今回は、旅の記録から少し離れて、視点を変えた話題にしたいと思います。
今年の初夏、函館にあるお寺で開催された写真展に参加させていただきました。会場は畳敷きの静かな空間で、訪れた方々が腰を下ろしてゆっくりと作品と向き合える穏やかな時間が流れていました。その雰囲気に合わせて、私は「宗教と猫」をテーマにした展示を行いました。
宗教というと少し堅い印象を持たれるかもしれません。でも、旅先でそのような場所を訪れると、その土地ならではの空気や人々の暮らしを感じられることがあります。そして、神聖な雰囲気の中に猫がいることもあります。まるでその土地に自然に馴染むような姿に、私は何度も心を動かされてきました。
今回は、ギャラリーとはひと味違う落ち着いた空間で展示した作品の中から、いくつかをご紹介します。
タイ
タイ王国では、都市部だけでなく地方や離島に至るまで、さまざまな場所で仏教寺院を見かけます。境内では線香の香りが静かに漂い、金色の仏塔が陽射しを受けて輝いていました。そんな寺院で、猫と鶏が仲良く同じ鉢の水を飲む微笑ましい光景に出会いました。その穏やかなひとときに、慈しみの心を、少しだけ近くに感じられたような気がしました。

カンボジア
国民の大多数が仏教徒のカンボジア。寺院では、オレンジ色の袈裟を身にまとった僧侶たちが修行や学びに励む姿を見かけます。オレンジ色にはさまざまな意味があるようですが、その一つに悟りへの道を象徴するというものがあります。一方で、その袈裟がつくる日陰で休む猫にとっては、南国の日差しをやわらげてくれる、ありがたい避暑の場所という意味になるのかもしれません。

ラオス
国民の多くが上座部仏教を信仰するラオス。世界遺産に登録された古都ルアンパバーンでは、さまざまな世代の僧侶や修行僧の姿を目にします。早朝の静まり返った道には、托鉢僧たちの長い列とそれを迎える人々の姿がありました。日中、寺院で作業する僧侶のそばには猫が座り、ゆるやかに流れるメコン川のように穏やかな時間が漂っていました。

モロッコ
イスラム教が主要な信仰であるモロッコの街中では、幾何学模様をあしらった建築や装飾をよく見かけます。偶像崇拝を禁じるイスラム教では、人や動物の姿は描かず、幾何学模様を通じて神の無限性や秩序を表現する文化が根付いています。そんな精緻なデザインが多いこの街で、丸みを帯びた猫の姿は目を引きます。

マルタ
地中海に浮かぶ小さな島国であるマルタ。紀元前から人々が暮らしてきたこの国は、長い歴史のなかで周辺諸国から幾度も影響を受けてきたそうです。ローマ帝国時代にはキリスト教が国教となり、現在でも多くの教会が残っています。教会前の広場で出会った猫は背筋を伸ばし、どことなく気高い雰囲気を漂わせていました。

ギリシャ
ギリシャ正教を国教とするギリシャでは、丸いドーム屋根を持った教会が多く見られました。サントリーニ島といえば青いドーム屋根が有名ですが、ここは白いドームでした。夕暮れどき、少しずつ暗くなっていく空のなかに、ぽっかりと浮かぶドームと一匹の猫。その静謐な美しさは、息をのむほどでした。

クロアチア
アドリア海に面したクロアチアの世界遺産都市、ドゥブロヴニク。12~17世紀にかけて築かれた城壁に囲まれた旧市街には、石畳の道や教会など、中世の面影が残る風景が広がっています。古い教会へと続く石段を見上げると、晴れ空の下、街並みになじむ毛色の猫と目が合いました。

それぞれの場所には、目には見えないけれど大切にされているものがあります。その土地の人々が守り継いできたぬくもりや静けさに触れると、旅先で過ごした時間がより深く胸に刻まれるように感じます。そんな空間に猫たちは自然に溶け込み、旅人である私の心にそっと安らぎを残してくれます。
【文・写真】
町田奈穂(まちだ・なほ)
猫写真家。水中写真家・鍵井靖章氏との出会いをきっかけにカメラを始める。「猫×彩×旅」をテーマに、世界中を旅しながら各地で出会った猫たちを撮影。これまでに35ヶ国以上を訪れ、2023年には念願の世界一周を果たす。2023年、2024年に富士フォトギャラリー銀座にて個展を開催。その他企画展やSNS等を通じて作品を発表している。
Instagram:cat_serenade
X:naho_umineko
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