猫で注意すべき病気を知っておこう【4】糖尿病 前編

太っている猫は糖尿病になりやすいとよくいわれます。人と同様に、猫の糖尿病も発症の背景には遺伝的要因と環境要因があります。つまり、遺伝的な素因がなければ糖尿病にはならないのですが、その解明はまだされていません。そのため、環境要因である肥満を一番のリスクファクターとしているのです。

実際、肥満猫は適正体重の猫と比較して、糖尿病発症率が4倍近く高まるといわれています。このため人と同様に、ダイエットは糖尿病予防に有効な手段ということになります。

日本人をはじめとする黄色人種は糖尿病になりやすいのですが、猫の糖尿病の発症率は高いものではなく、1.0%以下といわれているようです。動物病院1施設に対してだいたい2〜3頭くらいとなります。

猫の特殊性と病態生理

身の回りにいる動物の中で、猫は肉食獣としての特色を最も残しています。つまり、蛋白質を分解したアミノ酸を主なエネルギー源としていて、ブドウ糖を主体としている人や犬とは大きく異なります。このため糖の使い方が「下手くそ」で、興奮すると容易に血糖値が上がったりします。

猫の糖尿病には原発性(特発性)と二次性があります。原発性は膵臓のランゲルハンス島(β細胞)が直接障害を受けることにより、インスリンの分泌障害を起こすもので、アミロイド蛋白の沈着が原因の1つとなります。

二次性の多くは、膵炎によりβ細胞が障害を受けて発症するもので、猫の糖尿病全体の半数以上を占めるという報告もあります。

症状

糖尿病の主な症状としては「多飲多尿、多食、削痩」があります。

つまり、「よく食べて、お水もよく飲んでいるから大丈夫!と思っていたら痩せてきた」となります。よく食べて、お水もよく飲んで、オシッコもしっかりしていると、多くの飼い主さんは病気とは思わずに見過ごしてしまいます。

猫では糖尿病と類似した症状を示す病気に腎不全があります。糖尿病と腎不全の鑑別には血液検査が必要となりますが、いずれにしても「飲み過ぎ、食べ過ぎ、(オシッコの)出し過ぎ」には注意が必要です。人の糖尿病の合併症としては白内障や腎症が知られていますが、猫では糖代謝の特殊性からこれらの合併症がみられることはほとんどありません。猫の糖尿病に特有な症状としては、踵(かかと)を地面について歩く「蹠行(せきこう、しょこう)姿勢」があり、20%程度にみられるといわれています。

糖尿病の高血糖状態は放置されると、ケトアシドーシスや高浸透圧性高血糖状態などの重篤な合併症を引き起こし、昏睡状態から死亡してしまうことがあります。さらに最近では、心筋炎という心不全を併発している症例も多く、ケトアシドーシスからは離脱できても心不全で死亡してしまうことがあります。

以上から、猫の糖尿病は早期発見・早期治療がとても大切になります。

検査・診断

糖尿病とは持続的に血糖値が高くなる病気です。

この症状を示す猫に対しては血液検査を行いますが、来院によるストレスや、採血時の保定などによる興奮状態により、容易に血糖値が上昇することがあります。そのため、血液検査での高血糖=糖尿病とすぐに判断するわけではなく、糖尿病を診断するためにはその持続性を判定する必要があります。

持続的な高血糖の判定には、①血液検査による糖化アルブミンやフルクトサミンの測定、②自宅(ストレス解除下)での尿糖試験紙による尿糖の検出(図1)の2つの方法があります。このようにして糖尿病を診断します。

写真1:尿試験紙「ウロピースS」(東洋濾紙)。尿糖のほかにケトン体、蛋白を測定できる

併発疾患

糖尿病は高齢で発症しますので、ほかの病気を併発していることも多くあります。特に猫では、併発疾患の存在がインスリンの治療に対して抵抗性(インスリンが効かなくなる)を示す原因となるため、糖尿病の診断時やその後の血糖コントロールに移行した際にも定期的に検査を行う必要があります。

主な併発疾患を以下に示します。

■膵炎
糖尿病の原病として最も多い病気です。人や犬の膵炎は食欲低下のほかに、嘔吐、下痢の症状がみられます。しかし、猫ではほとんどが食欲の低下のみとなります。一方、糖尿病は原則的に食欲がなくなる病気ではありません。ですから、多飲多尿が始まったと思われる糖尿病発症時の前とそれ以降に食欲の低下が認められたなら、膵炎の併発を疑うことになります。
膵炎の存在は超音波検査での膵臓の形状の観察、血液検査での猫膵特異的リパーゼ(fPL)という項目の測定などにより診断します。膵炎は再発しやすい病気であり、糖尿病症例ではさらにその確率が高くなるため、注意が必要です。

■口内炎、歯肉炎、膀胱炎などの炎症疾患

■慢性腎不全
猫ではとても多い病気で、食事療法が困難になります。

■腫瘍性疾患

■甲状腺機能亢進症
猫で最も多い内分泌疾患です。

■高脂血症
糖尿病では糖代謝の異常とともに脂質代謝異常も引き起こします。

■副腎皮質機能亢進症
猫では珍しい病気です。皮膚が裂けることで発見されます。血糖コントロールが困難な2次性糖尿病を引き起こします。

■末端肥大症
顎や頬骨、爪の肥大がみられますが、わかりにくいことが多い病気です。強いインスリン抵抗性を示す糖尿病を発症します。

前編はここまでとします。後編では治療の概要を解説します。

【執筆者】
長谷川 承(はせがわ・しのぐ)
獣医師、アルマ動物病院(東京都、https://alma-ah.com/hospital/greeting/  )院長。日本獣医畜産大学(現:日本獣医生命科学大学)大学院博士課程を修了後、東京都内の動物病院勤務、東京女子医大糖尿病センターでの研修などを経て、2002年にアルマ動物病院を開院。2010年、付属ハイドロセラピー施設“Club Alma”を開設。2015年、CCRP(テネシー大学公式認定リハビリテーションライセンス)を取得。大学院時代からライフワークとして糖尿病の研究・診療に取り組む。院内に糖尿病・内分泌センターを設置し、日々多くの動物の診療にあたっている。東京都獣医師会、日本糖尿病学会、動物臨床医学会、日本獣医再生医療学会、日本ペット栄養学会に所属。