皆さんは、野良の子猫が母猫と一緒ではなく、1匹でいる状況を見たことがあるでしょうか? 保護してあげたい気持ちとは裏腹に、何をすればいいのか分からない方もいると思います。
本記事では、野良の子猫を保護し、家族としてお迎えするにあたり注意すべき点をご紹介します。
保護した子猫のおおよその年齢を考える
生後どのくらいの子猫かによって、必要なお世話や病院を受診するタイミングは変わります。

生後0~10日
目や耳が開いていなかったり、時にはまだへその緒がついている子もいます。
生まれたばかりの子猫の体重は、平均100~110グラムです。嗅覚や触覚、温度感覚は発達していますが、視覚や聴覚は未発達で排泄も自力ではできないため、母親が舐めて刺激して排泄させます。生存のすべてを母親に依存しており、体温調節も苦手です。
この時期の子猫を保護して、お世話の方法が分からない時はすぐに動物病院へ行きましょう。ミルクの飲ませ方や排泄、保温の方法など、お世話の仕方を教えてくれます。
10日~3週
目や耳道が開いて音に反応し、自分で排泄もできるようになります。動きが活発になり、猫らしい動きが見られるようになります。乳歯は生後2週間頃から生え始め、体重は200グラム程度まで増えます。
成長時期に合わせて、離乳食、または子猫用ドライフード、トイレや寝床を準備します。
極端にやせ細っていないか、ご飯を上手に食べられるか、おしっこやうんちに問題はないかなど、体型や体調も確認します。新鮮な便を採取できれば、動物病院で検便をしてもらったり、元気で食欲がある場合は、数日自宅で観察してから病院で健康診断を受けましょう。
3~9週
生後4週間頃には体重がおよそ300~400グラムに増え、生後5週間頃には乳歯が生え揃い、徐々に固形物を食べられるようになります。食べ物の好みは生涯にわたって固定されやすいので、ドライフードのほかにウェットフードなど、様々なフードに慣らしておくことをお勧めします。生育環境によって体重の増加率は変化しますが、生後8週間頃には、約1キログラムになります。
この時期は、社会化期と呼ばれる様々な事を経験し慣らしていく大切な時期です。家族以外の人との触れ合いや、掃除機やドライヤーなどの大きな物音にも慣れさせていきましょう。また、抱かれる事、爪切りやブラッシングなどのお手入れ、キャリーケースに入ったり車に乗ったりと、今後必要なことを無理強いせずに、オヤツなどのご褒美を使いながら練習させましょう。
9週~6ヶ月
高い所に登ったり、ジャンプしたり、狩りのまねのような遊びを始めます。
生後3.5カ月ごろから、歯が永久歯に生え変わり始め、生後4か月ごろには、およそ2キログラムになります。
いずれの成長過程でも、食欲や元気がない、下痢や嘔吐をしている、くしゃみや鼻水、目やにがひどいなど、体調に問題がある場合はすぐに動物病院を受診しましょう。
飼育を始めるうえでの注意点
体の痒みや耳の汚れ、目やには出ていないか、便はコロコロとしているかなど、日々観察してください。
子猫の耳が汚れていて、痒がっているようであれば、耳ダニやノミ、マダニが寄生している可能性があります。猫自体がノミやマダニを介して病気になることもあれば、人に感染する場合もあるので、しっかり予防・駆虫を行いましょう。予防は通年予防が必要です。内服薬が苦手な子が多いので、首の後ろに滴下するタイプのお薬を使用する事が多いです。
下痢や軟便をしている場合は、回虫やコクシジウムなどの内部寄生虫が感染している可能性があります。
寄生虫の種類によって使用する薬剤が違うので、獣医師から処方してもらいましょう。
その他の予防としては、生後2ヵ月頃になると混合ワクチン接種が必要です。獣医師と相談してどの種類のワクチンを接種するかを判断しましょう。
先住猫がいる場合は、動物病院で健康診断を済ませるまでは、別の部屋で飼育しましょう。健康そうに見えても感染性の病気が隠れていたり、縄張り問題からケンカに発展する場合もあります。
どのような用品をそろえる必要があるか
離乳前の子猫には、子猫用ミルクや哺乳瓶、離乳食、トイレが必要です。
離乳が済んでいる子猫の場合、食器やトイレ、キャリーケースやキャリーバッグ、おもちゃ、爪とぎや爪切り、ブラシなどのお手入れ用品、必要があればケージやキャットタワーなどもあるといいでしょう。
食器や水入れ
ひげが当たらない浅めの形状で、少し高さがあると食べやすいです。
猫は、静かに一人で食事をすることを好むので、食事場所は人の出入りの激しい場所や、音の出る家電の近くなどは避けましょう。
トイレ
一般的に、屋根のない体長の1.5倍の大きさで、細かい砂を3センチメートル以上敷いてあるトイレを好むと言われていますが、何が好みかは猫によって異なります。
砂が尿を吸収せずに、トレーの下のシーツに吸収させるシステムトイレというものもあります。どのタイプを好むか、しっかり観察しましょう。


ケージやキャットタワー
猫は、単独で狩りをし、縄張りを見回り、安全な場所で身を隠して休む動物です。高い所に身を隠して周囲を観察する事が好きなので、キャットタワーや棚の上の静かな場所に休息場所を作ってあげるといいでしょう。
ケージで飼育する場合も、上下に運動が出来るように2~3段のケージが好ましいです。最上段は、休息場所として居心地の良い空間にしてあげてください。

爪とぎ
水平面や垂直面など、爪とぎの好みはそれぞれです。素材は段ボールや麻のような布製など、猫の好みに合わせてあげてください。爪とぎは、爪の手入れとマーキングの役割を兼ねています。爪とぎをする場所がないと、壁や家具で爪を研ぐようになってしまいますので注意しましょう。

キャリーケース/バッグ
上部と正面が開くタイプが使いやすいです。
動物病院に行く時だけキャリーケースに入れるようにしてしまうと、キャリーケースを見ると逃げ隠れするようになってしまいます。キャリーケースに入る事に慣れていないと、災害時に猫と一緒に避難する事が出来なくなることもあります。キャリーケースは、普段から休息場所として使用出来るよう、リビングなどに置いておくことをお勧めします。狭い箱に入る事が好きな動物なので、キャリーケースの奥におやつを忍ばせ、自分から入るよう練習を行うとキャリーケースを嫌がらないようになります。


おもちゃ
子猫は、遊びを通じて捕食行動を学び、大人になる準備をします。そのため、狩りのような遊びができる機会を与えないと、発散不足から人に飛び掛かることもあります。おもちゃは、猫じゃらしやボール、おやつが出てくる知育トイなどがおすすめです。ヒモや小さなおもちゃは、誤食してしまう可能性があるので注意が必要です。


フード
歯が生えていない子猫には、子猫専用ミルクを用意しましょう。生まれてからの日数により、与える回数や量が異なります。ミルクは子猫用哺乳瓶を使って飲ませますが、誤嚥させないように注意してください。
歯が生えてくると、哺乳瓶の先を嚙み切って誤食してしまう恐れもあります。
歯が少し生えてきている子猫の場合、子猫用離乳食が必要です。ペースト状の離乳食や、粒の小さな子猫用ドライフードをペースト状にふやかして食べさせてあげてください。上手く呑み込める硬さに調整して、少量ずつ与えましょう。
乳歯が生えそろっている子猫には、子猫用のドライフードを1日3回与えます。子猫用のフードは、粒が小さく食べやすい形状になっています。
アメリカ猫獣医師協会(American Association of Feline Practice)と国際猫医学会(International Society of Feline Society)が発表した「猫にとって快適な環境のためのガイドライン」(AAFP and ISFM Feline Environmental Needs Guidelines, S L H Ellis et al. J Feline Med Surg. 2013.)には、猫と暮らす上で重要なこととして第1~5の柱を掲げています。ぜひ参考にしてみてください。
第1の柱:安全で安心できる場所を用意すること
第2の柱:猫の必要物資を複数用意し、家の複数個所、それぞれの場所を離して設置すること
第3の柱:遊びや捕食行動の機会を与えること
第4の柱:好意的かつ一貫性のある、予測可能な人と猫の社会的関係を構築すること
第5の柱:猫の嗅覚の重要性を尊重した環境を用意すること
おわりに
野良の子猫を保護する際に注意する点について紹介しました。
子猫は、自分だけでは生きていけません。保護をする以上、責任をもって育ててあげてください。
本記事が皆様の役に立ち、同時に子猫の命を救う一助になることを願います。
【執筆】
種廣純子(たねひろ・じゅんこ)
愛玩動物看護師。愛知県名古屋市出身。大学卒業後、動物に携わる仕事に就きたいと強く思い、専門学校へ入学。卒業後、犬山動物総合医療センターへ入社。その後、関東の動物病院で愛玩動物看護師長を務める。2018年から犬山動物総合医療センターに再入社し、愛玩動物看護師(手術担当)と総務を兼任し、広報や企画なども行う。