魅力的なコスタリカの鳥たちを訪ねて【第1回】
ケツァールの姿を求めて

手塚治虫「火の鳥」のモデル、ケツァール(カザリキヌバネドリ)

ケツァールは世界でいちばん美しい鳥といわれ、バードウォッチャー憧れの存在です。現地の言葉で「大きく輝いた尾羽をもった鳥」という意味ですが、正式には「カザリキヌバネドリ」といいます。漫画家・手塚治虫「火の鳥」のモデルになった鳥としても有名です。雄の尾羽は長く、全長1メートルほどにもなります。

メキシコ南部からパナマの山岳地帯の森林に生息していますが、もっとも観察しやすいのがコスタリカです。コスタリカは観光立国ともいわれ、現地の自然ガイドや宿泊地も充実しています。

バードツアーに参加

筆者はこの鳥の姿をぜひ見てみたいと思い、コスタリカのバードツアーに参加しました。観光地を巡るのではなく、もっぱら野鳥を観察するという鳥好きにはうってつけの旅です。直行便はなく、成田空港からアトランタ経由で、コスタリカの首都サン・ホセまで20時間ほどの飛行機旅です。

ケツァールはアボカドの実が大好物で、この木の場所が観察ポイントになります。アボカドといっても野生の実は大きくなく、パチンコ玉よりいくらか大きい程度で、リトルアボカドと呼ばれます。熱帯地方なので常に実がなっており、ケツァールは毎日その実を食べにやってきます。

首都サン・ホセから車で5時間ほどの所にある「モンテベルデ自然公園」は有名な観察地で、世界中からこの鳥を一目見ようと多くの観光客が訪れます。私が訪問したときも、早朝にアボカドの実を食べにくる姿を観察しようと、100人近くが待っていました。ガイドが遠くにその姿を発見しますが、写真撮影にはまだまだ遠い距離です。するとアボカドの木に向かって長い尾をヒラヒラさせながら飛んでくるではありませんか。観察者から思わず歓声が上がります。雌も続いてやってきました。ガイドによると世界でいちばん見られているペアだろうということです。

写真:世界各地から参加者が集まるバードツアー

ねばって、美しい姿をファインダーに

2羽でしばらく実を食べ、その後は消化するまで15分ほどじっとしており、このときが観察・撮影のチャンスです。ところが運悪く茂った葉や枝の影になり、全身が見えません。欧米の観光客は姿を見ることができたことに満足して、朝食に戻っていきます。残ったのは写真が撮りたい私たち日本人とほかに数名だけ。ガイドが別のアボカドのスポットを案内してくれました。すると、運よく全身が見える枝にケツァールがとまっているではありませんか! これで大満足。遅めの朝食を食べに食堂に戻りましたが、私たちのお腹はすでに満腹でした。

写真:ケツァール(カザリキヌバネドリ)のペア。世界でいちばん見られている夫婦?

写真:大きく輝く尾羽をもつ雄

写真:雄の頭部にも注目

写真:雌。雄のような大きな尾羽をもたない

*コスタリカの国鳥=ケツァールと思いきや、何と「バフムジツグミ」という地味な鳥です。「どこにでもいる鳥だから」という理由だそうで、派手な鳥がいくらでもいるコスタリカでなぜこの鳥を選んだのか? コスタリカらしいというべきでしょうか。

写真:地味だけどコスタリカの国鳥・バフムジツグミ

この連載では数回に分けてコスタリカの魅力的な野鳥たちを紹介していきます。ようやく海外にも足を運べるようになってきましたが、遠い中米・カリブ海の空に思いをはせてもらえればと思います。

【文・写真】
大塚之稔(おおつか・ゆきとし)
1954年生まれ、信州大学卒。カッコウやライチョウなどの研究を行う。日本野鳥の会岐阜顧問、環境省希少動植物保存推進員、岐阜県野生生物保護推進員などを務めている。野鳥観察歴55年。日本全国はもちろん、今回紹介しているコスタリカをはじめ、東南アジア、アフリカ、ヨーロッパなど十数カ国を巡り、野鳥の観察・撮影をしている。