人とは違うペット用サプリメントの目的
まず、何を目的にサプリメントを摂取するのか考えてみましょう。たとえば、人がサプリメントを摂取する目的は2つあります。
【目的1】必要だけれど、不足しがちな、基本的栄養素(主にビタミン、ミネラルなどの微量栄養素)の補給
【目的2】機能性をもつ成分の摂取
では、犬や猫の場合はどうでしょうか? 【目的1】のためにサプリメントを摂取する必要はあるでしょうか?
手作り食を与えているなら、基本的栄養素の補給が目的となることはありえます。しかし、ペットフードのうち総合栄養食を与えているなら、その必要はないはずです。ペットフードには、総合栄養食と一般食(副食的なドライフード・缶詰、おやつなど)がありますが、総合栄養食のほとんどは国際基準に準じてつくられています。国際基準に準じた総合栄養食であれば、サプリメントによって基本的栄養素を補う必要はありません。
つまり、犬や猫においては、【目的2】の「機能性をもつ成分の摂取」が目的となることがほとんどでしょう。
本当に栄養が不足していないかを知るためには?
それでも、「栄養素が不足しているかもしれないので、調べたい」という人がいるかもしれませんね。人では血液検査などで不足栄養素を確定できますが、犬や猫も検査できることはあまり知られていません。
犬や猫では、血液検査ではなく、被毛からミネラルや重金属蓄積などを調べる「毛髪ミネラル検査」があります(株式会社ら・べるびぃ予防医学研究所)。かかりつけの動物病院に問い合わせてもよいですが、まだ一般的ではありませんので、飼い主さん自身で検査会社に申し込んで、その結果をもとに獣医師に相談するほうがスムーズかもしれません
なぜ、サプリメントの効能はわかりにくいのか
サプリメントは、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(薬機法)の制約により、機能性を明記できません。つまり、製品パッケージや広告資材などに「〇〇に効く」とは表示できないので*、効果・効能がわかりにくくなります。
*人では機能性表示食品や特定保健用食品があります。
そのため、飼い主さんが自己判断で、目的に対して不適格なサプリメントを犬や猫に与え続けてしまっている、といったケースが見受けられます。そうなると、「サプリメントを与えたけれど、効かなかった、役に立たなかった」となってしまうわけです。なお、サプリメントが効かない理由は第2回で解説します。
サプリメントを与える理由=診断名は正しいか
サプリメントを与える前にまず考えてほしいことがあります。【目的2】機能性をもつ成分の摂取が、犬や猫にサプリメントを与える基本的な目的であると先に述べましたが、その目的は何らかの病気のことが多いでしょう。
目的が病気であるなら、動物病院での検査によって〇〇病と診断されているでしょうか? 「検査はしていないけど、症状からみて〇〇病だろう」といったあいまいな状況なら、サプリメントを与えることはやめましょう。
よくある相談事に「かゆがっているので、アレルギーだろうと思い、皮膚によいとされるサプリメントを与えたけど、まったく効かない」というものがあります。そこで調べてみると、かゆみの原因はアレルギーではなく、カビや寄生虫だったり、精神的な問題行動だったり、痛みだったり、といったケースが意外と多いのです。
さらに、アレルギーだったとしても、アレルギーには、犬アトピー性皮膚炎、食物アレルギー(アレルギーに似た食物有害反応もある)、ノミアレルギー、接触性アレルギーなど、原因と対処法がそれぞれ異なるものがあることも複雑さを増す要因となっています。獣医師にきちんと確定診断を下してもらい、アレルギーであることを特定することはもちろん、アレルギーであってもサプリメントに何を期待するのか(例:抗菌、抗酸化、抗炎症、皮膚バリア機能向上)を考えなくてはなりません。
また、腎臓病の場合も、その病期(ステージ)を把握することが大切です。初期ならリンやナトリウムの制限、または腸内細菌叢の調整のいずれかを選択すればよいかと思われます。しかし、中期以上であれば、リンやナトリウムを制限する食事療法を含めた治療をしつつ、サプリメントならリンおよび尿毒素の吸着、腸内細菌叢の調整、抗酸化作用などが必要になってきます。
症状だけでサプリメントを選択するには?
前述のとおり、原則として、確定診断に基づいて使用しなければ、サプリメントの効果は期待できません。しかし、それができない場合は、もっとも気になる症状から疑われる病気を検討してみましょう。この方法の欠点としては、疑われる病気が複数あることが多いので、サプリメントを使う目的も複数となってしまい、1つを選択することが難しくなることです。
その際は、症状の中でもいちばん困っているものをあげ(優先順位をつけ)、さらにサプリメントの機能性にも優先順位をつけて、それらを総合的に判断しながら、できる限り適切なサプリメントを選択していきます。
表1に、犬・猫の気になる症状とサプリメントの主な目的、病気が疑われる事例、疑われる主な疾患をまとめましたので、参考にしてください。ただし、すべてを網羅しているわけではないことをご理解ください。また、病気が疑われる場合は、サプリメントを与える前に、必ず動物病院を受診し、確定診断を下してもらうことをお勧めします。繰り返しになりますが、サプリメントはあくまでも補完的な手段であることを理解しておいてください。
表1:犬・猫の気になる症状とサプリメントの主な目的
今回はサプリメントの目的や与える際の注意点を総論的に述べました。疾患ごとの留意点や複数のサプリメントの使用方法などの各論は後の回で解説していきます。
【執筆者】
小沼 守(おぬま・まもる)
獣医師、博士(獣医学)。千葉科学大学教授、大相模動物クリニック顧問。日本サプリメント協会ペット栄養部会長、日本ペット栄養学会動物用サプリメント研究推進委員会委員、獣医アトピー・アレルギー・免疫学会編集委員、日本機能性香料医学会理事・編集委員。20年以上にわたりペットサプリメントを含む機能性食品の研究と開発に携わっている。
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