人間の赤ちゃんは主に母乳を飲んで成長しますが、育児には粉ミルクも欠かせません。うまく母乳が出なかったり、体調が優れない場合などには粉ミルクを与える必要があります。
そんな粉ミルクですが、人間用以外にも、ペットや動物園・水族館の動物用にも作られていることをご存知でしょうか? 今回は、ペット用だけではなく、動物園・水族館で飼育・展示されている動物たち向けの粉ミルクを開発する森乳サンワールドさんに、動物園・水族館用粉ミルクを作る意義や今後の展望について伺いました。
粉ミルクが必要なのは動物も同じ
―森乳サンワールドとは、どのような会社なのでしょうか?
2026年で55周年を迎えるペットフードメーカーです。森永乳業のグループ会社で、ペット用の粉ミルクを主体に開発を始めました。現在は、約110種類のフードやミルク、おやつなどを製造しています。

―動物園・水族館用粉ミルクとはどのようなものなのでしょうか?
その名の通り、園館にいる動物用の粉ミルクです。動物用粉ミルクも人用と同じく、その動物の母乳の成分に近いものを作ります。動物種によって母乳の成分は全く異なりますが、当社では、成分を調べてそれに合わせた開発をすることができます。
―なぜ動物園・水族館用粉ミルクが必要になるのでしょうか?
園館の役割の一つに、種の保存があります。野生動物が繁殖をする場合と違い、飼育下では妊娠から哺乳まで何事もなく進むと思われがちですが、そうでもありません。
―飼育員さんのサポートがあっても上手くいかないことがあるということでしょうか?
たとえば、ジャイアントパンダは通常1頭の子どもしか育てません。双子が生まれた場合、片方の子どもは母親に育てられないので、衰弱してしまいます。そのようなケースや母親の体調が悪い場合に、園館用の粉ミルクが必要になります。
―離乳するまでの代用ミルクとして必要なものなのですね。
粉ミルクは栄養価が高く、効率よく栄養を摂取することができるので、離乳後や高齢動物にも副食として与えることもできます。
もちろん、犬猫などのペットも同様です。生まれてすぐ~シニア期までずっと粉ミルクを使って欲しいという願いを込めて、「生涯ミルク」と銘打ち、年齢ステージ別に必要な成分や機能性を持たせた粉ミルクを製造しています。

きっかけは動物園からの依頼
―動物園・水族館用ミルクを開発するきかっけは何だったのでしょうか?
上野動物園の獣医師から、パンダ用の人工ミルクの開発を依頼されたことがきっかけです。

―以前、「いきもののわ」でパンダミルクについて取り上げさせていただきました。
粉ミルクの開発はその動物種の母乳を参考に行うので、パンダミルクの開発にはパンダの母乳が必要でした。しかし、パンダの母乳が手に入らず、研究データも不足していました。
―どのように解決したのでしょうか?
詳しくは、以前掲載した記事(パンダも粉ミルクを飲む!? 森乳サンワールドがつくる「パンダミルク」の開発秘話)をぜひ読んでいただきたいのですが、近縁種であるクマの母乳を参考に最初のパンダミルクを開発しました。
―クマの母乳を参考に作られたミルクを与えていたということですね
パンダの母乳の成分解析ができるようになった後は、改良された現在の「パンダミルク-10」を製造しています。
―その後、他にはどのような動物園・水族館用粉ミルクを開発したのでしょうか
パンダミルクをきっかけにクマミルクを開発し、その後、エレファントミルクと海獣ミルクを開発しました。エレファントミルクはグルコサミンが多く含まれており、海獣ミルクには脂肪分が多いという特徴があります。

ゾウは、ミルクを1日に十数リットルも飲むそうです。大量に生産する必要があるので、エレファントミルクだけは受注生産となっています。実は、緑書房さんから出ている『動物園・水族館の子づくり大作戦』(成島悦雄 編著、2024年)のアジアゾウの項で、弊社のエレファントミルクについて触れられているんです。
それから、種が異なる場合でも近縁種など母乳成分が近しい動物に対して与えることができるので、パンダミルクをレッサーパンダにも使用している事例もあるようです。
また、ペット用粉ミルクを調整して与えていることもあるそうです。

―実際に森乳サンワールドさんの粉ミルクを与えている動物園・水族館を教えてください。
桂浜水族館では、オットセイの赤ちゃんに「ドッグミルク」を与えているそうです。社員がたまたまXの投稿を見つけて、その後ドッグミルクを提供しています。

―偶然見つけて、提供もしたのですね!
このオットセイの赤ちゃんは、生まれてから2025年1月29日までに300缶以上ドッグミルクを飲んでくれているそうです。

―他にも、多くの園館で森乳サンワールドさんの粉ミルクを与えているのではないかと思います!
そうだと嬉しいですね。動物園・水族館用粉ミルクは利益を追求する商品ではなく、種の保存に貢献するために製造しています。かわいい動物たちに貢献できていれば、大きなモチベーションになります!
―動物園・水族館用粉ミルクについて、課題はありますか?
社内での技術の伝承と、ミルクの用途・用法などに関する情報をいかに園館に提供できるかが大きな課題です。エレファントミルクのように受注生産をしているものもありますが、基本的に当社で直接販売を行っているわけではないので、嗜好性や必要な栄養素などのフィードバックをいただける環境を整えたいです。


―2026年に55周年を迎えるそうですが、そこに向けて何か取り組んでいることはありますか?
私たちが製造した粉ミルクをどこの園館が利用しているかを、現在調査中です。そして、実際に使用している現場に伺い、使用感を聞いたり、社員からの質問に答えていただいています。動物園・水族館用粉ミルクをより需要に合ったものにしていきたいと考えています。
―その取り組み以前に感想をもらったことはありますか?
海獣ミルクを開発したときに、「ペット用のミルクをアレンジしなくても、最初から脂肪分が多めに調整されていて使いやすい」という声をいただいたことがあります。
園館のスタッフさんにとって使いやすく、動物たちにも欠かせない粉ミルクを目指したいです。

―最後にメッセージをお願いします。
私たちペットフードメーカーは裏方で、主役である動物たちがおいしいと感じるミルクやフードを作っています。多くの人が見て喜ぶ動物たちのかわいい姿や、かっこいい姿を支える仕事に携わっていると思いながら取り組んでおりますので、55周年を迎える森乳サンワールドにご期待ください。
―ありがとうございました! これからも動物たちのために頑張ってください!
森乳サンワールド
・ホームページ…https://www.morinyu-pet.com/
・X…@morinyu_pet
・Instagram…@morinyu_pet