ウサギの健康を維持するためには、バランスの取れた栄養が不可欠です(写真1)。
ウサギは草食性動物であり、自然界では常に草や植物を食べ続けて生活しています。2日間まったく食事ができないと、肝リピドーシス(肝臓に脂肪が過剰に蓄積し、機能障害を起こす状態)に陥り、亡くなってしまうほど、ウサギにとって食事は重要です。
飼育下においても、食事内容と栄養量の適切な管理は、健康を左右する重要な要素となります。
食事内容と栄養バランス
■牧草の役割
ウサギの主食は繊維質の豊富な牧草です(写真2)。牧草はウサギの消化器系を正常に保ち、歯の健康にも重要な役割を果たします。
ウサギの消化管は常に動いているため、繊維が不足すると消化不良や胃腸うっ滞などの問題を引き起こす可能性があります。このため、常に新鮮な牧草を自由に与えることが推奨されます(参考文献1)。
牧草の種類としては、チモシー、アルファルファなどが理想的です。それぞれの違いは以下の通りです(参考文献2)。
・マメ科(アルファルファ、クローバー)
粗タンパク質:+++
粗繊維:++
カルシウム:+++
嗜好性:+++
その他:幼体・妊娠ウサギ向け、尿路結石リスクあり
・イネ科(チモシー、イタリアングラス、オーチャードグラス)
粗タンパク質:+
粗繊維:+++
カルシウム:+
嗜好性:++
その他:成体ウサギ向け
■ペレットの役割と適切な量
ペレットは、ウサギの栄養補給に役立つものの、過剰に与えると肥満や消化不良の原因となるため、主食とするのではなく、補助食品として使用します。ウサギの体重に応じて、1日に与えるペレットの量は体重の約2〜5%以内に制限することが推奨されます。体重2kgのウサギであれば、1日40g以内が適量とされています(参考文献3)。
ペレットは、タンパク質やビタミン、ミネラルをバランスよく含んでいるものを選ぶことをおすすめします。ただし、カロリーが高いため、ウサギが牧草を食べなくなってしまうことがないよう、量をコントロールします。
ペレットは、ハードペレット、ソフトペレットに大別され、それぞれの特徴は以下の通りです(参考文献2)。
・ハードペレット
カルシウム:多い
年齢:幼体~成体向け
特徴:咬耗不全を引き起こしやすい(=臼歯の不正咬合になりやすい)
・ソフトペレット
カルシウム:少ない
年齢:成体~老体向け
特徴:咬耗不全を引き起こしにくい(=臼歯の不正咬合になりづらい)
■野菜と果物の役割
新鮮な野菜や少量の果物は、ウサギの食事におけるビタミンやミネラルの補給源です。特に葉物野菜は、ビタミンAやK、カルシウムなどの栄養素を豊富に含みます。
キャベツやニンジン、パセリ、ホウレンソウなどが一般的に与えられますが、ホウレンソウなどのシュウ酸を含む野菜は、与えすぎないようにしましょう(参考文献4)。
果物については、糖分が多いため、与える量は控えめにし、ウサギが肥満にならないよう注意が必要です。リンゴやイチゴ、バナナなどはウサギにとって魅力的な食べ物ですが、1日あたり少量にとどめる必要があります。
ウサギの栄養量計算:RERとDER
ウサギに必要な栄養量を計算する際には、RER(Resting Energy Requirement、基礎エネルギー必要量)とDER(Daily Energy Requirement、日常エネルギー必要量)の概念が適用されます。
これらは、ウサギが休息中および日常的に必要とするカロリー量を計算するための指標です。
■RER(基礎エネルギー必要量)
RERは、ウサギが安静にしている状態で消費するエネルギーを示します。ウサギの基礎代謝率に基づくこの値は、次の式で計算されます。
RER=70×[体重(kg)0.75]
たとえば、体重2kgのウサギの場合、RERは70掛ける体重の0.75乗ですので、次になります。
RER=70×(20.75)=約117.7キロカロリー/日
0.75乗ってどう計算するの? と思われた方もいるかもしれませんが、電卓の√キーを使えば簡単です。上の体重2kgの場合では、まず体重の数字を3回掛けます(2×2×2=8)。
そして8が表示されている状態で√キーを2回押します(8・√・√)。そうすると1.68……という数字がでてきますので、それに70を掛けると、上記の約117.7キロカロリーが算出されます。
あるいは、次に説明するDERも含め、「エキゾチックインフォメーションセンター」のサイトでは、数字を打ち込むだけで計算できるようになっていますので、利用してみてください。
https://exo.co.jp/information/rabbit/rer.htm
RERはあくまでウサギが安静にしている状態での最低限のエネルギー必要量であり、実際の飼育環境では、これに活動量や生理的状態(成長期、繁殖期、授乳期など)を加味したエネルギー量が必要です。
■DER(日常エネルギー必要量)
DERは、ウサギの日常生活に必要なエネルギー量を示します。これには、成長、運動、繁殖などの活動によって増加するエネルギーが含まれます。DERは、RERに活動係数を掛けることで求められます。活動係数はウサギのライフステージや活動レベルによって異なり、以下のように計算できます。
DER=RER×活動係数
小型ウサギの活動係数は下記となります。
・未避妊、未去勢(成体)…1.8
・避妊去勢済み(成体)…1.6
・肥満、老体…1.4
・減量…1.0
・離乳~幼体…2.0~4.0
たとえば、体重2kgで適度な活動を行うウサギ(避妊去勢済み、成体)のDERを計算すると、次のようになります。
DER=117.7(RER)×1.6(活動係数)=約188キロカロリー/日
この値を基に、ウサギの日常的なカロリー摂取量を調整します。カロリー摂取については、牧草やペレットのパッケージに重量当たりのカロリーが記載されていますので、参考にしてください。
盲腸便について
必要な栄養を摂取できているかの判断には、盲腸便をきちんと食べられているかが非常に重要です。盲腸便は、ウサギが自分の盲腸で生成する特別な種類の便で、非常に栄養価が高く、ビタミンB、ビタミンKやアミノ酸、繊維質などが豊富に含まれています(写真3)。
盲腸便は一度食べた食事を腸内で発酵して排出した後、栄養素を吸収するために再び食べて再吸収されます。これは「食糞行動」と呼ばれ、ウサギの栄養サイクルにおいてきわめて重要な役割を果たしています。
盲腸便を摂取できない場合、ウサギはビタミンB群やビタミンK、タンパク質、脂肪酸などの重要な栄養素を十分に摂取できなくなり、盲腸便を摂取できている場合と比較して最大で40%程度のカロリー不足を引き起こす可能性があるといわれています。食事の量を計算する場合、盲腸便が確実に摂取できているかどうかをご留意ください。
水の重要性
ウサギは大量の水分を必要とするため、常に新鮮な水を提供することが必要です。給水ボトルや水皿を使用して、ウサギがいつでも飲めるようにしましょう。水の摂取が少ないと、消化器の機能が低下し、尿路結石や消化不良を引き起こす可能性があります(参考文献5)。
食事の管理とバリエーション
ウサギの食事は、常に安定したバランスを保つことが重要です。急激な食事の変更は消化不良を引き起こす可能性があるため、新しい食材を導入する際は少量から始め、徐々に量を増やしていくことが推奨されます。特に、野菜や果物を新たに追加する際は、ウサギの体調に変化がないかを確認しながら進めます。
最後に繰り返しお伝えしますが、ウサギの健康を保つためには、適切な栄養管理が不可欠です。高繊維質の牧草を主食とし、ペレットや野菜、果物を副食としたうえで、RERやDERを基に、ウサギが必要とするカロリー量を計算して与えることで、ウサギの健康を維持し、肥満を防ぐことができます。また、新鮮な水の提供や食事のバリエーションにも注意を払い、ウサギが長生きできる生活を送ることができるよう心がけましょう。
この連載は、一般社団法人日本コンパニオンラビット協会(JCRA)「ウサギマスター認定者(ウサギマスター検定1級)」の獣医師で分担しながら、飼い主さんにも知っておいてほしいウサギの病気を解説しています。
・一般社団法人日本コンパニオンラビット協会
https://jcrabbit.org/
[出典]
・写真1~3…『カラーアトラス エキゾチックアニマル 哺乳類編 第3版』(霍野晋吉・横須賀誠 著、緑書房)
【執筆】
青島大吾(あおしま・だいご)
獣医師、JCRAウサギマスター検定1級。2006年東京大学農学部獣医学専修を卒業後、同大学動物医療センター研修医(外科学)などを経て、2010年に愛知県豊田市でダイゴペットクリニックを開院。その後、岡崎大和院、豊田中央医療センター(本院、拡張移転)、日進オハナ院、名古屋名東院を展開。「Home away from home」を信条とし、「100年、飼い主さんを支え続けられる病院へ」という理念のもと、ペットライフの幅広いサポートを目指している。
【監修】
霍野晋吉(つるの・しんきち)
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部卒業。獣医師、博士(獣医学)。1996年古河アニマルクリニック開業(茨城県)。1997年エキゾチックペットクリニック開業(神奈川県)。現在は株式会社EICの代表を務め、エキゾチックアニマルの獣医学の啓発や教育に関わる活動を行っている。その他、日本獣医生命科学大学非常勤講師、ヤマザキ動物看護大学特任教授、(一社)日本コンパニオンラビット協会代表理事、(一社)日本獣医エキゾチック動物学会顧問なども務める。著書に『カラーアトラス エキゾチックアニマル 哺乳類編 第3版』『同 爬虫類・両生類編 第2版』『同 鳥類編』『ウサギの医学』『モルモット・チンチラ・デグーの医学』(いずれも緑書房)。
[参考文献]
1.Harkness JE, Wagner JE(1995). The Biology and Medicine of Rabbits and Rodents. Williams & Wilkins.
2.Tsuruno S. エキゾチックセミナー
3.Meredith A, Redrobe S(2002). BSAVA Manual of Exotic Pets. British Small Animal Veterinary Association.
4.Jenkins JR(1997). Gastrointestinal diseases of rabbits. The Veterinary Clinics of North America: Exotic Animal Practice, 1(1), 139-153.
5.Flecknell P(2009). Laboratory Animal Anaesthesia. Academic Press.