この連載の第3回は「住まいと遊び」の中編として、ウサギとのコミュニケーションを取り上げます。ウサギの感情表現の仕方を解説したうえで、ウサギとのコミュニケーションやスキンシップの取り方のポイントを紹介していきます。
そして、次回を後編とし、そこではウサギを遊ばせる前の注意点や、その際に便利なアイテムも紹介していきます。
ウサギの感情表現
ウサギは、犬や猫のように意思表示のために吠えたり鳴いたりすることはありません。ウサギは被捕食動物であるため、常に目立たないようなかたちでコミュニケーションをとるように発達してきました。そのため、犬や猫のような一般的なペットと比べるとコミュニケーションがとりにくいイメージがありますが、様々なボディランゲージによりコミュニケーションができる、感情表現が豊かな動物です。
それでは、代表的なしぐさや行動を紹介していきましょう。
横たわったり、お腹を床につけた姿勢で寝そべっている
安心し、とてもリラックスしていている状態です。
人の手を舐める
飼い主に対しての最高の愛情表現です。
鼻先でツンツンついてくる
かまってほしいときや遊んでほしいときにみられる行動です。
耳を正面に向けてまっすぐに立て、こちらを向いている
機嫌がよいしぐさです。「ぷうぷう」といった高めの声(正確には鼻から発している)を出しているときも上機嫌であることを示しています。
耳を体側に寝かせ、開口部を後ろに向けている
寝ているときには耳を後ろに倒すことが多いですが、起きているときにこの行動がみられる場合は不満や不機嫌、悲しみを感じています。
物に顎を擦り付ける(チンマーク)
下顎の臭腺のにおいを擦り付けるマーキング行動で、チンマークといいます。自身の縄張りを主張しています。飼い主さんに対しても時々この行動がみられます。
後肢で床をダンダンと踏み鳴らす(スタンピング)
周囲に危険を知らせている、もしくは怒って威嚇したり、警戒しているときの行動(足ダン)です。
鼻を素早く動かす(鼻ピク)
対象に興味を向けていることを意味します。
ジャンプしたり、体をひねったりする/ダッシュする
最高に機嫌がよいときにみられる遊びの行動です。
後ろ足で垂直に立ち、周囲をみわたす
周囲を全体的にみわたして、注意深く観察している行動です。警戒しているとき以外に、好奇心を向けている場合にもみられます。
前肢でパンチしたり、頭突きをする/餌入れをひっくり返すなど
怒っているときの行動です。
飼い主さんの足の周りを、円を描くようにぐるぐると走り回る
多くは飼い主さんに対する求愛行動です。去勢手術を施すと、おさまる可能性があります。
ウサギとのコミュニケーション
ネザーランドドワーフに代表されるペットのウサギは、群れで生活しているアナウサギに属します。普段集団で生活しており、他の個体との精神的な結びつきが必要な動物です。
単独でいる時間が長かったり、飼い主さんとのコミュニケーションが少ないことは、ウサギにとってはストレスとなります。
やさしく声をかけたり、好きなところを撫でてあげたり、たまに抱っこしてあげたりして、ウサギと一緒の時間をつくるようにしてください。
被捕食動物であるウサギは、自身に危険が及ばないかどうか、いつもアンテナを張りながら生活していることは前編でお話ししました。様々な刺激に対して敏感であり、恐怖を感じやすい動物です。
以下にコミュニケーションのポイントを紹介します。
やさしく声をかける
聴覚が非常に優れているため、急に大きな声や音を出すと驚いてしまい、ストレスを感じます。ネザーランドドワーフは特に過敏に反応する傾向があります。(意識的に)落ち着いた声で、やさしく声をかけてあげてください。
好きな場所を撫でる
頭や頬、耳の付け根、背中は撫でられるのが比較的好きな場所です。反対に、顎の下や胸、脇腹、お腹や前肢、後肢は苦手な場所です。好きな場所であっても、飽きて嫌がりだしたら、深追いせずにやめるのもポイントです。
好きな場所を撫でられると喜ぶのは確かで、実際にずっと撫でさせてくれる子もいますが、ウサギは本来、過剰に体を触られるのがすごく大好きというわけでもありません。ウサギに触れる際には、「ゆっくり、やさしく、丁寧に」を心がけてください。
もともと抱っこは苦手
撫でられることにウサギが慣れてきたら、抱っこにトライしてみましょう。しかし、なかなかうまくいかないことも多いのではないでしょうか。特にネザーランドドワーフの抱っこは、なかなかハードルが高いですよね。
ウサギは持ち上げられることで恐怖や不安感を覚える動物であるため、実は本来、抱っこがあまり好きではありません。これも、獲物として食べられてしまう動物であることに関係していると考えられています。
抱っこするにしても、ウサギの反応をみて、嫌がっていたら深追いは禁物です。しかし、抱っこは、病気になった際の投薬やケージに入れるときなど、日常のあらゆる場面で必ず必要となってくるため、受け入れてくれそうであれば、少しずつ練習していきましょう。
■抱っこの仕方の一例
ウサギならではの行動を受け入れる
「齧る」に代表される、本能に基づく行動は、ウサギであるがゆえの本来の行動であるため、修正することは不可能です。飼い主さんにとってたとえ不都合であっても、大声で叱ったりしてコントロールするようなことはしないでください。そのような行為は、ウサギに恐怖を与えることになり、ウサギとの関係性をさらに悪化させてしまいます。
前編でお話ししたとおり、環境を整え、次回の後編で解説する遊びをうまく取り入れることで、ウサギの本能を満たすよう心がけましょう。
また、抱っこをしたり、撫でられることを嫌がる子であったとしても、それは必ずしも飼い主さんに懐いていないわけではありません。もともとベッタリと触れ合うことが、どちらかというと苦手な動物なのです。
まずは、飼い主さんのそばにいて安心感を得られることが第一。ときには「嫌なんだよ!」と自己主張することもあり、特にネザーランドドワーフではその傾向が強いかと思われますが、それは決して悪いことではありません。
日常的に叱られていたり、極度の外的ストレスを受けているウサギは、うつ状態となり、感情を表すことが少なくなるといわれています。ウサギが嫌なことをちゃんと主張できるということは、むしろ飼い主さんに心を許している証拠なのです。
先に述べたとおり、本能が満たされた、ストレスの少ない環境で育ったウサギは比較的穏やかな性格で、抱っこや投薬もスムーズにさせてくれる子が多いのも事実です。
まずは、ストレスの少ない環境づくりを意識して、トライしてみることから始めてみてください。
(第4回「住まいと遊び 後編」に続く)
この連載は、一般社団法人日本コンパニオンラビット協会(JCRA)「ウサギマスター認定者(ウサギマスター検定1級)」の獣医師で分担しながら、飼い主さんにも知っておいてほしいネザーランドドワーフの基礎知識を解説しています。
・一般社団法人日本コンパニオンラビット協会…https://jcrabbit.org
【執筆】
松田英一郎(まつだ・えいいちろう)
獣医師。JCRAウサギマスター検1級認定。酪農学園大学卒業。ノア動物病院、札幌総合動物病院勤務を経て、2005年、札幌市北区にマリモアニマルクリニック(https://marimo-animalclinic.com )を開院。地域のかかりつけ動物病院として、犬・猫に加え、ウサギやハムスター、モルモット、チンチラ、デグー、小鳥などのエキゾチックアニマルの診療にも力を入れている。
【監修】
霍野晋吉(つるの・しんきち)
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部卒業。獣医師、博士(獣医学)。1996年古河アニマルクリニック開業(茨城県)。1997年エキゾチックペットクリニック開業(神奈川県)。現在は株式会社EIC(https://exo.co.jp )の代表を務め、エキゾチックアニマルの獣医学の啓発や教育に関わる活動を行っている。その他、日本獣医生命科学大学非常勤講師、ヤマザキ動物看護大学特任教授、(一社)日本コンパニオンラビット協会代表理事、(一社)日本獣医エキゾチック動物学会顧問なども務める。著書に『カラーアトラス エキゾチックアニマル 哺乳類編 第3版』『同 爬虫類・両生類編 第2版』『同 鳥類編』『ウサギの医学』『モルモット・チンチラ・デグーの医学』(いずれも緑書房)。