トゲに触れると電気が走る!?
イモムシ・ケムシの中には、ほんの一部ですが毒をもった危険な種がいます。どの種が危険で、どのようにつきあえばいいのかを知っておくことは、イモムシ・ケムシを観察するうえでとても大切なことです。
今回は、そんな毒を持った種類の中から、俗に「電気虫」とも呼ばれるイラガをご紹介しましょう。イラガは、イラガ科を代表する種で、幼虫はウミウシのようなずんぐりとした体型です。見るからに危なそうな鋭いトゲが体中に生えていますが、このトゲは見た目だけではなく、本当に危険です。誤って触れると、トゲの内部にある毒液が皮膚に注入され、電気が走ったような激しい痛みを生じます。そのため「電気虫」というちょっと変わった別名がついています。
トゲに守られてすくすく育つ
イラガの幼虫は、7月から10月にかけて見られ、特に、夏の盛りを過ぎた頃によく見つかります。人家の庭や里山に生えたカキノキ(カキノキ科)を好み、サクラ(バラ科)、カエデ(ムクロジ科)などでも発生します。ただし、昔とくらべると数が減っていて、見かける機会は少なくなりました。
イラガ科の中には、ヒメクロイラガなど、幼虫が集団で樹木の葉を食べ荒らす種もいますが、イラガの幼虫の多くは単独で暮らしています。小さなうちから体中が鋭いトゲでおおわれ、急所である頭部はなるべく隠し、天敵から身を守りながら、樹木の葉を食べてすくすくと育ちます。
美しい繭の秘密
十分に育ったイラガの幼虫は、やがて、木の枝に糸を吐いて繭(まゆ)を作り始めます。繭は、ウズラの卵を小さくしたような形で、表面には、黒と白の美しいしま模様があります。この模様は、幼虫が繭を作る時に、口と肛門から出す液体を塗り分けることによってできあがります。そのため、模様はそれぞれの繭で異なっていて、ひとつとして同じものはありません。毒のあるトゲは繭の中に包み込まれてしまい、繭にも成虫にも毒はないので、これ以降の観察は安心して行えます。ただし、イラガ科の中でもヒロヘリアオイラガなどは、繭に毒があります。今回ご紹介しているイラガの繭には特徴的なしま模様があるので慣れれば見分けられますが、種類がよくわからない場合は素手では触らないようにしましょう。
ハッチを開けて成虫誕生
夏の終わりから秋の頃に作られた繭は、そのまま冬を越し、翌年の初夏になるとようやく成虫が羽化します。成虫は、かたい繭の上部にある円形の蓋を押し上げて出てきますが、その姿は、まるで宇宙船のハッチを開けて脱出する宇宙飛行士のようです。
なお、イラガの繭からは、時にまったく違う生きものが誕生することがあります。写真のエメラルドのように美しく輝く虫は、寄生蜂のイラガセイボウ(セイボウ科)です。
イラガセイボウのメスはイラガの繭に小さな穴を開け、産卵管を差し込んで卵を産み付けます。孵化した寄生蜂の幼虫は、イラガの幼虫(前蛹)をエサとして育ち、そのまま繭の中で蛹になり、やがて羽化すると、繭の殻を噛み破って外に出てきます。
イラガ科のイモムシ・ケムシたち
毒があることをアピールするためか、イラガ科の幼虫にはカラフルなものが多く、私たちの目を楽しませてくれます。身近な自然の片隅に潜んでいる様々な「陸のウミウシ」を見つけ出し、毒に注意しながら観察しましょう。
【執筆者】
川邊 透(かわべ とおる)
1958年大阪府大阪市生まれ。野山探検家、Webサイト「昆虫エクスプローラ」管理人、「芋活.com」共同管理人。身近な自然にひそむ昆虫を中心に、生きもの愛あふれる生態写真を撮り続け、さまざまなメディアで情報発信している。著書に『新版昆虫探検図鑑1600』(全国農村教育協会)、『生きかたイロイロ!昆虫変態図鑑』(共著 ポプラ社)などがある。
【編集協力】
いわさきはるか