雲洞庵に伝わる猫檀家の伝承をご紹介してきましたが、それ以外の伝承も伝わっています。雲洞庵についての連載第3回目では、いまだ場所の確認が取れていない鼠塚・猫塚と、ご本尊にまつわる伝承を紹介します。
猫塚と鼠塚
何百年も生きた大鼠が、手下を従えて雲洞庵に住み着いていました。あるとき住職が大切にしていた袈裟と経文が噛み切られてしまい、とうとう住職は鼠退治を考えるようになりました。ところがその晩、住職は手下を連れた大鼠に襲われてかみ殺されてしまいます。
この鼠を捨て置けぬと、雲洞庵から檀家におふれを出し、村一番の強い猫を借りてきました。隣村からも最も強い猫を借り、2匹の鼠と戦わせました。戦いは明け方まで続き、大鼠は血まみれになって敗れました。調べると、前足と後足に四本の大きな爪を持った大鼠だったといいます。そんな鼠と戦った猫も全身傷つき、その夜に力尽きることとなりました。
雲洞庵では猫と鼠を双方弔い、境内に埋めて「猫塚」、「鼠塚」を建てたといいます。
三毛猫の本尊
昔、山奥の雲洞庵に三毛猫を飼った和尚がいたそうです。この猫が手拭いをかぶって、和尚にこう話しました。
「葬式で他の和尚が拝んでいる間に、棺の中の死んだ婆様に『痛い』といわせて、和尚を呼ばせよう」
このような経緯で和尚は主人に呼ばれ、和尚が拝んだことで無事に葬式が出せました。和尚はこの礼として、寺の位を上げてもらったそうです。このような出来事から、一説によると雲洞庵の本尊は三毛猫だといわれています。
まだ著者も、雲洞庵の猫塚、鼠塚、そして本尊について確かめられていませんが、このような伝承を記した文献の記録として、ここに書きました。
林の中にありながらも整えられた境内の景色は壮観で、見る者の心を浄化するかのようです。さまざまな形で猫の伝承が言い伝えられていたことから、米産地として名高いこの地域では、昔から鼠対策として猫が親しまれていたことが推察できます。しかし、今では猫を飼育する農家は少なくなったからか、庵内でも猫の伝承があることを知らない方もいました。雲洞庵の土を踏みながら、時代の陰にいる猫を慈しむのも良いかもしれません。
[参考文献]
・稲田浩二,小澤俊夫著『日本昔話通観第十巻』,1984年(同朋舎出版)pp402-404
雲洞庵
住所:新潟県南魚沼市雲洞660
【執筆】
岩崎永治(いわざき・えいじ)
1983年群馬県生まれ。博士(獣医学)、一般社団法人日本ペット栄養学会代議員。日本ペットフード株式会社研究開発第2部研究学術課所属。同社に就職後、イリノイ大学アニマルサイエンス学科へ2度にわたって留学、日本獣医生命科学大学大学院研究生を経て博士号を取得。専門は猫の栄養学。「かわいいだけじゃない猫」を伝えることを信条に掲げ、日本猫のルーツを探求している。〈和猫研究所〉を立ち上げ、SNSなどで各地の猫にまつわる情報を発信している。著書に『和猫のあしあと 東京の猫伝説をたどる』(緑書房)、『猫はなぜごはんに飽きるのか? 猫ごはん博士が教える「おいしさ」の秘密』(集英社)。2023年7月に「和猫研究所~獣医学博士による和猫の食・住・歴史の情報サイト~」(https://www.wanekolab.com/)を開設。
X(旧Twitter):@Jpn_Cat_Lab
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