二つの分福茶釜
「分福茶釜」という昔話はご存じでしょうか? 有名な昔話の一つで、群馬県の茂林寺が舞台となっていることで知られています。茶釜に入った狸が綱渡りする面白おかしい姿が大人気の昔話です。これは、茂林寺に伝わっていた昔話をもとに、巌谷小波(いわや・さざなみ:明治~大正時代)が作ったお伽噺だそうです。
このお話と同じように、山形県にある常慶院は「キツネが化けた分福茶釜」の昔話と、蓋のない茶釜が伝わっていることで有名です。テレビアニメとして長期放映された「まんが日本むかしばなし」でも、「狐のくれた分福茶釜」として放送されています。
化け上手のキツネ、弥八郎は化け方の秘伝を書いた巻物を常慶院の和尚さんにしばらく預けると、守ってもらったお礼に茶釜を差し出しました。その茶釜には秘密があり……。
なぜ茶釜の蓋がないのでしょう? 気になる方は、ぜひ米沢市のウェブサイトを訪ねてみてください。https://www.city.yonezawa.yamagata.jp/soshiki/18/2/5/5/678.html

常慶院では、猫の恩返し伝説も伝わっています。こちらのお話も紹介しましょう。
ごんぼとら猫の恩返し
むかし、米沢の南原に常慶院というお寺がありました。ある日、そこの和尚さんが犬に追われた子猫を助け、寺に連れて帰ることにしました。子猫のしっぽはまるで「とら毛のごんぼ」(ごんぼ:ゴボウのこと)。和尚さんは、オコウと名付けて可愛がっておりました。
ところがしばらくすると、毎晩のように夜遊びに出かけ、朝方には何もなかったかのような顔をして戻ってくるように。不思議に思った和尚さんは、小僧さんに猫の後を追うように命じました。すると、行き着いた先は山の奥、十畳敷きもある大岩でした。そこにテン、イタチ、キツネ、タヌキなどの奥山中の獣が集まって、タヌキの腹太鼓でおどっていました。
「常慶院のごんぼとら毛 ござらねと なんだが拍子が 整わね」
猫が到着すると、「常慶院のごんぼとら毛 ござったら 拍子が そろった」と踊るのです。
たまげた小僧さんは、オコウが獣の頭になっていたこと和尚さんに伝えました。朝方、オコウは和尚さんの前にちょこんと座り、話し始めました。
「長らくお世話になったけど、オレは山奥の獣の頭になったから、この寺にはいられね。暇を出してくれ。」
和尚さんは手放しがたい気持ちでしたが、仕方がないという気持ちで快諾することに決めました。
しかし、長年お世話になったのに恩返しができていないことが心残りであったオコウ。和尚さんに、次のように伝えました。「これから亡くなる上杉の殿様の棺を、暗雲立ち込める天上に高く吊り上げる。えらいお坊さんがお経を読んでも、絶対棺は下げない。和尚さんの順番になって、お経の最後に「オコウ、火車」という言葉をつけたら、雲を晴らして棺を下げるから。」
そうして、オコウは寺を去りました。その後、オコウの予言通り上杉の殿様がぽっくり亡くなりました。葬儀中、暗雲が立ち込み雷雨になると、棺が天高く吊り上がりました。お坊さんたちがどんなにありがたいお経をあげても、棺は下がりません。
そこへ南原の常慶院の和尚さんにも声がかかり、お経をあげるように命じられました。オコウの言う通り、お経の最後に「オコウ、火車」と一言付けると、暗雲は晴れて棺は元の蓮台におさまりました。
このおかげで、常慶院の和尚さんはたいへん感謝され、たくさんのお礼をもらったのでしょう。キツネだけではなく、猫からも恩返しを受けるほど、いきものに深い愛情を注ぐ常慶院の和尚さんたち。私が突然訪問したときも、親身にお寺のご紹介をしていただきました。思いやりの心を引き継いできた和尚さんたちが、今も地元に愛されるお寺である所以なのかもしれません。
常慶院
応永5年(1398年)に市川越中守能房「常慶院殿開基臺翁宗鑑大居士」により建立された。現在の長野県下水内郡栄村箕作にあったが、上杉家家臣・市川房綱の遺言により、大坂冬の陣(1614年)に米沢へ移された。常慶院は上杉謙信公で有名な上杉家にゆかりがあることで知られ、キツネがくれた分福茶釜は上杉家の定紋入りの三方に安置されている。

[参考文献]
常慶院パンフレット「参拝のしおり」
稲田浩二、小澤俊夫編、『日本昔話通観』第6巻、同朋舎出版、pp. 127-130、1986年
【執筆】
岩崎永治(いわざき・えいじ)
1983年群馬県生まれ。博士(獣医学)、一般社団法人日本ペット栄養学会代議員。日本ペットフード株式会社に就職後、イリノイ大学アニマルサイエンス学科へ2度にわたって留学、日本獣医生命科学大学大学院研究生を経て博士号を取得。現在は麻布大学獣医学部寄付講座ペットケア&ニュートリション研究室 特任准教授。専門は猫の栄養学。「かわいいだけじゃない猫」を伝えることを信条に掲げ、日本猫のルーツを探求している。〈和猫研究所〉を立ち上げ、SNSなどで各地の猫にまつわる情報を発信している。著書に『和猫のあしあと 東京の猫伝説をたどる』(緑書房)、『猫はなぜごはんに飽きるのか? 猫ごはん博士が教える「おいしさ」の秘密』(集英社)。2023年7月に「和猫研究所~獣医学博士による和猫の食・住・歴史の情報サイト~」を開設。
X:@Jpn_Cat_Lab
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