特殊な鰭をもつ魚たち
わたしたちを含む陸生の脊椎動物は四本の肢(あし)で体を支えて歩く四肢類です。四肢類は、現在の魚類と共通の祖先を持ちますが、中でもハイギョやシーラカンスなどの肉鰭類(にくきるい)が四肢類の系統につながっています。
オーストラリアハイギョは(写真1)鰓(えら)のほかに肺も持ち空気呼吸ができますが、さらに筋肉が発達した鰭(ひれ)で水底などを這い回れます。
アフリカ産のハイギョ類、プロトプテルス・エチオピクス(写真2)の鰭は少し頼りなく見えますが、乾季になると体をくねらせながら、この鰭でぬかるみを這い回り、泥の中に潜って雨季まで休眠します*。
一方、現在の水中で繁栄しているのは条鰭類(じょうきるい)です。条鰭類にも、このアフリカンマッドスキッパー(写真3、トビハゼ類)のように胸鰭を使って浅瀬や干潟などを這うものがいますが、これらは鰓と皮膚のみで呼吸し、鰭をおおう筋肉は発達していません。そして、鰭全体に骨質(および軟骨質)の鰭条が露出しています。
対する肉鰭類の鰭では、その中にわたしたちの腕や脚の骨と対応させられる上腕骨、橈骨、尺骨など(前肢の場合)が確認できます。もっとも、これらの骨は関節でつながってはおらず、「肢を生み出す可能性を秘めた鰭」ではあっても「肢」とは呼べません。
関節や指などの骨格は、現在の肉鰭類とは分かれた、四肢類の祖先の進化の中で整えられていったのです。たとえば、約3億7500万年前のカナダから化石が見つかったティクターリクには肩・肘・手首の関節があって、浅瀬などで体を支えられたと考えられることから「腕立て伏せをする魚」と呼ばれています。
こうして、わたしたちの祖先は進化の道を這い進み、身を支えられるようになりました。
あるいはまた、ある種のカメやイルカのように(写真4)、あらためて「鰭のような肢」を持つものも現われましたが(骨格的には肢です)、それはまた、別のお話としましょう**。
*オーストラリアハイギョには乾季の休眠の習性はありません。
**写真は、オーストラリアやニューギニアに生息するニシキマゲクビガメとアマゾンカワイルカ。イルカはCG技術を活用した「ライトアニマル」です。
※写真はすべてカワスイ 川崎水族館 https://kawa-sui.com/(撮影・森由民)
〈参考文献〉
・土屋健 著、松本涼子・小林快次・田中嘉寛 監修『地球生命 水際の興亡史』技術評論社(2021年)
・土屋健 著、群馬県立自然史博物館 監修『機能獲得の進化史』みすず書房(2021年)
【文・写真】
森 由民(もり・ゆうみん)
動物園ライター。1963年神奈川県生まれ。千葉大学理学部生物学科卒業。各地の動物園・水族館を取材し、書籍などを執筆するとともに、主に映画・小説を対象に動物観に関する批評も行っている。専門学校などで動物園論の講師も務める。著書に『ウソをつく生きものたち』(緑書房)、『動物園のひみつ』(PHP研究所)、『約束しよう、キリンのリンリン いのちを守るハズバンダリー・トレーニング』(フレーベル館)、『春・夏・秋・冬 どうぶつえん』(共著/東洋館出版社)など。
動物園エッセイ http://kosodatecafe.jp/zoo/
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