ペット用サプリメントのトリセツ【第7回】慢性腎臓病との付き合い方

犬や猫では、寿命延伸による高齢化に伴い慢性腎臓病が多くなっており、一般的な死因のひとつとなっています。そこで今回は、犬と猫の慢性腎臓病との付き合い方を解説します。

腎臓には、血液中の老廃物を濾過除去し、水分調整のために濃縮した尿をつくる機能があります。その機能が慢性的に障害を起こすと慢性腎臓病となります。慢性腎臓病の正確な定義は「3カ月以上の長期に渡り不可逆(元に戻らない)的に腎機能が低下する疾患」です。

*腎臓病には慢性腎臓病のほかに急性腎臓病もありますが、急性腎臓病は食事療法やサプリメントではなく治療がメインとなるため、この記事では解説しません。

「元に戻らない」ため、予防により慢性腎臓病にさせないのが理想です。もし慢性腎臓病になってしまった場合は、動物病院での治療に加えて食事療法やサプリメントなどで栄養管理し、できるだけ病気の進行を遅らせつつうまく付き合うしかありません。

腎臓の構造と機能

腎臓は、水や栄養素が代謝などで利用されたあとの老廃物が最終的に運ばれてくる器官です。腎臓の基本機能は、排泄、体液調節、内分泌です。

腎臓には多くの機能があります。主な機能は次の通りです。

  • ネフロンによる血球やタンパク質の濾過
  • 老廃物(尿素など)の排泄
  • ブドウ糖・アミノ酸などを多く含む尿の生成
  • レニンによる血圧や体液量の調整
  • 尿細管による尿の濃縮や電解質調整
  • エリスロポエチンによる造血(内分泌)
  • カルシウム吸収に関わるビタミンDの活性化(肝臓でも行われる)

*ネフロンは、糸球体、ボーマン嚢、尿細管、集合管がまとまったもの

最も重要な腎臓の機能は、余分なものが入っていない尿を作り、濃縮することです。よって慢性腎臓病により腎臓の機能が低下すると、タンパク質などの余分なものが尿として出たり(タンパク尿、血尿)、濃縮されない薄い尿が大量に出たりします(多尿)。ほかに慢性腎臓病の主な症状として、食欲不振、多飲多尿、嘔吐、頻尿、毛艶の悪化、貧血などがあります。

慢性腎臓病の分類

病院で用いるIRIS分類では、病態の進行度を4つの病期(ステージⅠ~Ⅳ)に分類しています。本稿では分かりやすいように「初期」「中期」「末期」と分類しました。

*IRISはInternational Renal Interest Society(国際獣医腎臓病研究グループ)のこと。IRIS分類は血中クレアチニン濃度や、腎臓マーカー(SDMA)、尿中蛋白/クレアチン比(UPC)、血圧、線維芽細胞増殖因子23(FGF23)などで病態の進行度を分類します。

表:慢性腎臓病の分類(IRIS分類)

初期ステージⅠ腎機能は低下しているものの、ほとんど症状はない
初期から中期ステージⅡ糸球体濾過率が30~50%まで低下するため、 軽度なBUN(尿素窒素)の上昇と軽度な臨床症状がある
中期ステージⅢネフロンの75%以上が失われるため、食欲低下や脱水、多飲多尿などの典型的な症状が現れ、 BUNやクレアチニンの上昇がみられる
末期ステージⅣ尿毒症の段階。BUNやクレアチニンの重度な上昇、老廃物の蓄積による重大な中枢神経障害、循環器および消化器の障害、腎性貧血など多くの臨床症状を起こす

サプリメントは病気の予防や進行抑制を目的として使うのが適切です。病態の進行度により必要なサプリメントが違うことと、末期ではサプリメントだけでなく治療の必要度が高くなることから、サプリメントを使用するためには病態の進行度を理解することが必要となります。

病態の進行度を踏まえたうえで、慢性腎臓病にかかわる栄養素と、適切なサプリメントや食事療法を見ていきましょう。

栄養素とサプリメント・食事療法

慢性腎臓病によって生じる臨床症状の多くが、エネルギー、リン、ナトリウム、カリウム、タンパク質、酸性物質などの負荷に影響を受けます。つまり、過剰なタンパク質を制限しつつ、一定のエネルギーを炭水化物(処方食では、犬は通常食の約1.3倍、猫は約1.5倍のエネルギー)や脂質で保持しながら、リン、ナトリウム、カリウムを制限し、酸性物質の生成を軽減する必要があります。

タンパク質・尿毒素

慢性腎臓病では、過剰なタンパク質の摂取を回避することが必要です。過剰なタンパク質により、尿毒素である食物性窒素老廃物(尿素、クレアチニンなど)の生成が増加し、次のような負担が発生するためです。

・糸球体への負担によるBUNの上昇
・排泄すべき老廃物が増加することによる、多尿やタンパク尿の促進
・代謝性アシドーシス、インシュリン抵抗性、慢性腎臓病に伴う骨代謝異常などの促進

しかしながらタンパク質を過剰に制限しすぎると、エネルギー摂取量の不足により体タンパク質の異化亢進(体外から取り入れた物質や、体内で作った物質の分解)やBUNの上昇などの悪影響をもたらします。エネルギー摂取量を適切に保つためには、炭水化物や脂質含有量が多く、少量でもエネルギー密度の高い食物を与える必要があるのです。近年の動物病院用療法食はこれを目的に作られています。

尿毒素の対策

おもな尿毒素の対策としてアミノ酸と活性炭があります。アミノ酸は、過剰なタンパク質を制限し、良質なタンパク質源となります。活性炭は、老廃物を排出させるために窒素老廃物を吸着します。さらに近年注目されているのは、腸内細菌叢の改善のためのプロバイオティクスである乳酸菌やビフィズス菌、プレバイオティクスのオリゴ糖、ポストバイオティクスの死菌などです。

■エネルギー保持目的のアミノ酸

エネルギーを保持するためのアミノ酸として、分枝鎖アミノ酸 (BCAA。ロイシン、イソロイシン、バリン)やAB070597(グリシン、L-アスパラギン酸、L-グルタミン酸、L-グルタミン、L-カルノシン、L-ヒスチジン、L-アルギニン)などのアミノ酸サプリメントが用いられることがあります。

また、5-アミノレブリン酸(5-ALA)は、細胞小器官の1つであるミトコンドリアで合成される機能性アミノ酸です。5-ALAはヘム合成の仲介者(前駆体)で抗酸化作用があり、腎臓の細胞障害抑制につながるため、猫の慢性腎臓病の進行の予防に有効と考えられています。

*ヘムは、ヘモグロビン、ミオグロビン、チトクロムP450、ミトコンドリア内のチトクロムなどのヘムタンパク質にとって必要不可欠な補因子です。ヘムの生合成は、75%が骨髄で、15%が肝臓で行われます。

■窒素性老廃物を活性炭やキトサンが選択的に吸着除去

多孔質炭素からなる球形微粒子の経口吸着剤や、植物性活性炭である天然ゼオライト(ヘルスカーボン)は、腸管内で尿毒症毒素(インドキシル硫酸の前駆体であるインドールなど)を吸着させて便と一緒に排出させることで、体内に再吸収されるのを防ぎます。

またキトサンもリンを吸着除去するだけでなく、腸管内で尿素、アンモニア、尿酸などの窒素性老廃物を選択的に吸着除去します。また、代謝性アシドーシス(参照:酸性物質の項)も予防します。

■プロバイオティクス・プレバイオティクス・ポストバイオティクス

尿毒素産生には腸内細菌叢が大きくかかわっており、乳酸菌などの善玉菌は増殖に窒素物を利用するため、消化管内の窒素物が低減されます。

プロバイオティクスには、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・プランタラム、ペティオコッカス・アシディラクティシ、エンテロコッカス・フェシウム、ペディオコッカス 5051株乳酸菌などの乳酸菌、ビフィズス菌などがあります。プレバイオティクスには、乳酸菌などの善玉菌の栄養となるマンナンオリゴ糖、ビートオリゴ糖、環状オリゴ糖、フレクトオリゴ糖などのオリゴ糖や、マルトース、大豆(発酵)成分などがあります。さらにポストバイオティクスには、死菌や乳酸菌発酵原液エキスなどがあります。詳細な作用は次回以降の記事で解説します。

リンとカルシウム

リン

慢性腎臓病では、腎機能の低下によりリン酸塩の排泄が阻害されて高リン血症が生じるため、食物中のリンの制限が必要になります。

フードのタンパク質供給源材料である動物性タンパク質には、リンが豊富に含まれています。過剰なタンパク質摂取を回避することでリンの摂取量も制限できます。

カルシウム

慢性腎臓病では、ビタミンDの活性化低下によるカルシウム吸収障害から低カルシウム血症となることがあります。さらに高リン血症になると、リンの吸収を抑制させるためイオン化カルシウムを減少させます。このため、血液中のカルシウムの濃度を上昇させようとして上皮小体から上皮小体ホルモン(PTH)の分泌が増加し、これにより腎性上皮小体機能亢進症が続発し、慢性腎臓病が悪化します。これらの対策として、カルシウム製剤を与えます。

リンとカルシウムの対策

腎臓病の初期から、食事療法によるリンの制限が推奨されます。初期~中期以降では、食事療法に加えて、腸管内でリンを選択的に吸着除去する作用のあるサプリメントが必要となることがあります。

リン吸着作用のあるサプリメントには、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、グルコン酸乳酸カルシウム、炭酸マグネシウム、天然ゼオライト、キトサン、塩化第二鉄などがあります(現在、サプリとして売られていない成分もあります)。この中に複数あるカルシウム製剤は、リンの吸着作用だけでなくカルシウム不足に対応できるので、一石二鳥です。

これらのサプリメントを与えるうえでの注意点は、おもに2つあります。

①療法食内にカルシウムを強化しているものもあり、この場合は別途カルシウム製剤を与える必要はありません。中期腎臓病の犬や猫に腎臓病用の療法食を与える場合は、高カルシウム血症を招く可能性があるため注意してください。

②人の食品はリンを含むものが多い(食肉加工食品、清涼飲料水、乳製品など)ため与えるべきではありません。「食欲が低下しているから、良かれと思って牛乳を与える」といったことは避けるべきでしょう。

ナトリウム

過剰なナトリウムによる腎臓の血流障害によりナトリウムと水の貯留が起こり、細胞外液量が増加し(むくんだ様な状態になり)高血圧や腎機能を低下させます。

慢性腎臓病では、ナトリウムの再吸収能力が低下しているため、ナトリウムを制限しすぎるとバランスが崩れる(不均衡)ことがあります。そして、バランスが崩れた結果として細胞外液量の低下や脱水が起こり、腎機能がさらに低下するのです。よってナトリウムは極端に制限せず、適切な量を摂取する必要があります。

腎臓病では、循環血液量を確保するため尿細管全域でナトリウムの再吸収が亢進するため、ナトリウムの制限が必要となります。

ナトリウムの対策

ナトリウム対策のサプリメントはなく、食事療法で塩分制限するしかありません。人用の食事や加工食品は犬や猫にとってほとんどが高塩分なので、絶対に与えないでください。

酸性物質

腎機能が低下すると、代謝によって生じた不揮発性の酸性物質の排泄能力が低下し、アルカリ性物質である重炭酸イオンの再吸収能力も低下するため、アルカリ性物質が減少し、その結果として血液のバランスが酸性へ傾いて代謝性アシドーシスを起こすことがあります。

*生体内における血液のバランスを示す酸塩基平衡(pH7.4)は、常に一定に保たれています。何らかの理由によりこのバランスが崩れて血液が酸性側に傾いた状態がアシドーシス、逆に塩基側に傾いた状態をアルカローシスです。犬や猫の代謝性アシドーシスの症状は、元気がない、嘔吐、過呼吸などです。慢性腎臓病にアシドーシスが加わるとさらに状態が悪くなるので、対策が必要です。

酸性物質の対策

適切なエネルギー摂取を保ちながらタンパク質の過剰摂取を避けることで、尿毒素や酸性物質が多くなりすぎず、酸塩基平衡が保たれます。

代謝性アシドーシスを予防する療法食もありますが、治療としてアルカリ化剤(クエン酸カリウム、重炭酸ナトリウム)の補給が必要になることもあります。注意点として、ストルバイ卜尿路結石症用フードは尿の酸性化をはかるため、その作用のある療法食や一般食は慢性腎臓病には与えないようにしてください。

TOPIC:化石と化した?尿の酸性化目的の尿石予防食

筆者は30年以上臨床をしているため、近年の犬や猫の尿石症の変化を目の当たりにしています。昔の尿石症の原因はほとんどがストルバイト(リン酸アンモニウムマグネシウム)でした。ストルバイトは、尿がアルカリ性の環境下で形成させるもののため、食事療法やサプリメントは酸性に傾かせる商品が主流でした。ここ10年で売られるようになった一般食の尿石用の機能性フードにも、酸性に傾かせる作用のある商品があります。

しかしながら近年の研究報告では、酸性の環境で形成されるシュウ酸カルシウムが多くなってきたのです。割合としては、犬ではストルバイトよりシュウ酸カルシウムが多く、猫ではほぼ同じといわれています。

つまり、尿石症予防や、過去になった尿石症の種類を忘れてしまった場合などに、安易に一般食の尿石用予防食や療法食を購入して与えると、大変なことになるかもしれません。結石にさせないための療法食は、酸性にもアルカリ性にも傾かず、中性を保つようになっています。

酸性物質の対策となるサプリメントには不飽和脂肪酸があります。不飽和脂肪酸には、魚油に多く含まれるEPAやDHAといったオメガ3脂肪酸があります。このオメガ3脂肪酸には糸球体高血圧、腎臓肥大の抑制、高血圧や血栓形成に深く関与するPGFやトロンボキサンA2の産生低下作用があります。ただし、オメガ3脂肪酸だけ与えれば良いわけでなく、オメガ6脂肪酸とオメガ3脂肪酸の比率を2.5~5:1(総合栄養食なら30:1)という適切な比率で与えるべきといわれています。ただし、オメガ3脂肪酸とは別の脂肪酸や食事とあわせて適切な比率を保てるよう考えられている商品などもあります。

ほかに酸性物質への対策として、前述したキトサンや、ポリフェノールの1種であるプロアントシアニジン(PAC)があります。PACは高い抗酸化力を有し、ブルーベリー、ラズベリー、ブラックベリーなどのベリー種の茎の方に多く含まれています。このPACには、組織のタンパク質を変性させ、腎機能低下の原因となる生体内における蛋白糖化最終生成物(AGEs)の蓄積を抑制する作用があります。腎機能の低下を示す犬においても、PACを高濃度に含有するブルーベリー茎エキスの経口投与による腎機能の改善効果が確認されています。

腎性貧血

前述した腎臓の機能の中に、エリスロポエチンによる造血(内分泌)がありました。腎臓では造血を促すホルモンが分泌されており、慢性腎臓病になるとその機能が低下して腎性貧血となるため、改善が必要です。

腎性貧血の対策

腎性貧血改善の治療にはエリスロポエチンのホルモン剤投与を行います。ホルモン剤の刺激で造血し、血を造るのに必要な鉄が消費されるため追加の鉄が必要となります。鉄材のサプリメントには、デキストラン鉄やクエン酸鉄塩類が有効で、造血に関わる銅・ビタミンB1・B2・B3・B6・B12・ニコチン酸アミドなども含有されています。

【参考文献】
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・一般社団法人ペット栄養学会. 慢性腎臓病. In: ペットサプリメント活用ガイド. 左向敏紀, 松本浩毅監修. 2023:pp75-78. Eduward Press.

【執筆者】
小沼 守(おぬま・まもる)
獣医師、博士(獣医学)。千葉科学大学教授、大相模動物クリニック名誉院長。日本サプリメント協会ペット栄養部会長、日本ペット栄養学会動物用サプリメント研究推進委員会委員、獣医アトピー・アレルギー・免疫学会編集委員、日本機能性香料医学会理事・編集委員他。20年以上にわたりペットサプリメントを含む機能性食品の研究と開発に携わっている。