御崎馬とは?
御崎馬(岬馬・みさきうま)は、宮崎県串間市の都井岬に生息する日本在来馬の1種です。
今から300年以上前の江戸時代前期、高鍋藩主の秋月家が馬産のために開設した藩営牧場の馬の子孫とされています。当時から周年放牧で飼育され、繁殖も自然まかせで自由に暮らしてきました。
1953年に馬としては唯一、国の天然記念物に指定されています。

観察してみよう
100頭前後の御崎馬が、駒止めの門から岬の先端にある都井岬灯台まで、全体に広く生息しています。入場して程なく現れる大きな芝生の丘、「小松ヶ丘」に全体の約半数、次に見えてくる芝地と林地が混在した「扇山」に全体の約3割が食事にやってきます。他の2割は、道路脇に広がる森の中や、都井岬灯台周辺で暮らしています。

岬の中央部にある「都井岬観光交流館PAKALAPAKA(パカラパカ)」には、観光マップや御崎馬に関する紹介展示もありますので、観察場所などの参考にぜひご覧ください。

御崎馬は、野生動物のわりに人間や車を見ても逃げ出したりしないので、馬本来の行動を間近で観察することができます。都井岬では、長年御崎馬に対して餌やりやお世話をせず、危害も加えないことにより、「人間は利害関係のない動物」だと馬が認知してくれています。これはとても素晴らしいことで、貴重な環境だと野生馬の研究に訪れる方も多いです。
馬は、基本的に臆病な性格で、黙々と草を食んだりしているように見えても、横目で周辺の様子をうかがっています。
馬の感情は耳に表れると言われており、特に分かりやすいものが耳を後ろ向きに伏せている状態で、怒りや不快な感情を示しています。そのような表情をしたり、警戒するように周りを見ていたり、早歩きや小走りをしている馬には近づかないようにしましょう。穏やかに過ごしている馬と、3メートル以上、または状況に応じて更に距離を取って、私達も穏やかに観察してください。

観察における注意点とマナー
都井岬と御崎馬を管理する都井御崎牧組合さんからのお願いと注意事項です。
・駒止めの門を入ると自然保護区域です。制限速度30キロメートルを守ってください。
・むやみに警笛を鳴らさないでください。
・馬が急に飛び出す場合があるので注意してください。
・馬に食物は一切与えないでください。また、近寄ったり、触れたりしないでください。
・ペットや動植物を持ち込まない、持ち出さないでください。
・火気には十分気をつけてください。
他にも、見通しの悪い急カーブの先に御崎馬が居る場合があります。制限速度30キロメートルを守り、ゆっくりと「かもしれない」運転を心掛けてください。また、御崎馬が道路を塞いで車が通れない時もありますので、時間に余裕を持って行動してください。

観察の際に盲点になることは、「馬がこちらへ来た時に備えて、安全に退避できる方向を想定しておく」ことです。
馬の移動スピードは人間より速く、特に足場の悪い場所では馬の方が断然速いです。先日、親子が足場の悪い斜面で観察していると、その方向に御崎馬が歩きだしました。親子は退避するも、馬の方が速くて追いつかれましたが、なんとかすれ違って難を逃れた場面を見かけました。あと数センチで馬と接触し、よろけた親子は斜面を転落して大ケガをしたかもしれない、非常に危険な場面でした。足場の悪い場所でも、平坦な場所でも、観察前に「安全に退避できる方向」を想定しておきましょう。
また、カメラやスマートフォンでの撮影や観察に夢中になっていると、死角から別の馬が接近していることに気がつかない場合が多々あります。時おり周囲にも注意を払いましょう。
観察におススメの時期やスポット
4月から5月頃は出産のピークで、産まれて間もないかわいらしい子馬を観察することができます。そういう意味ではベストシーズンですが、産まれて間もない子馬には母馬が寄り添っています。中には、子馬に近づく人間に対して威嚇や攻撃をしてくる母馬もいます。また、繁殖の時季でもあり、交尾したい雄馬と嫌がる雌馬との小競り合いや、雌馬をめぐる雄馬同士の激しい喧嘩も多く、巻き込まれないよう注意が必要です。4月から6月頃までは、御崎馬から5メートル以上離れて観察してください。

真夏から残暑が厳しい秋口の晴れて気温が高い時間帯は、暑熱を避けて風通しの良い尾根や森林内の木陰で休息する馬が多く、人目に付きにくくなります。朝方や夕方の気温が高くない時間帯に観察すると良いと思います。
大好物の芝も枯れて色が変わる冬場は、ひなたぼっこをしながら草を食む御崎馬が多く見られます。モフモフな冬毛をまとった姿が「ぬいぐるみみたい!」と好まれる方も多いです。

これは私見ですが、四季を通して御崎馬を観察していると「人間より少し暑さに弱く、人間より少し寒さに強い」と感じます。気温が低い時季は害虫が少なく、まとまった雨さえ降らなければ御崎馬は人目に付く場所に多く見られるので、冬場の観察は春に次ぐ良いシーズンだと思います。
海をバックに、2本の柱が立つ大きな広場の向かいにある小松ヶ丘。草地面積が広いので、多くの御崎馬が食事にやってきます。穏やかな天候であれば、多くの御崎馬と出会えるオススメの観察スポットです。


おわりに
御崎馬は、都井岬の大自然の中で自由気ままに暮らしています。荒天時や不快な気候の時などは、馬自身が判断して森の中などに移動し、人目に付きにくくなります。
遠方からの来訪で、宿泊を検討されている方は、できれば都井岬の近くに宿を取り、宿泊前後日どちらでも御崎馬の観察に充てられるような「選択肢のある旅程」をオススメします。悪天候で1頭も姿を見ることができずに次の目的地に向かうしかない詰まった旅程よりも、「前後日のどちらかに御崎馬の観察をする」選択ができれば、急な悪天候にも対応できるかと思います。
年間を通して何回か来訪できる方の場合は、季節を変えて観察されると良いと思います。例えば、小松ヶ丘で同じ午前10時の同じ晴れの天候でも、春夏秋冬で御崎馬の行動パターンの違いなどが観察できて大変おもしろいです。他にも、貴重な植物(絶滅危惧種)も多数あり、野草の観賞も季節を感じられるので、そちらもまたおもしろいかと思います。

【文・写真】
串間市観光物産協会 野生馬ガイド
都井岬の貴重な動植物のガイドを聞くことにより、時間の過ごし方がより一層面白くなるお手伝いをしている。
公式サイト:https://toimisaki.wixsite.com/website
Instagram:toimisaki_funclub