不思議なデザイン、奇妙なポーズ
イモムシというと、キャベツ畑で見つかるモンシロチョウの幼虫のように、緑色の細長い生きものが思い浮かびますが、今回ご紹介するヤガ科のアケビコノハの幼虫は、そのイメージとはかけ離れた姿をしています。たいていは黒っぽい色をしていて、体の中心に大きな目玉模様(眼状紋)が2つ並んでおり、背中をくるりと丸め、お尻を大きく突き出した独特のポーズで植物にとまっています。見つけた瞬間は「うわっ、なんだこれ……」と思うかもしれませんが、顔を近づけてよく観察してみましょう。体表には夜空に輝く星々を思わせる細かな斑点が散りばめられていて、お尻の付け根のあたりには、まるで銀河のような網目状の美しい帯模様があります。大きな眼状紋も、はるか彼方で大爆発を起こした超新星のように見えてこないでしょうか? まさに、「宇宙イモムシ」と呼びたくなるような姿です。
身近な自然でも見つかる、この不思議なイモムシが今回の主役です。
フェンスにからまるアケビで育つ
公園や校庭などに設置されたフェンスには、アケビ(アケビ科)、ヘクソカズラ(アカネ科)、ツタ(ブドウ科)、サルトリイバラ(サルトリイバラ科)など、さまざまなつる植物がからまっています。これらの植物ごとにそれぞれ特有のイモムシが見られるので、つる植物に覆われたフェンスは、人知れず、イモムシパラダイスになっていることがあります。
アケビコノハは、フェンスでよく見られる植物のうち、アケビ科のアケビ、ミツバアケビ、ムベを食べて育ちます。
もりもり食べて、むちむちの巨大イモムシに
いつも得意のポーズを決めているアケビコノハですが、運が良いときには、むしゃむしゃとアケビの葉を食べる場面に出会えます。食事中は体を伸ばしているので、普通のイモムシと同じような姿をしています。体を伸ばしたときの長さは、終齢幼虫では7センチメートルを超えることもあります。
たくさんの葉を食べて育った幼虫は、太くてむっちりしており、大きな眼状紋がこちらを見つめているようにも見え、近寄りがたい雰囲気をもっています。この奇妙な模様やポーズには、鳥などの天敵をひるませ、身を守る効果があると考えられます。
成虫は枯れ葉にそっくり
十分に育って老熟した幼虫は、何枚かの葉を綴り、その中で粗いマユを作ってサナギになります。自分が育ったアケビの葉ではなく、クズやツタなど、別の植物の大きな葉を利用することが多いようです。
サナギになってから2週間ほど経つと、成虫が羽化します。成虫の前翅は枯れ葉にそっくりで、葉の先端の尖った部分や、斜めに走る太い葉脈、カビなどが生えて緑色に変色した部分まで再現されており、見事としか言いようがありません。
あまりにも枯れ葉に似ているため、野山で成虫を見つけるのは簡単ではありません。人の気配に敏感なので、せっかく見つけたとしても、すぐに遠くに飛んで行ってしまうこともしばしばです。しかし、夜に灯りに飛んできた個体は、朝になっても壁などにおとなしくとまったままなので、じっくりと観察できる場合があります。
フェンスで見つかるイモムシたち
フェンスにからまるツル植物では、アケビコノハ以外にも、個性的で魅力にあふれた多様なイモムシたちが見つかります。植物におおわれたフェンスの前を通りかかった際には、小さな食いしん坊たちを探してみてください。
【執筆者】
川邊 透(かわべ・とおる)
1958年大阪府大阪市生まれ。野山探検家、Webサイト「昆虫エクスプローラ」管理人、「芋活.com」共同管理人。身近な自然にひそむ昆虫を中心に、生きもの愛あふれる生態写真を撮り続け、さまざまなメディアで情報発信している。著書に『新版昆虫探検図鑑1600』(全国農村教育協会)、『生きかたイロイロ!昆虫変態図鑑』(共著、ポプラ社)などがある。