ネザーランドドワーフとのしあわせな暮らしかた【第7回】シニア期のケア

ウサギも年齢とともに体力が落ち、足腰が弱ったり五感が低下したりと、人と同じように歳を重ねていきます。長い時間を一緒に過ごしていると、つい若い頃と同じように考えてしまい、思わぬ事故につながってしまうこともあります。

ウサギに安心して暮らしてもらうために、今回はシニア期のケアや環境づくり、病気などについて考えていきます。
ウサギの平均寿命は7〜8年といわれていますが、最近では10年を超えることも珍しくはありません。食事の質や飼い主さんの飼育技術の向上、動物医療の進歩などによって、長生きするウサギが増えています。また一般的に、ネザーランドドワーフを含む小型種の方が、フレンチロップやフレミッシュジャイアントのような大型種よりも寿命が長いといわれています。
とはいえ、5歳を超えてくるとウサギは「シニア期」に入り、運動量が落ちたり、免疫力が低下して体調を崩しやすくなるため、飼い主として住環境や食事に気を配り、体調の変化や病気に備える必要があります。

写真1:筆者が診療する動物病院に通っている10歳を超えるウサギ

シニア期に起こりやすい体の変化と病気

■消化器

ウサギの歯は前歯(切歯)、奥歯(臼歯)ともに生涯伸び続けます。牧草を好まずペレットや葉野菜が主食になっていたり、ケージの柵をよくかんでしまうウサギなどは、不正咬合によるトラブルが多くなります。若齢期から発生することもありますが、シニア期になってさらに歯が傷んでしまうと、歯根のトラブルも増え、膿瘍や顎の変形などにまで発展してしまうこともあります。
また、短頭種と呼ばれるネザーランドドワーフは先天的に上顎が短いため、不正咬合が起こりやすい品種でもあります。歯のトラブルがあると、食事を細かくすり潰さずに飲み込むようになるため、胃腸のうっ滞が起こりやすくなり、結果的に腸にガスが溜まったり、軟便や下痢を起こしたりすることもあります。

写真2:切歯の過長
写真3:臼歯の過長。上顎の臼歯は頬側に、下は舌側に伸び裂傷や潰瘍をつくる
写真4:歯根膿瘍によって下顎が変形し、一部の骨が溶けてしまった(点線部)ウサギのCT 3D画像

歯のトラブルが慢性化して、硬い牧草が食べにくいようなら、柔らかいものに変更することも考慮しましょう。
いずれにせよ、これまで食べていた牧草やペレットを食べなくなったら、歯のトラブルが出てきている可能性があるため、動物病院の受診をおすすめします。

■皮膚

前述の不正咬合などが存在すると、痛みによってヨダレが増え、口周囲や肉垂、前足などに炎症が起こります。鼻涙管の閉塞があると涙の量も増えるため、眼の周りにも皮膚炎が起こりやすくなります。
また、泌尿器のトラブルによる尿漏れや、下痢などによって会陰部やお尻周りにも皮膚炎が起こりやすくなるため、根治できるものであれば原因治療を、根治が難しい病態であれば周囲の毛刈りや洗浄などで清潔に保つなどのケアが必要になります。

足裏の皮膚炎も問題となってくることがあり、ソアホックと呼ばれることもあります。人の床ずれと似たような病態であり、コンクリートやプラスチックなど硬い床材での長期間の生活や、肥満、運動不足、関節症などで片足に体重がかかりやすくなると、足底が圧迫され、皮膚の血行不良や壊死が起こりやすくなります。つまり、床に柔らかいマットなどを敷いてあげると、ソアホックの予防になります。もちろん清潔に保つことも大切です。
また、シニアにおいても適切な運動は、筋肉の維持や血行不良を予防するために必要です。安全な環境をつくり、ウサギが動きたい範囲で運動をさせてあげましょう。

写真5:口から肉垂の周囲にまで及ぶ皮膚炎

■眼

眼周囲の皮膚炎や結膜炎の他に、高齢になると白内障が多くみられます。白内障は眼の内部に存在する水晶体が白く濁る病気です。ウサギの場合、若齢でも寄生虫(エンセファリトゾーン)に関連して起こることもありますが、加齢に伴って多くが白内障になっていきます。
白内障では通常、痛みや目ヤニなどの症状はありませんが、進行すると眼の内部で炎症が起こり、二次的に緑内障になって痛みを伴うこともあります。徐々に視力の低下が起こりますが、ウサギの場合、もともと視力はあまりよくはなく、聴覚、嗅覚が優れているため、あまり生活に支障が出ないことも多々あります。ただし、住み慣れた環境から大きくレイアウトを変更すると、思わぬ事故につながる可能性があるため、注意が必要です。

写真6:ウサギの白内障

■生殖器

ウサギの生殖器で問題になることが多いのは、雌の子宮の病気です。高齢になるにつれて腫瘍の発生が増えるのは、人を含む多くの動物と一緒ですが、ウサギの雌では高齢になるほど有意に子宮の腫瘍の発生率が高くなります。
症状としては血尿が多く、進行すると食欲の低下やお腹が張ってきたりすることもあります。初期の頃は一般状態が良好なことも多いため、血尿など普段と違う症状がみられたなら、動物病院を受診しましょう。

■泌尿器

ウサギの特徴として、体の余剰なカルシウムのうち半分近くを尿中に排出するといわれています(他の哺乳類では2%以下)。そのため、尿中に多量のカルシウムが含まれ、それが結晶となって健康なウサギでも尿が白濁していることがあります。これらは膀胱内に堆積して泥状になることがあり(スラッジと呼ばれます)、高齢で運動量が落ちると、スラッジは比重が重いため、より堆積しやすくなります。

写真7:大量のカルシウム尿が蓄積し膀胱が拡張しているウサギのレントゲン写真

結果として、排尿障害や、痛みで尿失禁が起こることがあり、陰部やお尻周りの皮膚炎の原因になります。そうすると、さらに痛みで腰を下げたり、動かなくなってしまうため、排尿や皮膚の状態の確認は非常に大切です。
さらに、飲水不足もスラッジをつくりやすい原因になるため、しっかり水を飲めているか確認してください。

写真8:湿性皮膚炎。尿で被毛が汚れ、腹部や太ももの皮膚が炎症を起こしている

また、高齢化に伴い、慢性腎臓病を診断する機会が増えています。慢性腎臓病の原因としては、腎臓の線維化や自己免疫疾患の他に、尿路結石や感染などによる急性腎不全から移行することもあります。外見上は健康なウサギでも、約25%が腎不全を患っているという報告があるため注意が必要です。症状としては、食欲不振や痩せてくる、毛艶の悪化などを認めることがありますが、初期の頃は無症状で、末期になるまでわからないことも多々あります。

■循環器

慢性腎臓病と同じく、高齢になると診断する機会が増えてくる病態として、心不全があげられます。
心臓は血液を全身に送るポンプの役割をしています。心不全とは、このポンプとなる心臓が血液をうまく全身に送れなくなってしまい、血液が渋滞してしまう状態のことをいい、結果として、肺や胸の中に水が溜まったり(肺水腫や胸水)、体の大事な臓器に酸素が供給できず、深刻なダメージを与えてしまいます。
心不全はあらゆる心臓病で起こりますが、ウサギでは弁膜症や心筋症、いくつかの先天性心疾患などが報告されています。
ウサギは犬や猫とくらべて胸腔が狭いのが特徴で、一度胸水の貯留や肺水腫が起こると急激に症状が悪化します。また、ストレス反応により呼吸数や心拍数、血圧の変動が起こりやすい動物です。心不全の症状としては呼吸の悪化や疲れやすいなどがあげられますが、ウサギは症状を表しにくい傾向にあり、飼い主さんが異変に気がついたときにはかなり病態が進行していることが多々あります。そのため、ほぼ症状がみられないまま突然死してしまうことも珍しくないのが現状です。
腎臓病や心臓病などは特にギリギリまで症状として現れないことが多いため、飼い主さんはたんに高齢によって運動量が落ちたり食が細くなったと考え、動物病院に来られないケースが多々あります。すべての病気を初期からみつけることは困難ですが、早期発見が寿命に大きく影響することも多いため、特にシニアのウサギには定期的な健康診断をおすすめしています。

シニア期のウサギとの暮らし

高齢になってくると、上述した体調の変化が起こりやすくなり、筋肉も落ち、足腰が弱っていきます。そのため、若齢期よりも細やかなケアや配慮が必要になります。
しかし、運動を制限したり、問題なく食べているのに急に牧草を柔らかくしたり環境を大きく変えてしまうことは、ウサギにとって逆にストレスになることもあります。心配だからと過剰に干渉することは控えてあげた方がよい場合もあるのです。人と同様、ウサギごとに年の取り方はそれぞれです。そのウサギにとってのクオリティ・オブ・ライフ(生活の質)を考えていきましょう。

■居住空間を再チェック

とはいえ、体力が落ちて足腰も弱ってくると思わぬ事故が起きてしまうことがあります。居住空間に危険が潜んでいないか、見直してあげましょう。
具体的には「段差がないか」「爪が引っかかったり、急に滑るところはないか」「出られなくなるような隙間はないか」などがあげられます。
若いときには何ともなかった段差でも上れなくなったり、つまずいてしまうことがあります。基本的に段差はなくして、平面的な活動ができるようにしてあげましょう。トイレの段差なども苦労するようなら、ペットシーツでの代用なども検討します。
足裏に負担がかからないよう、ケージにマットを敷いてあげた方がよいですが、注意点として、毛足が長かったり、ループ状になっているものは爪が引っかかりやすいため避けましょう。また、部屋の中での散歩でも、フローリングなどの滑りやすい床は危険なので、活動範囲を決めて、毛足の短いマットやカーペットを敷いてあげます。活動量が落ちると爪も伸びやすくなるため、定期的に確認するようにします。

ウサギはもぐることが大好きで、暗くて狭い場所を好みます。ただしシニアになると、狭い場所に入ったものの出られなくなることがあるため、ケージ内でも室内散歩でも、出られなくなる可能性がある隙間はつくらないようにします。
また、室内で極端に暑い場所や寒い場所はつくらないようにします。特にウサギは高温に弱く、高温多湿状態は熱中症の原因になります。シニア期では特に1年を通して最適温度になるようにしましょう。隙間に入って出られなくなった場合でも、熱中症になることがあります。
上記の危険や事故を防ぐためにも、室内での散歩や遊びの際は、必ず目を離さずに様子を見守ってください。

写真9:ケージのレイアウト例

長く書いてきましたが、繰り返しお伝えしたいことは「シニアになったからといって、必ずしも極端になる必要はない」ということです。ウサギごとに年の取り方はいろいろです。今回お伝えした最低限の注意点を考慮しつつ、それぞれに合った安全・安心な生活環境を一緒にみつけてあげてください。
ウサギにとって、そして飼い主さんにとって、快適で幸せな生活を送っていただけることを願っています。

この連載は、一般社団法人日本コンパニオンラビット協会(JCRA)「ウサギマスター認定者(ウサギマスター検定1級)」の獣医師で分担しながら、飼い主さんにも知っておいてほしいネザーランドドワーフの基礎知識を解説してきましたが、今回が最終回となります。各回ともに折にふれて読み返していただけると幸いです。

・一般社団法人日本コンパニオンラビット協会
https://jcrabbit.org/

[出典]
・写真2、3、9…『カラーアトラス エキゾチックアニマル 哺乳類編 第3版』(霍野晋吉・横須賀誠 著、緑書房)
・写真7、8…『ウサギの医学』(霍野晋吉、緑書房)

【執筆】
埇田聖也(そねだ・せいや)
獣医師。2018年に山口大学共同獣医学部獣医学科を卒業。同年4月より、奈良県奈良市のあや動物病院 (https://aya-ah.com/)に勤務。犬・猫に加え、ウサギや小型哺乳類、鳥類などのエキゾチックアニマルの診察も積極的に行っている。2022年にJCRAウサギマスター検定1級取得。

【監修】
霍野晋吉(つるの・しんきち)
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部卒業。獣医師、博士(獣医学)。1996年古河アニマルクリニック開業(茨城県)。1997年エキゾチックペットクリニック開業(神奈川県)。現在は株式会社EIC(https://exo.co.jp)の代表を務め、エキゾチックアニマルの獣医学の啓発や教育に関わる活動を行っている。その他、日本獣医生命科学大学非常勤講師、ヤマザキ動物看護大学特任教授、(一社)日本コンパニオンラビット協会代表理事、(一社)日本獣医エキゾチック動物学会顧問なども務める。著書に『カラーアトラス エキゾチックアニマル 哺乳類編 第3版』『同 爬虫類・両生類編 第2版』『同 鳥類編』『ウサギの医学』『モルモット・チンチラ・デグーの医学』(いずれも緑書房)。