マングローブ林に潜む鳥たち
前回の記事に引き続き、タルコレス川のボートクルーズで見つけた、マングローブ林に潜む鳥たちを紹介します。
現地ガイドが船の前方で鳥を探し、発見すると船を近づけるように船頭に指示をします。サギやトキのように大きな鳥と違い、カワセミ科のように小さい鳥は遠くからでは見落としてしまいがちなのですが、プロの目は小さな鳥も見逃しません。
ヤマセミの仲間たち
日本のカワセミは、色鮮やかでかわいいことからファンが多く、カワセミを見たことをきっかけにバードウォッチングや写真撮影にのめり込んでいった人も数多くいます。ハチドリが「空飛ぶ宝石」なら、カワセミは「水辺の宝石」と言ったところでしょうか。漢字でも、宝石のヒスイと同じく「翡翠」と書きます。
コスタリカには「カワセミ」と呼ばれる鳥はいませんが、カワセミの仲間であり名前に「ヤマセミ」と付く鳥は6種類も確認されています。日本では、山間部の渓流に「ヤマセミ」が見られますが、1種類しかいないうえに近年では数が激減しています。コスタリカにヤマセミ類が多いのは、平野部が少なく、山間地が多いいことと関係しているのかもしれません。
今回のボートクルーズでも、コスタリカのヤマセミを見ることができました。
ミドリヤマセミは、全長18センチメートルと日本のカワセミとほぼ同じ大きさで、その名の通り全身が緑色をしています。マングローブの枝にとまって、水面近くに上がってくる魚に狙いを定め、飛び込んで捕えます。魚のほかにも、エビやカエル、虫なども食べます。水の侵入してこない土手に穴をあけて巣をつくるところは、日本のカワセミやヤマセミと同じです。
コミドリヤマセミは、全長13センチメートルと小さく、アメリカ大陸で最小のカワセミ科の鳥です。出会うことが難しい鳥なのですが、現地ガイドが目ざとく見つけてくれました。まずは少し遠い所から記録写真を撮り、その後は少しずつ船を近づけながらシャッターを切ります。心の中で「逃げるなよ」と唱えながらシャッターを押していくドキドキ感がたまりません。
珍しい鳥との出会い
そうこうしているうちに、珍しい鳥を見つけました。ヒロハシサギです。アフリカに生息するハシビロコウを思い起こさせる、幅が広くて大きな嘴をしています。英名は「Boat-billed Heron」、つまり「船のような嘴のサギ」という意味です。本来は夜行性の鳥であり、昼間は暗い所にじっとしているため出会う機会が少ないと聞いていたので、よく見つけてくれたなあと感心しきりでした。動かないので、写真を撮るのは楽でした。
さらに珍しいサギを見つけました。コスタリカ周辺にしか分布していない、ハゲノドトラフサギです。コスタリカでは3種類のトラフサギの仲間が生息していますが、いずれも見る機会は少なく、ラッキーな出会いができました。その名の由来は、全身の細かい虎班(とらふ)模様であり、よく見ると模様の美しい鳥です。若い鳥の方が、虎模様がはっきりしているそうです。
【文・写真】
大塚之稔(おおつか・ゆきとし)
1954年生まれ、信州大学卒。カッコウやライチョウなどの研究を行う。日本野鳥の会岐阜顧問、環境省希少動植物保存推進員、岐阜県野生生物保護推進員などを務めている。野鳥観察歴55年。日本全国はもちろん、今回紹介しているコスタリカをはじめ、東南アジア、アフリカ、ヨーロッパなど十数カ国を巡り、野鳥の観察・撮影をしている。