不思議がいっぱい!イモムシ・ケムシの世界【第3回】危険なトゲでおおわれた「電気虫」:イラガ

トゲに触れると電気が走る!?

イモムシ・ケムシの中には、ほんの一部ですが毒をもった危険な種がいます。どの種が危険で、どのようにつきあえばいいのかを知っておくことは、イモムシ・ケムシを観察するうえでとても大切なことです。

今回は、そんな毒を持った種類の中から、俗に「電気虫」とも呼ばれるイラガをご紹介しましょう。イラガは、イラガ科を代表する種で、幼虫はウミウシのようなずんぐりとした体型です。見るからに危なそうな鋭いトゲが体中に生えていますが、このトゲは見た目だけではなく、本当に危険です。誤って触れると、トゲの内部にある毒液が皮膚に注入され、電気が走ったような激しい痛みを生じます。そのため「電気虫」というちょっと変わった別名がついています。

写真:イラガの終齢幼虫。火花のようにも見える鋭いトゲにおおわれ、「電気虫」の名にふさわしい姿をしている。観察するときは、トゲに触らないよう注意が必要。大きさは2.5センチメートルほど

トゲに守られてすくすく育つ

イラガの幼虫は、7月から10月にかけて見られ、特に、夏の盛りを過ぎた頃によく見つかります。人家の庭や里山に生えたカキノキ(カキノキ科)を好み、サクラ(バラ科)、カエデ(ムクロジ科)などでも発生します。ただし、昔とくらべると数が減っていて、見かける機会は少なくなりました。

イラガ科の中には、ヒメクロイラガなど、幼虫が集団で樹木の葉を食べ荒らす種もいますが、イラガの幼虫の多くは単独で暮らしています。小さなうちから体中が鋭いトゲでおおわれ、急所である頭部はなるべく隠し、天敵から身を守りながら、樹木の葉を食べてすくすくと育ちます。

写真:カキノキの葉の裏にいた若齢幼虫。わずか5ミリメートルぐらいしかない個体だが、すでに立派なトゲを備えている
写真:前から見た幼虫。まるで、トゲで武装した怪物の顔のようだが、見えているのは胸部で、ほんとうの顔は下のほうに隠れている
写真:クリの葉を食べる幼虫。ヒダのような部分で頭部をおおい隠しているので、食べているところは外からは見えない

写真:カエデの葉柄の上を移動する幼虫。いつもは隠している顔が見えている。イラガ科の特徴である退化した腹脚(腹部にある脚)の様子もよくわかる

美しい繭の秘密

十分に育ったイラガの幼虫は、やがて、木の枝に糸を吐いて繭(まゆ)を作り始めます。繭は、ウズラの卵を小さくしたような形で、表面には、黒と白の美しいしま模様があります。この模様は、幼虫が繭を作る時に、口と肛門から出す液体を塗り分けることによってできあがります。そのため、模様はそれぞれの繭で異なっていて、ひとつとして同じものはありません。毒のあるトゲは繭の中に包み込まれてしまい、繭にも成虫にも毒はないので、これ以降の観察は安心して行えます。ただし、イラガ科の中でもヒロヘリアオイラガなどは、繭に毒があります。今回ご紹介しているイラガの繭には特徴的なしま模様があるので慣れれば見分けられますが、種類がよくわからない場合は素手では触らないようにしましょう。

写真:繭を作り始めた幼虫。中央のやや下側に幼虫の顔が見えている
写真:コナラの小枝に作られた繭。殻が硬く、とても丈夫にできている。繭の模様には個性があり、写真の繭は特に美しく仕上がっている。大きさは1.2~1.5センチメートル

ハッチを開けて成虫誕生

夏の終わりから秋の頃に作られた繭は、そのまま冬を越し、翌年の初夏になるとようやく成虫が羽化します。成虫は、かたい繭の上部にある円形の蓋を押し上げて出てきますが、その姿は、まるで宇宙船のハッチを開けて脱出する宇宙飛行士のようです。

写真:羽化して翅(はね)を伸ばしたばかりの成虫。幼虫は、繭を作る際、羽化の時に繭から脱出しやすいよう、あらかじめ内側に円形の切り目を入れていると考えられている。
写真:成虫が羽化したあとに残された空繭。蓋は落ちてしまっていることが多く、小さな壺のように見える。俗に「スズメノショウベンタゴ」(スズメの小便容器の意味)などと呼ばれる

なお、イラガの繭からは、時にまったく違う生きものが誕生することがあります。写真のエメラルドのように美しく輝く虫は、寄生蜂のイラガセイボウ(セイボウ科)です。

写真:イラガの繭から出てくるイラガセイボウ

イラガセイボウのメスはイラガの繭に小さな穴を開け、産卵管を差し込んで卵を産み付けます。孵化した寄生蜂の幼虫は、イラガの幼虫(前蛹)をエサとして育ち、そのまま繭の中で蛹になり、やがて羽化すると、繭の殻を噛み破って外に出てきます。

イラガ科のイモムシ・ケムシたち

毒があることをアピールするためか、イラガ科の幼虫にはカラフルなものが多く、私たちの目を楽しませてくれます。身近な自然の片隅に潜んでいる様々な「陸のウミウシ」を見つけ出し、毒に注意しながら観察しましょう。

写真:左上:アカイラガの幼虫。赤い突起とグミのような半透明の体が特徴
右上:クロシタアオイラガの幼虫。背面の線の色は個体によって異なる
左下:アオイラガの幼虫。背面のブルーの線が美しい
右下:ヒロズイラガの幼虫。ボタンのような不思議な形をしている

【執筆者】
川邊 透(かわべ とおる)
1958年大阪府大阪市生まれ。野山探検家、Webサイト「昆虫エクスプローラ」管理人、「芋活.com」共同管理人。身近な自然にひそむ昆虫を中心に、生きもの愛あふれる生態写真を撮り続け、さまざまなメディアで情報発信している。著書に『新版昆虫探検図鑑1600』(全国農村教育協会)、『生きかたイロイロ!昆虫変態図鑑』(共著 ポプラ社)などがある。

【編集協力】
いわさきはるか