前編では、腸内環境の重要な構成要素である腸内細菌叢が一つの臓器として体内でさまざまな代謝活動を行っていること、腸内細菌叢の異常が全身的な疾患の発生に関わること、そして犬や猫の腸内細菌叢は細かい菌種の違いこそあれ、全体的なバランスや機能は人間と大きな差が無いことを解説しました。後編では、この腸内環境を改善させるためにできることを解説します。
腸内を整えるにはどうすればいい?
腸内細菌叢は、実に多くの因子によってその菌種構成が変化しています。生理的なものとしては、前編で記載したような腸粘膜における免疫バランスの影響や腸の蠕動、胃酸・膵液分泌による細菌の過剰な増殖抑制、およびこれらに作用する神経学的な制御やホルモン分泌などが含まれます。さらに、加齢によってもこれらのバランスは変化していきます。腸内細菌叢が加齢とともに変化することは、犬でも報告されています。また、生活環境の衛生状況やストレス状態、食事内容なども腸内細菌叢に大きく影響を与えることが知られています。
これに対して、人為的に腸内細菌叢を改善させようとする場合、食事療法やプロバイオティクス・プレバイオティクスなどが代表的な選択肢となります。
食事の選び方
腸内細菌叢に影響する代表的な栄養素として、たんぱく質や脂質、炭水化物の三大栄養素があげられます。さらに、後述するプレバイオティクスと呼ばれる可溶性の食物繊維を豊富に含む食事は、酪酸などの短鎖脂肪酸の産生源となり、病原菌の抑制や制御性T細胞の誘導など、腸内環境のバランス維持に大きく関わります。その他、オメガ3脂肪酸や抗酸化物質などの多くの栄養素は、腸粘膜の免疫バランスや粘膜バリア機能の維持などに関わることが知られています。

とはいえ、これらは過度に増減させると健康を害する可能性があるため、基本的には一定の基準をクリアしている「総合栄養食」と表記されたものを選択することが望まれます。近年では、こうした総合栄養食の中でも、可溶性繊維を添加したものが増えてきています。
手作り食については、「全ての栄養素を過不足なく添加したレシピ」が確立されていない点に注意が必要です。そのため、基本的には総合栄養食にトッピングする形で与えていくことが推奨されます。手作り食だけで生活させていく場合は、必ず獣医師の指示のもとで食べさせるようにしましょう。
プロ・プレ・シン・ポストバイオティクスとは
プロバイオティクスとは、乳酸菌やビフィズス菌などの有益菌を補充する製剤のことを指す用語であり、以前から下痢の治療などに使用されています。
これに対し、プレバイオティクスはイヌリンやオリゴ糖などの可溶性食物繊維のことを指し、プロバイオティクス(有益菌)が活動するための餌となる成分です。いずれも腸内細菌叢を改善させ、腸管内で産生される短鎖脂肪酸を増加させることが犬や猫でも報告されています。さらに、プロバイオティクスにプレバイオティクスを併用することでその効果が増強されることが知られており、この双方を含んだものがシンバイオティクスと呼ばれています。

プレバイオティクスは、もともとお腹の中にいる有益菌も増強するため、より確実に腸内環境の改善効果が狙えると考えられています。また、前述のように、プレバイオティクスがペットフードの中に添加されることが増えてきているため、「投薬する」という手間が不要で、愛犬・愛猫にストレスをかけることなく、日々の栄養管理の一環として継続できることもポイントです。
この他、プロバイオティクス菌が産生する有益物質(ポストバイオティクス)を直接投与することで、腸内環境を改善させる治療法も始められています。犬や猫ではまだデータの少ない概念ですが、今後プロ・プレバイオティクスと併用する機会が増えることが期待されています。
おわりに―今後の展望
これまで、抗菌薬や副腎皮質ステロイド薬、抗がん剤などが必要とされてきたような犬や猫でも、プロ・プレバイオティクスで改善するケースは少なからず存在します。では、プロ・プレバイオティクスは、いつ使用すれば良いのでしょうか?
個体ごとの腸内細菌叢の解析データは膨大なので、臨床現場では活用されてきませんでした。しかし、医学領域ではAIを駆使して腸内細菌叢の改善方法を探り、慢性疾患の治療・予防につなげる個別化医療方法が研究されています。特に、近年はAIが発展してきているので、犬や猫でもこうした個別化医療の導入が、そう遠くない未来に実現されるかもしれません。

これにより、個体ごとに腸内環境を改善させるために最適な食事のレシピやプロ・プレバイオティクスなどを選択し、様々な慢性疾患の治療や予防につながる可能性が期待されています。
残念ながら、現時点においてこのような個別化医療はまだ利用できませんし、「腸内細菌叢/腸内環境に最も良いレシピ」とうものも確立されていません。そのため、少なくとも過度な栄養組成の偏りがない食事(すなわち総合栄養食)を与えつつ、衛生的かつストレスの少ない生活環境を心掛けていくことが望まれます。その上で、本人の嗜好性も確認しながら野菜などの食物繊維をおやつとしてトッピングしたり、可溶性繊維の添加された食事を選択したりすることで、腸内環境の改善を目指していきましょう。

[参考文献]
・Hall EJ. “Antibiotic-responsive diarrhea in small animals”, Vet Clin North Am Small Anim Pract, 41:273-286, 2011.
・Barko PC, McMichael MA, Swanson KS, et al. “The Gastrointestinal Microbiome: A Review”, J Vet Intern Med, 32:9-25, 2018.
・Yang B, Zhong S, Wang J, et al. “Dietary Modulation of the Gut Microbiota in Dogs and Cats and Its Role in Disease Management”, Microorganisms, 13, 2025.
・Schmitz SS. “Evidence-based use of biotics in the management of gastrointestinal disorders in dogs and cats”, Vet Rec, 195:26-32, 2024.
・Dupouy-Manescau N, Meric T, Senecat O, et al. “Updating the Classification of Chronic Inflammatory Enteropathies in Dogs”, Animals (Basel), 14, 2024.
【執筆者】
五十嵐寛高(いがらし・ひろたか)
獣医師。麻布大学獣医学部獣医学科 小動物内科学研究室 准教授。2005年に北海道大学を卒業し、動物病院勤務や東京大学での研修医・大学院、酪農学園大学勤務を経て現在。犬や猫を中心に、腸内細菌叢制御による疾患予防法の研究・開発を行っている。共著に『新 伴侶動物治療指針3』、『犬の内科診療 Part 3』、『猫の診療指針 Part 2』(いずれも緑書房)など。
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