日本で出会ったイルカとクジラ【第4回】野生クジラとの出会い その2

ホエールスイム

ホエールスイムは、ホエールウォッチングの延長線上にあります。クジラのブローを見つけたら、遠くから観察し、落ち着きのあるおとなしい個体かを船長が判断します。問題がなければそっと海に入り、水面に浮かんで水中のクジラを観察します。

スイムという名称ですが、クジラを追いかけたり潜ったりすることは、クジラをビックリさせてしまうため禁止です。
※国や地域により規制やルールが異なります。

初めての出会い

まるで黒い潜水艦が沈んでいるかのようでした。

写真は、水深20メートル程度で休憩するザトウクジラの親子です。母親は全長13メートル程度、子どもでも5~6メートルの大きさです。これが近くに上がってきたら自分はどうなるのだろう。野生のイルカを撮影しているときには感じられない、恐怖心のようなものを感じました。

子どもが深いところで休憩するときは、多くの場合お母さんの顎の下くらいに引っ付いています。水流に流されないためか、母の愛を近くで感じているのか。クジラに思いを馳せるのは楽しいですね。

親子の愛

この写真は、子どもが呼吸のために水面に浮上してくる瞬間です。

お母さんは息継ぎをしなくても余裕だと思いますが、付近に人間が浮かぶ水面が不安だったのでしょうか。そこには、心配そうに子どもの後をついてくるお母さんの姿がありました。その姿からは愛情が感じられ、とっても思い出深い写真となりました。

意外と子どものクジラも傷だらけですが、これは外敵に襲われてできた傷ではないと思われます。お母さんと触れあうときに、お母さんの身体に付着したフジツボに擦れてできた傷で、愛情の証なのでしょう。

エスコート

この写真をよく見ると、3頭のクジラが写っています。上から順に子クジラ、母クジラ、そしてオスのクジラです。

オスのクジラは「エスコート」と呼ばれます。エスコートは父親ではなく、母クジラの次の交際相手を狙うクジラです。そのため、他のオスが母クジラに迫ると、体当たりしたり、ひれを使ったりして戦います。

ホエールソングと呼ばれる歌を歌うのもオスだけです。仲間とのコミュニケーションや意中のメスを射止めるために歌い、その歌声は数百キロメートル以上も響きわたるのだそうです。

desire

ホエールスイムは基本的に、5~10人程度の乗り合い船で行われます。

このときも私を含め4人くらいのカメラマンが、クジラの浮上ポイントを予測してカメラを構えていました。予測通り私たち目掛けて浮上してきたのですが、いい写真を撮りたい欲望を感じ取ったのか、目の前でUターンしてしまいました。

クジラは人間の筋肉の緊張さえも感じ取るとは聞いていましたが、それを強く実感した撮影でした。

hurry up

子クジラが急にどこかへ行くので、お母さんクジラも急浮上して後を追います。

このとき、お母さんは私の数メートル下を泳いで浮上してきたので、背中に乗り上げてしまわないか、尾びれにぶつからないかヒヤヒヤしながら撮影しました。

尾びれの幅は3~4メートルあり、30トンの身体を動かすために筋肉も相当発達しています。尾びれで叩かれれば、複雑骨折、もしくは即死でしょう。

生と死の間に浮かびながらの撮影は、日常生活では味わえない不思議な感覚です。

attention!!

水深20~30メートルで休憩しているクジラが、どのあたりに浮上するのか。

この身体の向きや角度だとこの辺かな? こっちには他のお客さんがいっぱいいるから、ちょっと離れたところかな? など様々なことを考えながら、浮上ポイントを予測し、ポジショニングします。

この写真は、その予測がドンピシャにハマったときです。
私にぶつかりそうなくらい近くに浮上し、一呼吸で底の見えない深い海へと泳ぎ去るザトウクジラ。胸びれと衝突しそうになり、体をのけぞらせながら撮影した1枚です。

ザトウクジラの親子

私の数メートル横を目掛けて浮上するザトウクジラの親子。上に写っているのが子ども、下が親です。

自分よりも大きな圧倒的存在が迫り来るのを目の前にすると、自分の悩みなど全てがどうでも良くなります。ただ全てを受け入れ、できることから1つずつやるしかないことを実感させられました。

幸いなことに、この写真は2022年度の国際的なフォトコンテスト35AWARDSの「Underwater Photography」でTop 35に選出され、自他ともに納得のいく1枚となりました。

feel the sea

奄美大島で撮影したザトウクジラの親子の写真です。ひっくり返って遊ぶ子クジラと呆れた様子で後を追いかける母親クジラ。

浮遊物が浮かび透明度の高い海ではなかったものの、浮遊物に太陽光があたって玉ボケのようになり、さらには水中光芒がどれも綺麗に入り込み、とても幻想的な世界に見えました。

この日、晴れたのはこの一瞬だけ。わずか数十分のチャンスをものにできた写真です。

・連載記事

日本で出会ったイルカとクジラ【第1回】御蔵島での野生イルカとの出会い その1 – いきもののわ (midori-ikimono.com)
日本で出会ったイルカとクジラ【第2回】御蔵島での野生イルカとの出会い その2 – いきもののわ (midori-ikimono.com)
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【文・写真】
あき
1996年大阪府生まれ、東京都在住。水族館や水中、音楽ライブの撮影のほか、雑誌、Webメディアへの寄稿などを行う。2017年、水族館の生きものを綺麗に撮影したいと思い、写真を始める。2023年、国際フォトコンテスト8TH 35AWARDS「UNDERWATER PHOTOGRAPHY」で100Best photo選出、Top35 photographers選出。『幻想的な水族館の世界カレンダー2024』(緑書房)が好評発売中。
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