サンショウウオを調べるうえで最も重要なことは、そのサンショウウオが日本のどの地域で見られたのかということです。これは、種を見極めるうえで非常に重要な要因となっています。
サンショウウオは、卵を産む環境が「流水なのか」「止水なのか」によって、大きく二つに分けられます。見た目が似通ったサンショウウオが多く暮らす日本では、特に止水性のサンショウウオを見分けることが難しく、今回紹介するアブサンショウウオもその一種です。

名前の「アブ」は、山口県・北西部にあたる元長州藩の阿武郡から付けられました。アブサンショウウオは山口県と島根県の一部に分布しています。標高150~1000メートル近くの山にも暮らしており、分布が個体を見極める手掛かりにもなっています。私が観察した場所は、民家先の水路から山中にまでおよび、環境への適応力は高いと思われます。
通常は2月から産卵が始まりますが、標高が高い場所では5月ごろに行われ、水田や湿地にコイル状の袋に包まれた卵を産卵します。袋表面には細かな線が密に見られます。

また、アブサンショウウオは大型になることが知られています。私が見た全長12センチメートルを超える大型のオスは、非常に迫力がありました。頭が大きく、足が長く、尾も非常に長いため、見ごたえが抜群のサンショウウオです。
通常は、春に生まれた幼生たちが夏には変態して上陸し森に分散するのですが、産卵環境の水温が低いと幼生のまま越冬して、そのまま春を迎える個体もいます。

研究者に夜間観察へ連れて行っていただいたことがありました。懐中電灯に照らされたメスを待つオスは金色に輝き、まるで海外の派手なイモリのようでした。おそらく繁殖最盛期を迎えたボスのような個体なのでしょう。

カラーバリエーションは多彩なようで、オリーブ色で黒褐色の個体や銀白色の斑紋が散在するものなどが一度に見られました。短期間に狭い場所で産卵するため、良好な産卵場所は大賑わいになります。
早春の小さな水辺で繰り返されるドラマですが、このような環境が残る各地域には、毎年見守り続けている地元の方がいます。そのような方に同行してこの素晴らしい命のつながりを伝える活動が、多くの方にとって、後世に残る自然保護のきっかけになれば嬉しいです。
【文・写真】
関 慎太郎(せき・しんたろう)
1972年兵庫県生まれ。自然写真家、びわこベース代表、日本両棲類研究所展示飼育部長。身近な生きものの生態写真撮影がライフワーク。滋賀県や京都府内の水族館立ち上げに関わる。『日本のいきものビジュアルガイド はっけん!』シリーズ(田んぼのいきもの、カナヘビ、小型サンショウウオ、ニホンイシガメ、ニホンヤモリ、トカゲ、イモリ、ニホンアマガエル、オタマジャクシ、オオサンショウウオ)、『野外観察のための日本産両生類図鑑 第3版』『同 爬虫類図鑑 第3版』、『世界 温帯域の淡水魚図鑑』、『日本産 淡水性・汽水性エビ・カニ図鑑』(いずれも緑書房)、『うまれたよ! イモリ』(岩崎書店)、『日本サンショウウオ探検記 減り続ければいなくなる!?』(少年写真新聞社)など著書多数。
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