Hynobius okiensis (Sato, 1940)
島根県の隠岐諸島は、約180の小さな島と4つの有人島で形成されています。なかでも、隠岐の島町がある島後(どうご)にはこの地域固有のサンショウウオがいます。
その名も「オキサンショウウオ」です。
この島でしか確認されておらず、山地渓流にひっそりと暮らしています。

会えたらラッキー! オキサンショウウオの生態
成体は、産卵時に小さな渓流にやってきます。赤紫色の体色に、黄色の斑点があったり、なかったりと背中の模様は様々です。体長は、12~13センチメートルで比較的大きく、ずっしりと重量感のある体つきです。

産卵は流水域で行われます。水中の大きな石下をそっと覗くと、白っぽい卵が透明なしわしわの袋に入っています。
筆者は、産卵最盛期に研究者と共に訪れたため、運よく石についていた卵の間から成体が飛び出し、まさに産卵直前という個体に出会うことができました。

隠岐というとても限られた場所の水域に、大昔から暮らしていることにロマンを感じます。過去には、環境の変化に合わせて産卵場所を流水域から止水域に変え、また流水域に戻す進化したようです。
流水性ですが、近縁種は止水性のサンショウウオに近いことが遺伝子解析の結果から判明しています。
隠岐の島町で天然記念物に指定されていることや、繁殖期以外はどこにいるのかほとんどわかっていないため、一般の方が出会う機会はほとんどありません。しかし、渓流を覗いていると、ゆっくり水底を移動する幼生の姿を目にすることがあります。幼生は、2年の歳月を経て幼体に変態する個体も確認されているため、背中に特徴的な黒い斑紋をもつ幼生を年中見ることが出来ます。

世界中を探しても、この地域にしか生息していないオキサンショウウオ。隠岐は、ユネスコ世界ジオパークに指定されているだけあり、激しい環境変化を見せ、オキサンショウウオはそれに合わせて繁殖生態を変化させています。まさにこの島の環境にマッチしたいきものと言えるでしょう。それが、オキサンショウウオの魅力の一つでもあります。
【文・写真】
関 慎太郎(せき・しんたろう)
1972年兵庫県生まれ。自然写真家、びわこベース代表、日本両棲類研究所展示飼育部長。身近な生きものの生態写真撮影がライフワーク。滋賀県や京都府内の水族館立ち上げに関わる。『日本のいきものビジュアルガイド はっけん!』シリーズ(田んぼのいきもの、カナヘビ、小型サンショウウオ、ニホンイシガメ、ニホンヤモリ、トカゲ、イモリ、ニホンアマガエル、オタマジャクシ、オオサンショウウオ)、『野外観察のための日本産両生類図鑑 第3版』『同 爬虫類図鑑 第3版』、『世界 温帯域の淡水魚図鑑』、『日本産 淡水性・汽水性エビ・カニ図鑑』(いずれも緑書房)、『うまれたよ! イモリ』(岩崎書店)、『日本サンショウウオ探検記 減り続ければいなくなる!?』(少年写真新聞社)など著書多数。
-
はっけん! 日本の爬虫類・両生類【第17回】オキサンショウウオ
-
はっけん! 日本の爬虫類・両生類【第16回】リュウキュウヤマガメ
-
はっけん! 日本の爬虫類・両生類【第15回】オオヒキガエル
-
はっけん! 日本の爬虫類・両生類【第14回】リュウキュウアオヘビ
-
はっけん! 日本の爬虫類・両生類【第13回】コガタブチサンショウウオ
-
はっけん! 日本の爬虫類・両生類【第12回】アオカナヘビ
-
はっけん! 日本の爬虫類・両生類【第11回】ミヤコヒキガエル
-
はっけん! 日本の爬虫類・両生類【第10回】ヒメハブ Ovophis okinavensis(Boulenger, 1892)
-
はっけん! 日本の爬虫類・両生類【第9回】キタサンショウウオ Salamandrella keyserlingii(Dybowski, 1870)
-
はっけん! 日本の爬虫類・両生類【第8回】ニホンカナヘビ Takydromus tachydromoides (Schlegel, 1838)
-
はっけん! 日本の爬虫類・両生類【第7回】アイフィンガーガエル Kurixalus eiffingeri (Boettger, 1895)
-
はっけん! 日本の爬虫類・両生類【第6回】ニホンヤモリGekko japonicus (Schlegel in Duméril et Bibron, 1836)