魅力的なコスタリカの鳥たちを訪ねて【第2回】
ハチドリの仲間

コスタリカでは約50種を観察できる

日本には分布していないので、実物を見たことがある人はほとんどないと思いますが、ハチドリという名前くらいは聞いたことがあるでしょう。ハチドリの大多数は中南米の熱帯地域に生息していますが、北アメリカや砂漠地帯、高山などの様々な環境に適応しており、最新の分類では338種類もいるというから驚きです。コスタリカでは約50種を見ることができます。

その特徴は何といっても体が小さいこと。最も小さいマメハチドリは全長5センチメートル、体重2グラム(1円玉2個)しかありません。最大のオオハチドリでも全長20センチ、体重20グラム(10円玉2個)ほどです。残念ながらマメハチドリはキューバ、オオハチドリはチリやペルーに分布しているので、コスタリカでは見ることはできません。

超高速のホバリング

ほとんどの種は、空中でホバリング(停止飛翔)しながら花の蜜を吸って、エネルギーとしています。前だけでなく後ろにも飛ぶことができます。ホバリングの時は1秒間に50回以上もはばいているので、高速度カメラでしか捉えられません。

写真:ホバリングして花の蜜を吸うミドリハチドリ。シャッタースピードを速くしているので止まっているように写っているが、肉眼では見えない

飛翔時には「ブーン」という音がし、蜂の羽音のように聞こえることから蜂鳥(はちどり)と呼ばれています。英語でもブンブンうなる鳥ということで、“Hummingbird”と呼んでいます。

写真:花の蜜を吸いに来たシロエリハチドリ。飛ぶことに特化しているので、止まることはできるが、歩くことはできない

写真:花の蜜を吸いに来たコスタリカノドジロフトオハチドリ

写真:花の蜜を吸いに来たニッケイハチドリ

空飛ぶ宝石

もう1つの特徴は何といっても美しい色彩をしていることです。赤・白・青・オレンジ・紫などの原色的な色をしており「空飛ぶ宝石」とも呼ばれます。さらに太陽光が当たるとキラリと光ります。これを構造色と言いますが、光の干渉によって虹のように輝きます。シャボン玉がキラッと光ることと同じです。

写真:ノドジロシロメジリハチドリの構造色。通常は光っていないが(写真上)、太陽光が当たるとキラッと光る(写真下)

コスタリカでは、庭先に餌台や吸蜜器を置いて、野鳥を集めて楽しんでいる家もあります。ハチドリ用の吸蜜器は中に蜜を入れておいて、ハチドリが長い嘴を差し込んで飲めるように横に小さな穴が開いています。庭を一般に開放してある所もあり、そういう場所はハミングバードギャラリーと呼ばれ、観光地にもなっています。

写真:シロエリハチドリの看板が設置されていたハミングバードギャラリー。奥の吸蜜器には3羽のシロエリハチドリが来ていた

写真:吸蜜器で蜜を吸うシロエリハチドリ

ハチドリの中にも順位があるようで、普通は体が大きい方が強く、小さい方が弱いようです。ワタボウシハチドリは、全身が深い赤紫色をしていて、頭に白い帽子をかぶったような羽毛がある小さなハチドリです。このハチドリがいる場所には、たいていムラサキケンバネハチドリがいて、ワタボウシハチドリを追い払ってしまいます。

ワタボウシハチドリは全長7センチ、体重2.5グラムしかないのに、ムラサキケンバネハチドリはコスタリカでも最大級で全長15センチ、体重10グラムもあります。ワタボウシハチドリは、ムラサキケンバネハチドリが留守の時をねらって吸蜜器に来ていました。

写真:かわいいワタボウシハチドリ。ムラサキケンバネハチドリに追われることが多い

写真:大きなムラサキケンバネハチドリ。このハチドリが来ると、ほかのハチドリは場所を開ける

【文・写真】
大塚之稔(おおつか・ゆきとし)
1954年生まれ、信州大学卒。カッコウやライチョウなどの研究を行う。日本野鳥の会岐阜顧問、環境省希少動植物保存推進員、岐阜県野生生物保護推進員などを務めている。野鳥観察歴55年。日本全国はもちろん、今回紹介しているコスタリカをはじめ、東南アジア、アフリカ、ヨーロッパなど十数カ国を巡り、野鳥の観察・撮影をしている。