猫で注意すべき病気を知っておこう【1】下部尿路疾患(尿石症)

猫の下部尿路疾患(FLUTD)とは

「猫の下部尿路疾患」は一般的にFLUTDとも呼ばれ、フードの包装などにもFLUTDと書かれていることがあります。FLUTDはFeline(猫)、Lower(下部)Urinary(尿)、Tract(路)、Disease(疾患)の頭文字をとっており、「エフエルユーティーディー」と読みます。

このFLUTDとはどのような病気なのでしょう。

「上部尿路」が腎臓と尿管を指す一方で、「下部尿路」は膀胱と尿道を指します(図1)。つまりFLUTDは「猫の膀胱や尿道の病気」を意味する、いろいろな病気を含む言葉なのです。

図1:上部尿路と下部尿路

このうち、FLUTDの原因となる病気のトップ3は、尿石症、細菌性膀胱炎、特発性膀胱炎です(図2)。今回はその中の「尿石症」について解説していきましょう。

図2:「FLUTD」はさまざまな病気が含まれる言葉

尿石症とは

尿石症とは、尿路系に結石ができる病気であり、その石が尿路に詰まることによりさまざまな症状を引き起こします。

猫にできる尿石にはいくつか種類があり、その90%以上をストルバイト結石とシュウ酸カルシウム結石が占めます(写真1)。そのほか、まれな結石としてシスチン結石、尿酸塩結石、プリン結石などがあります。

写真1:実際に猫から排出されたシュウ酸カルシウム結石

若い猫(1才未満)から高齢猫(10才以上)までみられます。ペルシャやアメリカンショートヘアなどの猫種で多いという報告がありますが、ミックス猫が発症することも多く、すべての猫種が気をつけるべき病気です。

発症には、食事の成分、尿pH(酸性かアルカリ性かを表す尺度)、飲水量などが複雑に関与していると考えられていますが、はっきりとはわかっていません。

尿石症の症状

結石が発生する場所によって症状が異なります。たとえば膀胱に結石がある場合は、血尿、頻尿、しぶり(排尿時間が長い、もしくはトイレに行っても尿が出ない)などの症状がみられます。そのほか、膀胱の痛みから、食欲不振や元気消失などを示します。

まれではありますが、膀胱に結石があるにもかかわらず何も症状がなく、健康診断で結石が発見されることもあります。

オスとメスの違い

オスの尿道は細いため、尿道に結石が詰まって完全に尿が出せなくなると命にかかわります。このような状態になると明らかに活動性が落ち、さらに時間が経つと虚脱(力が入らず、死にそうになること)や痙攣などがみられます。猫がトイレに行っても尿が全く出ていないときは、すぐに動物病院に連絡しましょう。夜間であっても、朝まで待たずに救急動物病院を探しましょう。

メスは尿道が比較的太いため、結石が完全に詰まることはほとんどありません。ただし、まれにメスでも尿路閉塞になることがあるので、尿が出ない場合は注意しましょう。10年以上動物病院で働いている私も、1例だけですがメス猫の尿路閉塞を経験しています。

尿石症の検査・診断

画像検査

画像検査には「エコー検査」と「レントゲン検査」があります。

エコー検査は小さい結石を発見することに優れています(写真2)。

写真2:膀胱のエコー検査の写真。黄色点線部が結石

レントゲン検査は、ある程度以上の大きさの結石しか描出できませんが、超音波の届かない尿道の奥などを評価できます。

尿検査

尿検査では、尿にまじっている結石より小さい結晶を調べられます。

尿をよく観察すると結晶がキラキラと光ってみえることがあり、顕微鏡レベルにおいて確認できます。結晶の形によって、ある程度は結石の種類が予想できます。例えばストルバイト結晶には「長方形で、中心に縦線が入っている」、シュウ酸カルシウムには「正方形で対角線がみえる」などの特徴があります。

ほかにも尿検査では、尿pH、尿比重、細菌の有無などをあわせて調べられます。このうち、尿pHが高いとストルバイト結石ができやすいことがわかっています。

血液検査

尿道に結石が詰まり長時間において尿が出せなかった場合は、腎機能が著しく低下している可能性があります。血液検査で血中尿素窒素(BUN)やクレアチニン(CRE)の項目を調べることで、腎機能の状態がわかります。

これらの項目が異常に高い値を示す場合は、入院での治療が必要になる場合もあります。シュウ酸カルシウム結石ができやすい猫では、高カルシウム血症などが判明することもあります。

尿石症の治療

尿石症の治療方法は、結石の種類により異なります。

ストルバイト結石

ストルバイト結石は、食事療法によって溶けることが知られています。早ければ、療法食を与えはじめて1週間ぐらいの画像検査で明らかな変化がみられます。

療法食は各メーカーから発売されていますが、代表的なところではヒルズのc/d、ロイヤルカナンのs/oなどが挙げられます。療法食は獣医師の指導のもとで使用しなければいけないため、飼い主さんだけで使用の判断をすることは避けましょう。また「FLUTD、尿石症に配慮」とラベルに書いてあるフードであっても療法食ではない可能性があります。成分表示を確認して、「療法食」と書かれたものを与えてください。

また、ストルバイト結石は細菌性膀胱炎に伴って形成されることがあります。尿中に細菌がいるとpHが上昇し、ストルバイト結石ができやすい環境になるからです。その場合は、細菌性膀胱炎の治療である抗菌薬を使用します。

シュウ酸カルシウム結石

シュウ酸カルシウム結石は食事療法で溶けないので、自力で排泄するか、手術で取り除かなくてはいけません。

画像検査で尿石の診断がついた段階では、ほとんどの場合においてストルバイト結石かシュウ酸カルシウム結石か分かりません。そのため多くのケースでは、まず食事療法と水分摂取量の増加(点滴、飲水の促進)を実施して、溶けない場合に手術をします。

サプリメントは、利尿効果(尿が増える効果)や尿pHを下げる効果があるものが市販されています。食事療法だけで改善しない場合や、再発生した場合は、これらの使用を検討しても良いでしょう。

尿石症の予後

多くの場合において、尿石症は適切な対応により治癒します。

ただし再発率の高い病気なので、再発予防には療法食の継続と十分な飲水量を維持することが大切です。治療終了後も療法食を続けてください。

また療法食の中には「溶解用療法食」というものもあります。これは結石を溶かす効果を強めたもので、継続的に与えてはいけません。溶解用療法食を与えていた場合は、予防用療法食に切り替えましょう。

尿路閉塞の時間が長かった場合、治療しても腎機能が回復しないことがあります。その場合は慢性腎臓病の治療に移行します。慢性腎臓病は治すことができない病気なので、そうならないためにもできるだけ早めに対応しましょう。

まとめ

尿石症は猫種、年齢、性別にかかわらず発症する可能性のある病気です。オス猫は尿路閉塞を起こしたときの緊急性が高いので、特に注意しましょう。

代表的な症状は血尿と頻尿です。猫の尿の正常な回数は1日2〜5回ですが、短期間に何度もトイレに行く場合は5回以下であっても受診をおすすめします。

治療は水分摂取と療法食が中心になります。猫が療法食を食べない場合は、食べるものの中で効果が見込めるものを与えましょう。食事をウェットフードにするだけで改善した例もあります。具体的な食事の種類については必ず獣医師と相談して決めてください。

基本的には適切な治療により治る病気です。重症化しないように、早めの対応を取ることが大事です。

【執筆者】
山本宗伸(やまもと・そうしん)
獣医師。Tokyo Cat Specialists( 東京都港区、https://tokyocatspecialists.jp/ )院長。授乳期の仔猫を保護したことがきっかけで猫に魅了され、獣医学の道に進む。日本大学生物資源科学部獣医学科を卒業後、都内の猫専門病院で副院長を務めた後、ニューヨークの猫専門病院 Manhattan Cat Specialistsで研修を積む。ねこ医学会(JSFM)および国際猫医学会(ISFM)に所属。JSFMでは実行委員を務める。