ブンチョウと暮らそう!―飼育の基本とかかりやすい病気

ブンチョウについて

ブンチョウ(学名:Padda oryzivora、写真1)は、スズメ目カエデチョウ科ブンチョウ属に分類される鳥です。
原産地はインドネシアのジャワ島とバリ島で、寿命は7~10年ほどです。

写真1.左:サクラブンチョウ、右:シロブンチョウ

食事

飼育下での主食は、大きくシードとペレットの2つに分けられます。

シード

アワ、ヒエ、キビ、カナリーシードなどの穀物種子(シード)を主食にしている場合は、副食としてカルシウム(カルシウム剤、カトルボーンパウダー、ボレー粉など)、サプリメント(ビタミン、ミネラルなど)、青菜をバランスよく与える必要があります。特に、ヨウ素(ヨード)はシードだけでは不足しがちなため注意が必要です。皮をむいて食べることはブンチョウの楽しみの一つでもあるため、シードはむき餌ではなく皮付きをおすすめします。

ペレット

人が作った総合栄養食であるペレットを主食にしている場合は、基本的に副食は必要ありません。食べる楽しみとして、青菜やシードをおやつ程度に与えると良いでしょう。

飼育環境

健康な個体であれば過保護にする必要はありませんが、近年の極端な暑さや寒さには注意が必要です。外気温が30度を超える日には冷房を使用し、ブンチョウが羽を膨らませて寒がる(膨羽)ような日には、しっかりと保温をしてあげてください。健康な子であれば、室温を25度~28度に保てば安心でしょう。そこからブンチョウをよく観察して、膨羽していれば温度を上げて、暑がっている場合には温度を下げてあげてください。
ブンチョウは、暑いと犬のように口を開けてハァハァと呼吸したり、羽を縮めて身体を細くしたり、翼をだらんと下垂したりします。

また、ブンチョウは水浴びが大好きです。水浴びが十分にできていないと羽の質が低下するため、毎日水浴びができる環境を用意しましょう。

ブンチョウならではのふれあい

ヒナのときから人が育てると、とても人に慣れた「手乗りブンチョウ」になります。手乗りブンチョウは、飼い主と一緒にいる時にすごく幸せそうにしてくれて、手の中で眠ったりすることもあります。

一方で、新しい食器などの初めて見るものに対してすごく警戒する怖がりな面や、気が合わない他の個体とは激しく喧嘩したりする気の強い面もあります。

しっかりと観察をして、自分のブンチョウがどのような性格なのかを見極めましょう。

ブンチョウがかかりやすい病気と、家庭でできる予防

コクシジウム症

コクシジウムの一種であるIsospora lunarisの感染による病気です。若いブンチョウで発症することが多く、腸炎を起こして糞便に粘液が混ざるなどの症状を起こします。診断は、糞便の顕微鏡観察でコクシジウムのオーシスト(卵のようなもの、図1)を検出することで行います。

予防としては、発症する前に駆虫することが重要です。ショップからお迎えしたら、早めに健康診断を受けることをおすすめします。また、糞便検査を受けていない個体との接触を避けることも大切です。

図1.コクシジウム(Isospora lunaris)のオーシスト

トリコモナス症

ハトトリコモナスという原虫の感染により、口腔内、食道、およびそのう(食べ物を一時的に溜める袋)に炎症を起こす病気です(写真2)。特に免疫力の低下した個体で発症しやすく、お迎え直後などに発症することが多いです。

コクシジウム症と同様、発症する前の駆虫が予防としては重要です。お迎えしたら早めに健康診断を受け、そのう液検査(そのう内の洗浄液を調べる検査)を受けていない個体との接触を避けましょう。

写真2.トリコモナス症により口内炎を起こしたブンチョウ

卵詰まり

本来産卵すべきタイミングで、自力で卵を産むことができない状態を指します。特に冬季に多く、元気や食欲の低下、嘔吐、膨羽(羽を膨らませる)、頻繁ないきみ、呼吸が速く苦しそうになるなどの症状がみられます。命に関わることも多いので、このような症状がみられたらすぐに病院に相談しましょう。

予防としては、日頃からしっかりとカルシウムを与える、過発情(卵を産みすぎる状態)を予防する、急激な気温の低下を避けるなどが有効です。

排泄腔脱・卵管脱

排泄腔(はいせつくう:フンや尿、卵が出るところ)や卵管(卵の通り道)が反転し、お尻から出てしまう状態です。非常に危険な状態なので、発見したらすぐに病院に相談してください(写真3)。

産卵に関するトラブルが原因のことが多く、予防の基本は卵詰まりと同じです。また、1シーズンで10個以上産卵していたり、殻が薄い卵や変形した卵などの異常卵を産んでいたりする個体では、これらの重大な病気になるリスクが高いため早めに病院に相談することをおすすめします。

写真3.卵管脱

過緊張性発作

重度の緊張から、翼や足をビクつかせてけいれん発作を起こします。個体の性格により発作の起こしやすさに差があり、若いときは平気でも高齢になるにつれて発作が起こりやすくなる子も多いです。

発作を起こしやすい個体は、無理に体を押さえることは避け、できるだけ通院の頻度を減らすなどして緊張する状況を作らないことが予防になります。発作が出た場合は、無理に触らずそっとしておくことで落ち着くことが多いです。

甲状腺腫

ヨウ素不足から甲状腺が腫れ、その結果、呼吸器や消化器、循環器などを圧迫する病気です(図2)。血を吐いて突然死してしまうことも多いです。症状としては、ヒューヒューと呼吸音がする、嘴(くちばし)を開けて苦しそうに呼吸するなどがみられます。

予防としては、ヨウ素をしっかりと含んだ信頼できるサプリメントを与えること、ヨウ素の吸収を阻害するブロッコリーなどのアブラナ科植物を多給しないことが有効です。

図2.左:正常なブンチョウのX線画像、右:甲状腺腫のブンチョウのX線画像

頚部腫瘤

首にリンパ腫や胸腺腫などの腫瘍が発生することがあります(写真4)。

今のところ有効な予防法は見つかっていません。治療はステロイドの投薬が有効なことがあり、外科的な摘出が可能な場合もあります。

写真4.頚部腫瘤

尾脂腺の分泌不全

尾脂腺(びしせん:羽に塗る脂を分泌する器官)の分泌物が詰まって貯留してしまった状態です(写真5)。詰まりやすい個体の場合は定期的に動物病院で排出処置をしてもらうことで巨大化を防ぐことができます。また、尾脂腺には腫瘍が発生することも多いため、普段の健康チェックの時から注意して観察するようにしましょう。

写真5.左:正常な尾脂腺、右:分泌物が貯留した尾脂腺

皮膚真菌症

特に頭部に発生することが多い皮膚炎です(写真6)。黄色いカサブタの形成や、白いフケの堆積が認められます。水浴び不足や、羽繕いの頻度の低下で起こることが多いです。特に高齢個体では脚力の低下から、足で頭を掻くことが難しくなるため頭部に皮膚炎が起こりやすくなります。予防としては、毎日水浴びできる環境で飼育すること、羽繕いが難しい子には人が羽繕いを手伝ってあげる(難しい場合は定期的に動物病院で実施してもらう)ことなどが有効です。

写真6.皮膚真菌症

胃腸炎

未消化の粒がそのまま排せつされる全粒便や、胃出血による黒色便(メレナ)、粘液便、下痢などの症状がみられます。原因は様々で、細菌、真菌、寄生虫の感染、ボレー粉や砂の食べすぎによる胃腸の物理的損傷(図3)、換羽(羽が生え換わること)による疲労などがあります。予防としては、砂は与えない、ボレー粉の多給は避ける、換羽や季節の変わり目など体調不良を起こしやすい時期は温度管理と栄養管理を徹底するなどの対応が有効です。

図3.ボレー粉の食べすぎにより胃腸炎を起こしたブンチョウのX線画像

肝腫大

肝臓が大きく腫れて他の臓器を圧迫することで、呼吸が荒くなったり、活動性が低下したりします(写真7)。原因はリンパ腫や肝細胞癌などの腫瘍、あるいは抗酸菌の感染など様々ですが、生きているうちに診断することは困難です。現在のところ、有効な予防法はありません。感染の可能性がある場合は、他の個体との隔離で蔓延を予防できる可能性があります。治療に反応する場合もあるため、動物病院で治療方針について相談してみてください。

写真7.肝臓の腫大

放鳥中の事故

踏んでしまう、扉に挟まる、鍋に飛び込む、観葉植物や人用の薬を誤食してしまう、など放鳥中の事故は非常に多いです。悲しい事故を防ぐためにも、放鳥するときには危険な場所には行けないようにして、目を離さないようにしましょう。

おわりに

ブンチョウは非常に賢く、深い信頼関係を築くことができる素晴らしい伴侶動物です。一方で、感染症や日々の食事、産卵に関連するトラブルなど、特有のかかりやすい病気がいくつもあります。
病気の予防と早期発見のためにも、家庭での日々の観察と健康チェック(食欲や排せつ物、呼吸、体重など)を欠かさずに行い、動物病院で定期的な健康診断を受けることをおすすめします。そして、少しでも「いつもと違う」と感じたときは、早めに鳥を診ることができる動物病院に相談してみてください。みなさんが、ブンチョウと愛情にあふれた時間を過ごせることを願っています。

【執筆】
上田通裕(うえだ・みちひろ)
獣医師。たかつき鳥の病院(大阪府高槻市)院長。北里大学獣医畜産学部獣医学科卒業。横浜小鳥の病院、春日丘動物病院での勤務を経て、2017年にたかつき鳥の病院を開院。鳥類臨床研究会認定会員。子どもの頃に飼っていたブンチョウがきっかけで鳥の獣医師を志した。

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