猫と暮らしていると、私たちが「これは食べないだろう」と思っていても食べてしまうケースに多く遭遇します。また、知らず知らずのうちに与えていた食べ物が、実は猫にとっては毒のこともあります。
本記事では、私たちが救急施設で勤務している中で、どのような物を誤食・誤飲するのか、予防するにはどうしたらいいのか、もし食べてしまったらどうすればいいのかについてお話します。
猫の注意すべき誤食
胃腸で詰まってしまうおもちゃや紐に要注意!
猫用のおもちゃやウレタンマットなど、比較的大きいものを食べてしまうと胃や腸に詰まってしまい、腸閉塞を起こします。あまり大きくないものでも、お腹の中で猫自身の毛や人間の髪の毛などが食べてしまったおもちゃなどと絡まって、詰まってしまうこともあります。完全に詰まってしまうと、食欲の低下や、嘔吐を繰り返すようになります。
糸や紐など、細長いものも要注意です。舌の根本や、胃腸のどこかに引っかかってしまうことがあります。腸は、蠕動運動(ぜんどう)という食べたものを先へ送る動きをします。紐などが引っかかりながら腸が蠕動運動をしている状態は非常に危険で、放っておくと腸が腐ってしまったり、紐や糸により潰瘍ができたり、腸が裂けてしまうこともあります。
腸閉塞や紐などの異物による腸の異常には、基本的に全身麻酔による開腹手術を行わなければなりません。そうならないためにも、おもちゃや紐の誤食・誤飲は気をつけましょう。
実は危ない!? 猫にとっては有毒なもの
代表的なものとして、ユリが挙げられます。食べてしまうと、腎臓が正常に働かなくなって尿をつくれず、最終的に死に至ります。ユリは花だけではなく、葉っぱなど全ての部位に毒性があると言われており、食べた量がわずかでも非常に危険です。誤食してから18~24時間以内に治療を開始しないと、死亡率が非常に高くなるため、万が一食べてしまった場合には、すぐに動物病院を受診してください。また、他にも猫にとって有害な植物があるので、代表例とその症状を挙げます。
・シクラメン:嘔吐や下痢など。
・イヌハッカ:涎過多や幻覚、興奮など。
・オリヅルラン:涎過多や嘔吐、食欲不振、脱水など。
・スパティフィラム属:涎過多や嘔吐、下痢、食欲不振、無気力、多飲など。
・ポインセチア:涎過多や嘔吐、食欲不振、無気力、沈うつなど。


人間が普段から食べているものの中にも、有毒なものが存在します。
代表的なものは、タマネギやネギなどのネギ属、ニンニクです。これらを食べてしまうと、溶血という血液の中の赤血球が壊されてしまう現象が起きます。溶血により、貧血や腎臓の障害がみられ、下痢や嘔吐を引き起こすこともあります。重度の場合では、命に関わることもあります。有機チオ硫酸化合物という成分が原因であると言われており、この成分は加熱しても除去されないので、たとえ調理をしても与えてはいけません。個体差はありますが、およそ5キログラムの猫が25グラム食べてしまうと中毒を起こすと言われています。中サイズのタマネギが1つ当たり200グラム程度なので、少ない量でも中毒が起きてしまうことがわかります。
意外と知られていないものが、アロマオイル(ティーツリーオイルやチョウジ油など)です。人間にはアロマの効果は様々で、愛好家の方がたくさんいると思います。しかし、猫では沈うつや震え、肝臓や腎臓に障害が出てくる可能性があるので、猫と暮らす上での使用は極力避けておいた方が良いでしょう。
人間には無害でも、猫には有害なものは他にもたくさんあるので注意してください。
珍しい物も食べてしまいます……
「こんなものは食べないだろう」と思っていても、食べてしまうものがあります。たとえば、人間用の薬です。人間が落としたものを追いかけて食べてしまうことや、机の上に出しっぱなしにしていたもの、袋ごと破って食べてしまうなど、様々なケースの誤食・誤飲の症例があります。猫にどのような症状が出るかは、薬の種類や飲んでしまった量によりますが、有名なものとして解熱鎮痛剤は非常に危険です。嘔吐や下痢だけの軽い症状の場合もありますが、重症例では痙攣発作や腎障害を引き起こし命に関わることもあります。ご家族の中に服薬中の方がいる場合は、特に注意が必要です。
現在の薬は、1錠ごとの包装に切り込みが入っていないことに気が付きましたか? 以前は1錠ごとの包装に切り込みがあったのですが、包装ごと誤食してしまうことが人間でもあり、硬い包装(PTP包装)が食道や胃を傷つけてしまうことがあるため、簡単に飲み込めないような工夫がされました。しかし、自宅ではハサミを使って1つずつの包装にしてしまうことがあると思います。猫を飼育している場合は、避けた方が良いかもしれません。
猫にとって有毒なものについて、すでに知っているものから意外なものまであったのではないでしょうか? 誤食・誤飲は、基本的に幸せな結末ではない場合が多く、避けたいものです。
では、実際にどのように猫の誤食・誤飲を予防できるのかを考えていきましょう。
猫の誤食の予防法
猫は、口に入るものはなんでも食べてしまいます。また、「届かないだろう」と油断をしていると、器用な猫たちはどうにか手を伸ばして食べてしまいます。そのため、ご家族の目が離れている時は、可能な限り猫の生活スペースに誤食・誤飲するおそれのあるものを置かない方が賢明です。たとえば、普段使用している小物はそのままにせず、必ず蓋つきの入れ物に入れたり、洗濯物は放置せずすぐに畳んだり、ゴミ箱は蓋付きや引き出しタイプのものにするなどの対策をお勧めします。私も一人の猫の飼い主として、これらには注意しています。
さらに、今まで全く興味を示さなかったものをある日突然気にし始めることもあるので注意が必要です。実際に、「今まで見向きもしなかったのにいきなり……」というご家族からのお話をよく耳にします。全ての管理を徹底する、ということは現実的ではないかもしれませんが、猫を飼育している以上、誤食・誤飲は避けなければならない問題です。少しの工夫で誤食・誤飲は減らせるはずですので、ぜひやってみてください。
最後に、もしそれでも誤食・誤飲してしまった場合の対処法について説明します。
誤食・誤飲をしてしまったら
絶対に行わないでほしいことは、自宅での催吐処置(吐かせる処置)です。インターネット上には様々な情報が出回っており、塩を飲ませると良い、オキシドールを飲ませると良いなど、目にするかもしれません。しかし、それらは結果的に猫を苦しめることに繋がる場合があるので、絶対にやめてください。誤食・誤飲を発見したら、早めの動物病院の受診をおすすめします。その際、食べてしまった物と同じ物や似ている物、食べ物であれば成分表などがあると診察の助けになります。
病院では、催吐処置を行うことが多いです。もちろん、誤食・誤飲した時間や物による適応・非適応は、担当の獣医師の先生と相談していただく必要があります。しかし、猫は緊張などから、催吐処置の成功率が犬と比べて少し低いといわれています。


その場合は必要に応じて全身麻酔をかけ、消化管内視鏡(いわゆる胃カメラ)を使って胃の中から異物を回収します。中毒物質などに対しては、成分を吸着してくれる薬を飲ませることもあります。すでに腸管閉塞している場合は、全身麻酔をかけて開腹手術が必要となります。


おわりに
救急施設には、1日に多くの飼い主が誤食・誤飲を主訴に来院されます。それらの理由の中には避けられなかったものも多くある一方で、ご家族の注意不足や認識不足によるケースもあります。家族として実施可能な予防を行いながら、いたずら好きな猫との生活を満喫しましょう。
【執筆】
知見紗希(ちけん・さき)
愛玩動物看護師。ヤマザキ学園大学(現:ヤマザキ動物看護大学)動物看護学部卒業後、東京都の動物病院にて7年間一般診療に従事する。その後(公財)日本小動物医療センター附属動物夜間救急診療センター(現:夜間救急診療科)に勤務。猫の飼い主。
森田 肇(もりた・はじめ)
獣医師。酪農学園大学獣医学部卒業後、さいたま市内動物病院にて5年間一般診療に従事する。その後(公財)日本小動物医療センター消化器科・附属動物夜間救急診療センター(現:夜間救急診療科)で勤務開始し、2020年より夜間救急診療科科長。現在は、日本獣医救急集中治療学会での活動をはじめ、多数の講演や執筆を通し獣医師や愛玩動物看護師、トリマーなどに向けて動物救急の普及活動を精力的に行なっている。