フォトエッセイ 猫に呼ばれて世界の街へ【第24回】歩き回って出会えた猫たち(香港)

香港にはこれまで何度も立ち寄ってきましたが、その多くは飛行機の乗り継ぎのためでした。数時間から、長くても一泊するだけで、いつも時間に追われるように過ごす街でした。
今回は、そんな香港を「目的地」とし、街角で暮らす猫たちに会いに行く旅です。

気になるエリアをひたすら歩き回りました。坂の多い細道を抜け、古びた建物の隣にそびえる高層ビルを見上げ、乾物や香辛料の独特な香り、街のざわめき、ネオンが滲む夜景まで、五感を総動員して香港を味わいました。
ある日は、スマートウォッチに表示された歩数が5万歩近くになっていて、自分でも思わず目を疑いました。しかしそのぶん、歩き回った後に食べた飲茶は格別で、体にしみ渡るような美味しさでした。

5万歩歩いて出会った猫たちを紹介していきます。
まずは市場で出会った猫たちです。

私が訪れたのは旧正月が過ぎたばかりの2月。市場には、日本語の文字が入ったイチゴの箱がいくつも積まれていました。香港では日本のイチゴが人気だと聞いていましたが、想像以上の光景でした。
果物がぎっしり並ぶ店先には、人懐っこい猫がいました。お客さんに撫でてもらうのが日課のようです。お客さんにすり寄っていくとき、果物の上に乗っているのかと驚きましたが、よく見るとディスプレイ用のサンプルでした。いたずらっぽい表情がなんともいえず、可愛らしく感じました。

その近くでは、若いきょうだい猫たちが、お客さんからもらったおもちゃのネズミを追いかけて遊んでいました。本物が現れた時のために、予行練習をしていたのかもしれません。

倉庫にも猫の姿がありました。段ボールが無造作に積み上げられ、その隙間や段差を猫たちがキャットタワーのように器用に駆け回っていました。

ふと顔を上げると、屋根の上を猫がゆっくりと歩いていました。混雑して思うように歩けない市場の上を、自分のペースで移動するその姿が少しうらやましく思えました。

かばん屋では、店先に並べられたスーツケースの上を猫が自由気ままに歩いていました。まるでこの店の店員のような、慣れた足取りでした。

乾麺屋の店先にいた大柄な猫はとても甘えん坊で、通りがかりの人に撫でてもらっては嬉しそうに目を細めていました。店主のおじいさんも、その様子を見て微笑んでいました。

香港の中心部からさらに足をのばし、電車と船を乗り継いで辿り着いたのは小さな港町。車が通れないほど細い路地が入り組み、どこか懐かしさを感じる、時間の流れがゆったりとした場所でした。

ここでも、店先で猫に出会うことができました。

町の一員として穏やかに暮らす猫たちの姿もありました。猫用の立派な家が設けられていて、町の人々に大切にされていることが伝わってきました。顔見知りの人たちが次々に声をかけ、猫はそのたびに返事をするようにしっぽを揺らしていました。そんなやりとりを見ていると、心がほっこりと温かくなりました。

猫に会いたくて歩き回った香港でしたが、街の温かさ、人々の優しさ、文化や流行にもたくさん触れることができました。たくさん歩いて、たくさん食べて、「美食の街」香港は心も胃袋も満たしてくれました。

【文・写真】
町田奈穂(まちだ・なほ)
猫写真家。水中写真家・鍵井靖章氏との出会いをきっかけにカメラを始める。「猫×彩×旅」をテーマに、世界中を旅しながら各地で出会った猫たちを撮影。これまでに35ヶ国以上を訪れ、2023年には念願の世界一周を果たす。2023年、2024年に富士フォトギャラリー銀座にて個展を開催。その他企画展やSNS等を通じて作品を発表している。
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