前回は、イングランド西部マルヴァーンで開かれる「スリー・カウンティーズ・ショー(Three Counties Show)」 を紹介しましたが、今回はイングランド北部ヨークシャーで開催される「グレート・ヨークシャー・ショー(Great Yorkshire Show)」についてお伝えします。

グレート・ヨークシャー・ショーは、イングランド最大規模の農業ショーとされており、イギリスの畜産・農業のショーケースとして世界的な注目を集めています。
会場は、ノース・ヨークシャー州ハロゲイト郊外にある Great Yorkshire Showground です。約250エーカー(およそ100ヘクタール)の広大な草地に、常設の大きなショーリングやスタンド、牛・羊・豚などの家畜舎、展示ホールが整備されており、年間を通じて各種イベントに利用されているとのことです。近年は4日間で約14万人が訪れたと報じられています。私が訪れた2019年は3日間の開催(2019年7月9〜11日)でしたが、そのスケールの大きさに圧倒されたのを覚えています。


ショーの中心となるのは、牛、羊、豚、馬、さらにはポニーやヤギなど、多様な家畜の審査(品評会)です。品種ごとに分かれてリングに登場し、体型や被毛、歩様などが厳密に評価されます。重種馬の牽引競技や馬車、ポニーのクラスの審査など、馬関連の競技が多かったことが印象的でした。


さらにメインリングでは、一日を通じてさまざまなプログラムが進行していました。牛や羊、重種馬のパレード、ハウンドやビーグルなどの犬種による行進、羊の毛刈り、牧羊犬トライアルや削蹄・蹄鉄づくりの実演など、農業とカントリーライフに関わる技能が次々と披露されます。


最終日には、伝統ある障害飛越競技「Cock O’ the North」が行われ、ハイレベルな馬術競技で締めくくられました。


競技終了後に、会場のお客さんが空をじっと見ていると思ったら、イギリス空軍のパラシュート部隊がメインリングに降りてきてたいへん驚きました。


また、大手酪農機器メーカーが、搾乳牛の牧場を会場内に再現した展示も行っていました。フリーバーン方式の牛舎に数十頭のホルスタイン牛が収容され、ロボット搾乳機が設置されていました。このシステムでは人が介在せず、牛たちは牛舎内を自由に歩き回り、搾乳のタイミングになると自らロボット搾乳機に入って自動的に搾乳を受けます。


牛舎内には自動回転ブラシも備えられており、一般的な規模のフリーバーン農場を会場内にそのまま持ち込んだような構成で、最新の乳牛飼養システムを来場者に示す展示になっていました。

さらに会場内には、ヨークシャー各地のチーズや肉製品、ベーカリー、エールやサイダーなどを試食・購入できるフードエリアが並び、農機具や搾乳機器、飼料、牧草機械などの展示も充実していました。


前回紹介したスリー・カウンティーズ・ショーでも感じましたが、このような農業ショーでは都市部の来場者にとっては「農業の現在」を一度に俯瞰できる場であり、生産者にとっては情報交換と販路拡大の機会になっているようでした。農家と一般市民が、同じ空間で家畜と向き合うことができるイギリスの農業ショーは、畜産のあるべき姿を考え、希少な家畜などの資源やアニマルウェルフェアを考えるうえでも重要な役割を果たしているように感じます。

【文・写真】
伊藤秀一(いとう・しゅういち)
東海大学農学部動物科学科教授、家畜写真家。1972年東京都生まれ。麻布大学獣医学部環境畜産学科卒業後、麻布大学博士課程修了。北海農業研究センターなどの研究所での勤務を経て、現在は熊本県の東海大学農学部で農用動物と動物園動物の行動およびアニマルウェルフェアを研究している。2019年に1年間、スコットランド農業大学 動物行動学・福祉学チームへ留学。著書に『まきばなかま』(東海教育研究所)、『動物福祉学』(共著、昭和堂)、『動物行動図説』(共著、朝倉書店)、『畜産』(共著、実教出版)など。
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