観察しよう! 津久井湖城山公園で出会う野生動物「ムササビ」(津久井湖城山公園)

野生動物の観察で注意すべきことや、その際のマナーを専門家が解説する本企画。
今回は神奈川県相模原市の県立津久井湖城山公園 根小屋地区に生息するムササビについて、津久井湖城山公園の柳川さんにお話を伺いました。

※記事内の情報は2024年10月時点のものです。

ムササビとは?

ムササビはリスの仲間で日本固有の哺乳類で、平地から山地の森にくらしています。
手足の間にある膜(被膜)を広げて木から木へと紙飛行機の様に滑空し、一生のほとんどを木の上で生活します。

観察してみよう

神奈川県の北部、相模原市内の津久井湖の隣りに、標高375メートルの城山があります。
県立津久井湖城山公園内にある戦国時代の山城「津久井城」跡です。
ここに「ムササビ」がくらす森があります。
ムササビは完全な夜行性で、昼間は木に空いた穴(樹洞)の中で寝ています。

日中はまだ眠たいムササビ

日没から30分くらいで外に出て幹を登り、狙いを定めて被膜を広げ、木から木へと滑空して食事をし、日の出の1時間くらい前に巣に戻ります。
被膜を広げた大きさは新聞紙半分ほどで、空飛ぶ姿は「空飛ぶ座布団」とも言われます。

昼のうちにムササビのいる痕跡を探す

観察は、夜やみくもに姿を探すより、明るいうちにまず、ムササビがいる痕跡を探すのがおすすめです。
分かりやすいのは食べあとです。
食事のメニューは、木の葉や芽や花、蕾や実などで、季節に合わせて実に様々な植物を食べます。
例えば一口に「木の実」といっても、クワなどの果実からドングリ、カエデやスギなどの小さな硬い種まで、多種多様です。
冬眠はしないので、1年中どこかに食べあとが落ちているはずです。

花の食べあと

食べあとには特徴があります。
鋭い前歯で小枝を咬み切るので、枝の切り口は「斜め」になります。
もっと分かりやすいものは葉っぱです。
真ん中に穴が空いたような左右対称の形をしています。

葉と冬芽の食べあと

なぜそんな形? というと、葉を1枚ずつクシャクシャと折って握り、中央部分のみを食べるからです。
園路上に枝葉や実のかけらが多数落ちていたら、よく見るとムササビの食べあとだったりします。
「昨夜、この上の枝で食事をしたのかなぁ」などと、想像をかき立てられます。
また、そこでは糞も見つけられるかもしれません。
ムササビの糞は正露丸や黒コショウの粒に似た球形で、植物の細かな繊維が詰まっています。
その乾き具合から新鮮か古いものかを推測できます。
長い時間食事していた木やよく使う巣穴の下には、糞が多数落ちていることがあるので、夜の観察場所の参考にもできます。

ムササビの糞

そして、いよいよ夜の観察です

ムササビが巣を出る時間に向けて、可能性がありそうな巣の近くで日没前後から静かに待ちます。
観察用のライトは赤い光を使います。
赤い光を当てると、その先に動物の目が光ります。

樹洞から顔を出したムササビ

何度か顔を出してから出巣し、木に登ってしばらくしてから滑空、とゆっくり観察できるときもあれば、あっという間のときもあります。
その後は、「グルルルルル」や「キュルルル」という声や、高い所からの音(葉が揺れる音、ムササビが移動する音、食べる音など)を頼りに、昼間探した食事場所も参考にゆっくり移動しながら探します。

葉っぱを食べているムササビ

夜空をバックに滑空が見られると思わず「おーっ!」と声をあげそうになります。
静かに周囲に集中して観察していると、夜は自然と五感が研ぎ澄まされます。
動物たちの動く音や小さな声にも敏感に気付くことができます。
夜の生き物たちの世界に、そっとお邪魔させてもらう気持ちで歩いてみてください。

観察における注意点とマナー

安全に、動物にも人にも迷惑なく観察するために、下記のことをお願いいたします。

・夜の公園は真っ暗になります。防犯上も足元などの安全上も、まずはご自身の安全に十分注意し、園路から外れないように観察してください。
・公園駐車場は19時に閉まりますので、お車の方は時間にご注意ください。また、路上駐車は絶対にしないで下さい。
・オススメ時期の12月前後はとても寒いので、しっかりした防寒対策が必要です。
・ライトをほかの人や近所の家に向けることがないように気をつけて下さい。
・動物たちを驚かせないように、大きな声や音を出したり木をたたいたりは決してしないで下さい。
・ムササビを驚かさないよう、ライトに赤いセロファンを貼るなどして赤い光で観察して下さい。
・ライトを照らし続けることやカメラのストロボなどは、ムササビにストレスを与えてしまうので控えましょう。
・滑空前に頭を上下に振って飛び移る木を見定めます。その際や滑空中は、灯りを照らさないで下さい。滑空をやめたり、上手く飛べずに墜落したり木に激突したりしてしまうことがあるそうです。

観察にオススメの時期やスポット

ムササビが外へ出て活動をはじめるのは日没後30分頃なので、日没が早い冬季は早くから観察できてオススメです。
駐車場が閉まる前に出巣時刻を迎えるため、お車での来園も可能です。
また、年2回の繁殖の季節は、鳴き声が盛んに聞こえたりオス同士で追いかけ合ったりと活発なときがあるので、観察がしやすいかもしれません。
これらのことから、当公園では11~1月頃がオススメの時期です。
冬に葉を落とす木々は多いので、観察の際には見通しが利くというのもこの季節の利点のひとつです。
現在、公園にはムササビの巣箱を5カ所設置しています。
管理事務所のパークセンターで公園のムササビ紹介展示と共に巣箱マップも配布しているので、観察場所の参考にご利用下さい。
ただし、ムササビは毎日同じ所を寝床に使うわけではないので、どの樹洞や巣箱で今日寝ているかは分かりません。
そのため、昼間のうちにムササビが来ている証拠を探しておくと良いと思います。
公園には板張りのデッキ園路や舗装道のバリアフリーのコースがあります。
コース上は、明るいうちは食べあとや糞などの痕跡が探しやすく、暗くなってからでも比較的歩きやすいので、観察コースとしてオススメです。
公園マップをパークセンターで配布していますので、開館時間中はぜひ、パークセンタースタッフにお声かけ下さい。

さいごに

ムササビがくらしていくには、巣として使える樹洞がある大きな木が必要です。
しかも1頭のムササビが使う巣穴はひとつではなく、複数です。
そして、四季を通じて食べ物がなくならない、多様な木々が必要です。
ムササビは一生のほとんどを樹上でくらすため、巣のある木々と食事場所が森でつながっている必要もあります。
つまり、ムササビが生き残っていくには、大きな木と樹洞、多様性に富んだまとまった森、そして森のつながりが必要です。
しかし、開発によって森と森が分断されると、ムササビがくらす場所は孤立してしまいます。
そして、その期間が長くなれば、その場所から絶滅してしまいます。
ムササビがくらしていける森は、決して特別な場所ではありません。様々な生き物にとっても安心してくらしていける、多様性豊かな繋がりある森だと思います。
夜行性のため人目に触れる機会は少ないですが、気付いたらいなくなっていた! ということは絶対に避けなければなりません。
多くの方にムササビに興味を持っていただき、くらしていける環境について、何となくでも感じたり考えたりする機会になったら、そしてその環境を残していけたらと思います。
公園のパークセンターでは、ムササビについてお子様でも楽しく分かりやすく展示で紹介しています。
ぜひご覧いただければと思います。
お待ちしています!

【文・写真】
栁川美保子(やながわ・みほこ)
公益財団法人 神奈川県公園協会。津久井湖城山公園 パークセンター。

〒252-0153
神奈川県相模原市緑区根小屋162
公式サイト:https://www.kanagawa-park.or.jp/tsukuikoshiroyama/
X:https://x.com/musyasabi_park
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UC9GFX6ereMJZaS-qlJj3O1Q

【編集協力】
柴山淑子