鳥って恐竜なの?
精悍な姿のハヤブサ(写真1)をはじめとした鳥類は、「羽毛のある翼をもつ四肢動物」と定義できるかもしれません。「四肢動物」とは、陸上性の脊椎動物のことです。四肢動物の中において、鳥類は恐竜の一系統と位置付けられます。
現在、幅広い恐竜のグループにおいて、鱗が羽毛に変化した種類がいたことが知られています。たとえば、シノサウロプテリクスの化石(写真2)は、首から尾にかけて繊維状の羽毛が確認できます。この羽毛は、保温や抱卵に役立っていたのではと推測されています。
やがて「獣脚類」という小型の肉食種を中心とした系統において、羽毛が生えた四肢(とくに前脚)が翼化し、滑空や羽ばたき飛行をするものが現われ、鳥類と呼べる姿へと進化しました。「ここまでが(羽毛のある)恐竜、ここからが鳥類」と区切ることはできないため、「鳥類は恐竜」ということになります。
首長竜は「いかにも恐竜」だけど……?
では、首長竜は恐竜でしょうか。まさに首長竜という姿のタラソメドンや、首が短めのドリコリンコプスの印象は「いかにも恐竜」です(写真3、4)。しかし、ここでまた肢に注目して観察してみましょう。
鳥類が前肢を翼にできたのは、そもそも恐竜が後肢だけで歩行する動物だったからです。たとえばエオラプトルは後肢で立ちます(写真5)。このように体の真下に後肢がのびる形への進化は、哺乳類の系統では見られますが、爬虫類では珍しいものです*。
*ワニ類は恐竜と比較的近縁で、現生のワニもある程度は肢を体の下に伸ばせます。ワニ類の化石種では、二足歩行をしていたと考えられるものもいます。
トリケラトプス(写真6)のように大型の恐竜では、体重を支えるために前肢も地面に着けているものがいますが、それでも重心は後肢にあると骨格から判断できます。
一方で、首長竜の四肢は左右に張り出しています。また、首長竜は水中生活に再適応した爬虫類であり、その四肢は陸上で体を支えるのには不都合なヒレ状に進化しました。なお、ドリコリンコプス(写真4)でもわかるように、ちゃんと趾(指)があるので魚類のヒレとはちがいます。
現生の爬虫類と比べると、恐竜(そして鳥類)の系統は、ワニを含む系統に一番近く、続いてカメなどの系統と近くなっています。そして、有鱗目(ヘビやトカゲ)とはかなりの遠縁です。首長竜は、この有鱗目と近縁の系統と考えられています。
有鱗目であるミンダナオミズオオトカゲが動くところを観察してみましょう(写真7)。写真は水深が浅い水槽で移動する様子です。ミンダナオミズオオトカゲは基本的には尾の推進力で泳ぎ、肢も首長竜のようにヒレ状にはなっていません。しかし、肢のつき方は首長竜とよく似ていることがわかります。これは恐竜と首長竜が別系統であることの現われのひとつです。
恐竜でも首長竜でもない海生爬虫類
なお、モササウルス類のプラテカルプス(写真3)は、恐竜とも首長竜とも異なる海生爬虫類です。映画『ジュラシックワールド』を観た方には、「大水槽で飼育されていて、吊るされたサメを食べていたのがモササウルスだ」と言えば伝わるでしょうか。モササウルス類は有鱗目であり、オオトカゲと特に近縁と考えられています。
胎生(母親の体内で子どもが育ってから産み出される)であった首長竜と同様、モササウルス類も胎生だったのではないかと考えられています。なお、有鱗目であるウミヘビ類も、陸で産卵する系統(エラブウミヘビなど)以外は胎生です。
外見の印象が大きく異なっていても、体の構造や進化史を辿ることで、鳥類が恐竜であることがわかりました。そして、どんなに第一印象が似ていても、首長竜は恐竜ではありません。恐竜と首長竜は、爬虫類の2つの系統が、環境への適応を通して似た姿に「収斂進化」したと捉えるべきなのです。
「系統的近縁性」と「環境適応」という2つの輪が重なることで、生きものたちの豊かな世界が創られているのです。
[参考文献]
・平山廉(2019)『新説 恐竜学』カンゼン
【文・写真】
森 由民(もり・ゆうみん)
動物園ライター。1963年神奈川県生まれ。千葉大学理学部生物学科卒業。各地の動物園・水族館を取材し、書籍などを執筆するとともに、主に映画・小説を対象に動物観に関する批評も行っている。専門学校などで動物園論の講師も務める。著書に『ウソをつく生きものたち』(緑書房)、『動物園のひみつ』(PHP研究所)、『約束しよう、キリンのリンリン いのちを守るハズバンダリー・トレーニング』(フレーベル館)、『春・夏・秋・冬 どうぶつえん』(共著/東洋館出版社)など。最新刊『生きものたちの眠りの国へ』(緑書房)が2023年12月26日に発売。
動物園エッセイ
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