ごはん博士が教える「おいしさ」の秘密』(集英社)。2023年7月に「和猫研究所~獣医学博士による和猫の食・住・歴史の情報サイト~」(https://www.wanekolab.com/)を開設。
X(旧Twitter):@Jpn_Cat_Lab