猫で注意すべき病気を知っておこう【2】慢性腎臓病

猫に多い病気である腎臓病。腎臓は再生能力にとぼしい臓器なので、一度機能が低下するとなかなか回復しません。そのため腎臓病は猫の死因の上位にもあげられます。ただし、早期発見と適切な治療で症状を抑えることにより、猫の寿命を延ばせる場合もあります。

ここでは、猫の腎臓病について、慢性腎臓病の代表的な症状、治療法、そして予防策についてわかりやすく説明します。愛猫がこの疾患にかかった場合にも冷静に対処できるよう、知識を深めてみましょう。

腎臓はなにをしているの?

腎臓はお腹に左右1対ある臓器であり、尿を作っています。

腎臓は、血液を浄化して老廃物や余分な物質を尿として排泄するだけでなく、体内の水分やミネラル分を調整しています。また、赤血球の生成に必要なホルモンも分泌しています。その他にも血圧の調節や、骨の健康維持などの役割も果たしており、生体内で重要な役割を担う器官と言えるでしょう。

慢性腎臓病ってなに?

腎臓病は大きく2つに分類され、腎臓が障害を受けて急激に機能が低下したものを「急性腎障害」、腎臓がなんらかのダメージを受けて3ヵ月以上にわたり機能が低下したものを「慢性腎臓病」と呼びます。ここでは特に猫で多い「慢性腎臓病」について解説します。

「慢性腎臓病」とは病名ではなく、腎臓に障害を起こすさまざまな病気の総称です。

代表的な猫の腎臓病には次のものがあります。

・間質性腎炎(かんしつせいじんえん)
・腎細胞がん
・腎臓リンパ腫
・糸球体腎炎
・猫伝染性腹膜炎(FIP)
・腎アミロイドーシス
・多発性のう胞腎
・腎臓結石
・尿管結石

上記のうち、とくに間質性腎炎になる猫が多いと考えられています。間質性腎炎は、高齢になった猫の腎臓がだんだんと硬くなり萎縮する病気です(図1)。一度萎縮してしまった腎臓は元に戻ることがないため、完治は困難です。

図1:委縮した腎臓のイメージ

また、いくつかの病気は品種好発性(猫種によって発生しやすさが高いこと)があります。例えば、腎臓の中にのう胞(球状の袋で中に液体が溜まっている構造物)がたくさんできてしまう病気の「多発性のう胞腎」は、ペルシャやヒマラヤン、スコティッシュフォールドがなりやすいことが知られています。一方で、アミロイド蛋白と呼ばれる物質が蓄積して腎臓の機能を落とす病気である「腎アミロイドーシス」は、アビシニアンやソマリがなりやすいとされています。

どうして猫は腎臓病になりやすいの?

猫は他の動物に比べ腎臓病になりやすく、高齢猫の死因の上位でもあります。15歳以上の猫の81%が腎臓病にかかっているという報告もあります。

なぜそんなに腎臓病になりやすいのでしょう。その理由は、まだはっきりしていません。一説では、猫は日常的に水をあまり摂取せず、それが腎臓に負担をかけているのではないかとも言われています。腎臓内で尿を作る構造体のネフロンが、他の動物に比べて少ないことも指摘されています。

また猫では、5~6歳ごろに尿管結石や尿道閉塞などによって急性腎障害にかかり、腎機能が完全に回復しないまま慢性腎不全になり、15歳前後で亡くなるというケースも多いようです。

腎臓病になるとどうなる?

腎臓の機能が低下すると、老廃物が血中に留まり、他の臓器に影響を及ぼします。猫の慢性腎臓病の主な症状は次の通りです。

初期

・水をたくさん飲む
・オシッコをたくさんする

中期

・食欲が落ちる
・なんとなく元気がない
・寝ていることが多くなる
・体重が減る
・毛ヅヤがなくなる
・便秘

後期

・脱水症状がある
・ふらついている
・まったく食欲がなくなる
・嘔吐が止まらない
・吐いたものに血が混ざっている

ここで注目すべき点は、腎臓病の最初の症状は「飲水量が増えて尿の量が増える」ということです。まだこの段階では、元気も食欲もまったく問題ないことがほとんどです。普段から猫の様子を観察して「多飲多尿」のサインを見逃さないようにしてください(写真1)。

写真1:普段から猫の様子をよく観察しよう

腎臓病はどうやって検査する?

上記した多くの腎臓病は、血液検査だけは診断ができません。血液検査はあくまでも腎臓がどのくらい機能しているかを判断しているだけなので、腎臓病はいくつかの検査を組み合わせて診断する必要があります。

腎臓病を正確に判断するには、X線検査や超音波検査で腎臓の形や内部構造を確認し、尿検査で尿の濃さや蛋白尿、感染の有無を見なければなりません。

猫の慢性腎臓病は、血液検査の数値や進行に応じて4つのステージに分けられます。

ステージ1

ステージ1では、猫の体に異変は現れず、血液検査でも大きな問題は見つかりません。しかし、尿検査では尿の薄さが、X線検査や超音波検査では腎臓の変形が確認できることがあります。血液検査の数値が悪化し続けている場合は、正常範囲内でも慢性腎臓病の可能性が疑われます。

ステージ2

ステージ2では全身症状はほとんど出ませんが、多飲多尿は顕著になってきます。血液検査ではCre(クレアチニン)やSDMAの数値が基準値よりも高くなってきます。腎臓の機能が低下して、これらの物質を排出できなくなるためです。特に症状が出ていなくても、腎臓の機能はかなり低下している状態です。

ステージ3

ステージ3になると、体調が悪くなる猫が多くなります。本来は尿として排泄できるはずの毒素が、腎臓の機能の低下により体内に溜まってしまう状態(尿毒症)になってしまいます。また、食欲の低下や食べたときに吐くことが多くなります。ときには血が混じったピンク色の胃液の嘔吐もあります。猫によっては、ふらつきなどの貧血の症状や、口臭も見られます。

ステージ4

ステージ4で腎機能がさらに低下すると、尿毒症が悪化します。積極的な治療をしなければ、生きていくことが困難な状態です。最終的には尿が作られなくなるなどの深刻な状況に陥り、死に至ることもしばしばあります。

慢性腎臓病の合併症?

腎臓の機能が落ちることで別の症状が起こることがあり、これを合併症と呼びます。猫の慢性腎臓病でよく起こる合併症には、次のようなものがあります。

貧血

腎臓は、骨髄で赤血球を作るために必要な赤血球増血刺激因子を産生しています。慢性腎臓病になるとこれを分泌できなくなるため、赤血球を作れなくなり貧血になってしまいます。これを「腎性貧血」と呼びます。

高血圧

猫での詳細なメカニズムは解明されていませんが、「腎臓病にかかった猫の65%は血圧が高かった」という報告があります。高血圧は別名「サイレントキラー」とも呼ばれ、普段はあまり症状が出ませんが、あるときいきなり血管が破綻してしまうことがあります。猫では高血圧により失明や痙攣を起こすことがあります。

慢性腎臓病の治療は?

腎臓病と診断された愛猫は、どんな治療を受けるのでしょうか?

基本的に腎臓は再生しない臓器なので、慢性腎臓病を治すのは現在の獣医療では困難です。なので、できるだけ腎臓病の進行をゆるやかにし、生活の質を上げることが治療の目的になります。

自宅でできる治療もありますので、どんな治療法があるのか知っておきましょう。

食事療法

普段食べている食事を、腎臓病療法食に切り替える治療法です。腎臓病療法食とは、蛋白質やリン、ナトリウムを制限した特別な食事です。食事療法で寿命も伸びることが証明されています。

最近では、早期の腎臓病の猫のためのフードと、中期以降のフードの2種類が販売されています。かつてはなるべく早く腎臓病療法食に切り替えることが主流でしたが、近年は腎臓病のステージによる食事の切り替えが推奨されています。

水分摂取量を確保する

腎臓病になると尿量が増えるため、脱水しやすくなります。それを防ぐためには、十分に水を摂取しなければなりません。水飲み容器の数を増やしたり、水の温度を変えたり、流水を試してみたりなど、愛猫の好みに合わせて水を用意してあげましょう。ごはんを水分量の多いウェットフードにするのも有効です。

点滴治療

食事や飲み水だけでは脱水してしまう場合は、点滴で水分やミネラル分を補えます。点滴には次の2種類があります。

・皮下点滴
通院での治療が基本ですが、動物病院で指導を受けた飼い主さんが自宅で実施する場合もあります。
※猫の症状や動物病院によっては自宅での皮下点滴を勧めないこともあります。

・静脈点滴
静脈点滴は入院治療になります。

飲み薬

蛋白尿、尿毒症、リンの高値、貧血、高血圧など、症状に応じて薬やサプリメントを使用します。いくつか例を紹介しましょう。

・抗蛋白尿薬
腎臓から尿中に漏れる蛋白質を抑制する薬です。蛋白尿が出ていると腎臓病の進行が早いことがわかっています。

・腎臓の線維化を予防
腎臓の血管を広げて血液や酸素を届きやすくする薬です。腎臓の線維化を防ぐ効果が期待されています。

・リン吸着剤
リンの吸着で腎臓の負担を減らす薬です。薬だけでなく、サプリメントもあります。

・カリウム剤
腎臓病になると血液中のカリウムが不足しがちになります。カリウムが不足すると筋力が低下したり、ふるえが起きたりします。錠剤や液剤、チューブ状などさまざまなタイプがあります。

・降圧剤
合併症に高血圧がある場合に使用します。血圧を下げることでさまざまな症状を抑えます。

・赤血球造血刺激因子製剤
慢性貧血の治療のために投与します。同時に鉄剤の服用で効果が高くなることがあります。

猫の腎臓病には「この治療!」というものはありません。それぞれ猫の病態や体調、飼い主さんができることに合わせた選択が大切なのです。

猫の慢性腎臓病は予防できる?

猫を絶対に腎臓病にしない予防法はまだ見つかっていません。とはいえ、少しでも腎臓病を防ぐために次を心がけましょう。

・新鮮な水を十分に飲ませて、脱水を起こさせない。
・栄養バランスの良い食事を与える。
・歯磨きをして、歯周病を予防する。
・百合の花や人用の頭痛薬など、腎臓にダメージを与えるものを口にさせない。
・ストレスのない環境を整える。

健康診断で腎臓病を早期発見する

慢性腎臓病は食欲不振や嘔吐など明らかな症状が出たときにはかなり進行しています。元気そうに見えても、10歳までは年に1回、10歳以上なら年2回の健康診断を受けましょう。

健康診断では血液検査だけでなく、尿検査やX線検査、超音波検査、血圧測定を受けることで、腎臓病の早期発見につながります。

まとめ

猫に多い病気である慢性腎臓病について、お分かりいただけましたでしょうか。

腎臓病の早期発見に大切なのは、日頃から愛猫の様子をしっかり観察して、多飲多尿の症状を見逃さないことです。慢性腎臓病を早期発見・早期治療することで、愛猫と一緒に過ごす時間を伸ばすことができます。

【執筆者】
服部 幸(はっとり・ゆき)
1979年生まれ。北里大学獣医学部卒業後、2年半の動物病院勤務を経て2005年にSyuSyu CAT Clinic院長を務める。2006年アメリカのテキサス州にある猫専門病院 Alamo Feline Health Centerにて研修プログラム修了。2012年、江東区に東京猫医療センター( https://tokyofmc.jp/ )を開院、院長として猫の専門医療にかかわりつづける。2014年にねこ医学会(JSFM)理事に就任(現副会長)。『ネコにウケる飼い方』(ワニブックス)、『イラストでわかる! ネコ学大図鑑 』(宝島社)、『猫を極める本 猫の解剖から猫にやさしい病院づくりまで』(インターズー)など著書多数。