フォトエッセイ  犬と人が織りなす文化の香り【第6回】エストニア・キヌフ島

生きた博物館:キヌフ島

バルト海に浮かぶ、「生きた博物館」と呼ばれるキフヌ島。エストニアの南端・ムナライウの船着場から、フェリーに乗って1時間ほどでたどり着きます。人口はたったの約600人。長さ7キロメートル、幅3.3キロメートルほどの大きさで、自転車なら1日で周れるくらい小さな島です。2003年、この島の暮らしはユネスコによって無形文化遺産に選出されました。男性が遠洋漁業に出るため、女性は農業や子育て、手仕事をしながら生活を支えています。島に代々伝わる赤い縦縞織りのスカート“クルト”を履き、歌や踊りを生活の一部にしている女性たちの姿は、まるで絵本の世界に迷い込んだかのようです。

島にはホテルがありません。島民のKuragaさん宅の庭にある、島唯一のゲストハウスに滞在させてもらいました。庭には大きな黒い犬が1頭いて、素敵な手作りの犬小屋がありました。彼はとてもおおらかな性格で、片時もKuragaさんのそばを離れません。Kuragaさんと犬にゲストルームへ案内され、部屋に荷物を降ろし、ひと休み。窓際に置かれたテーブルとマグカップでさえ絵本の世界になってしまうことに、興奮を抑えられませんでした。身軽になってからすぐに、レンタル自転車で島の中を走りぬける毎日をスタート。キフヌ博物館やキフヌ聖ニコラス教会、灯台、手工芸品店、そして島に2つしかない小さなスーパーマーケットなどを巡りました。それから、手芸研究家のアルマ・ローシーさんの手工芸と一緒に、歌と音楽も楽しみましたね。その先々で、キフヌ島で暮らす犬たちにもたくさん出会ったのです。

島の南端に位置する灯台は、北のキフヌ港から車で15分ほど行ったところにあります。この灯台を登りきると展望台があり、キフヌ島の全景を見渡すことができます。また、灯台の中にはエストニアの手工芸品であるミトン、織物、お人形、小さなキルトなどが販売されています。

スーパーマーケット“Kihnu pood”にて。週に2度しか商品の入荷がないため、入荷日にはたくさんの人たちがお買い物にやってきます。その付き添いで一緒におでかけしている犬たちは、店内までは入れないので車の中でお留守番。飼い主さんから目を離すことは一度もありませんでした。

【写真・文】
蜂巣文香(はちす・あやこ)
写真家。犬、猫、コンパニオンバードなどのペット写真をはじめ、手仕事やライフスタイルなどさまざまな分野で“伝わる”写真を日々撮影している。広告や雑誌、書籍、WEBなど幅広く活躍中。欧米を中心とした海外での撮影経験も豊富。愛犬雑誌「Wan」(緑書房)でもおなじみのカメラマンで、柴犬をモチーフにしたカレンダーシリーズ「しばいぬ(卓上)」「日本の柴犬(壁掛け)」「黒柴(壁掛け)」(緑書房)も毎年好評を博している。
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