チョウやガの幼虫であるイモムシ・ケムシ。その姿をじっくり観察してみると、さまざまな魅力にあふれています。多様な生態も興味深く、知れば知るほどイモムシ・ケムシたちの虜になってしまいます。この連載では、身近でありながら不思議がいっぱいの「イモムシ・ケムシの世界」を紹介していきます。
身近な自然のジャンボイモムシ
都市周辺の自然公園や里山でも、さまざまなイモムシ・ケムシが見つかります。中でも、ヤママユガの仲間(ヤママユガ科)は大きく育つので迫力満点です。「ヤママユガ」の名のとおり、サナギになるときには種によってさまざまなマユを作ります。
その中から今回ご紹介するウスタビガの幼虫は、体長6~7センチメートルにもなるジャンボイモムシです。おなじみのアゲハチョウの幼虫は4~5センチメートルなので、ウスタビガの方がかなり大きく育ちます。1年のうち春の終わりから初夏にかけて見られ、クヌギ(ブナ科)、サクラ類(バラ科)、カエデ類(ムクロジ科)などの葉を食べて育ちます。十分に育った幼虫は、独特の形をした美しいマユを作り、その中でサナギになります。サナギはマユの中で半年近く眠り続け、晩秋になると、マユからもふもふの毛に覆われた大きな成虫が誕生します。
脱皮のたびに変身!
ウスタビガは卵で冬を越します。卵は、おもに食樹*の枝などに産みつけられますが、メスが羽化したあとのカラのマユにくっついていることもあります。
*食樹(しょくじゅ):その動物や虫が食べる樹木
春の後半になり気温が上がってくると、卵から1齢幼虫が孵化します。黒くて、ひょろひょろとした短い毛が体全体に生えていて、食樹の若くて柔らかい葉の裏などで見つかります。
脱皮をして2齢になると、黄色と黒色に塗り分けられた姿に変わります。全体に毛が生えていることに違いはありませんが、1齢とはかなり雰囲気が異なり、まるで別の種類のようです。
次の脱皮をして3齢になると、黒い部分がほとんどなくなって、レモンイエローのイモムシに変身です。体のあちこちに水色の突起が生えた、とてもオシャレな姿です。このようなイモムシに野外で出会うと、ファンタジーの世界に迷い込んだようで嬉しくなってしまいます。
さらに脱皮を重ねて4齢になると、今度は、背中側が黄緑色、お腹側が濃い緑色に変わります。食べ盛りを迎え、毎日たくさんの葉を食べて、たくさんの糞を落とし、みるみるうちに大きくなります。
マユに仕組まれた工夫
4回目の脱皮を終えて終齢になった幼虫は、ますます食欲旺盛になり、この記事の最初の写真のようなむちむちボディの大きなイモムシに成長します。
こうして十分に育った幼虫は、やがて口から糸を吐いて袋状のマユを作りはじめます。刺激を受けた幼虫は体を曲げながら「キュー」と音を出すのですが、マユを作っているときにも力が入るのか、ときどき同じ音を出すのが可愛らしいです。
マユがある程度できてくると、幼虫は、マユの上部から身を乗り出して、マユと枝や葉をつなぐ細い部分(繭柄:けんぺい)を丹念に補強します。成虫になるのは半年近く先の晩秋なので、その間にマユが落ちてしまわないように工夫をしているのです。
美しい成虫が誕生
マユを完成させた幼虫は、まもなくマユの中でサナギになり、そのまま夏を越して秋を迎えます。そして晩秋の頃にようやく羽化をして成虫になります。
ウスタビガの成虫は、翅を開くと10センチメートルを超えることもある美しい蛾です。4枚の翅には1つずつ半透明の紋があります。体はもふもふの毛におおわれていて、まるでぬいぐるみのようです。気温が下がり紅葉が進む晩秋の雑木林で、巨大なウスタビガの成虫を見かけると、その美しく可愛らしい姿にとても感動します。
ヤママユガ科のイモムシたち
ウスタビガ以外のヤママユガ科のイモムシたちも、それぞれに魅力的です。次の写真で紹介する4種類は、いずれも身近な自然でも見つけられる可能性のあるイモムシですので、ぜひ探してみてください。
【執筆者】
川邊 透(かわべ・とおる)
1958年大阪府大阪市生まれ。野山探検家、Webサイト「昆虫エクスプローラ」管理人、「芋活.com」共同管理人。身近な自然にひそむ昆虫を中心に、生きもの愛あふれる生態写真を撮り続け、さまざまなメディアで情報発信している。著書に『新版昆虫探検図鑑1600』(全国農村教育協会)、『生きかたイロイロ!昆虫変態図鑑』(共著、ポプラ社)などがある。