ワクチンシーズン到来! 犬の感染症と予防法の基礎知識:後編

犬との暮らしをエンジョイしている飼い主の皆さん、こんにちは! 松波動物病院メディカルセンター獣医師の松波登記臣です。

前回の記事では主にワクチンについてご説明しましたが、今回はズバリ「フィラリア、ノミ、マダニの予防」についてご紹介します。

フィラリアは寄生虫のなかでも特に有名であり、フィラリア症は昔から存在している感染症です。また、同じく有名な寄生虫であるノミ・マダニについては、実際に目にしたことのある飼い主さんもいらっしゃるかもしれませんね。これらの寄生虫をどう予防するのかを解説します。

フィラリア予防

フィラリア症

フィラリア症は、フィラリアという寄生虫の「感染幼虫」を保有している蚊に刺されたとき、犬の体内に感染幼虫が入ることで感染します。その感染幼虫が長く体内にいるうちに心臓などに移動して、そこで成虫に育って悪さをします。最悪、死に至ってしまう恐ろしい病気です。今は予防をしっかりしている飼い主さんが多いので、検査時にフィラリア陽性と診断される機会は減りましたが、まだまだ存在している感染症です。

フィラリア予防法と時期

フィラリア症は、蚊の生息状況で予防法が変わるため、地域によって若干の差が存在します。本州や北海道など、蚊が存在しない時期(1〜3月など)がはっきりしている地域では、5〜12月が予防シーズンとなります。しかしながら、沖縄や南九州などの温帯な地域ではオールシーズンで蚊がいるので、1年間を通して予防することが推奨されています。

予防法は、フィラリア予防薬を服用することです。ここで、予防薬を投薬する前には必ずフィラリア検査(抗原検査)を実施しなければいけないことに注意してください。感染している状態でフィラリア予防薬を服用すると、体内にいるフィラリア成虫と予防薬の成分が反応してアレルギー症状が出たり、最悪の場合は拒絶反応が出たりして、重篤な症状を引き起こすことがわかっています。必ず事前に検査を受けましょう。

フィラリア予防薬には、食べるタイプ、垂らすタイプ、注射するタイプなど、さまざまな形状が存在します。どれがベストなのかは、かかりつけの動物病院で相談して選んでくださいね。個人的には、ノミ・マダニと一緒に予防できるオールインワンタイプをおすすめしています。

ノミ・マダニ予防

ノミ・マダニが媒介する感染症

ノミ・マダニは、多くの感染症を引き起こす寄生虫です。その中でも、近年急速にその感染件数を増やしているSFTS(重症熱性血小板減少症)について解説します。

SFTSは、日本では九州地方で最初の感染がみつかり、今では本州でも感染件数を増やしています。病原体はウイルスで、マダニが媒介します。SFTSに感染している動物としては猫が多いと言われていますが、最近では犬の感染も増えてきています。犬や猫などのペットを介して人へ感染することが危惧される感染症で、感染した人が亡くなってしまうケースもみられます。ノミ・マダニを介して人への健康被害を起こす感染症は、SFTSを含めて多く存在しています。

ノミ・マダニ予防薬とその時期

ノミ・マダニ予防薬については下の表を参照してください。

表:犬のフィラリア、ノミ、マダニ予防薬の一部

先ほどご紹介したフィラリア予防薬と同じく、ノミ・マダニ予防薬には食べるタイプや垂らすタイプがあります。ノミ・マダニ予防の実施シーズンが1年中であることからも、個人的にはフィラリア予防薬と一緒になっているオールインワンタイプを推奨しています。フィラリア予防薬の成分を除いた同等品も発売されているので、蚊が存在しない時期は、そちらでの対応をおすすめします。

最後に

前後編に分けて、さまざまな感染症やワクチン、予防薬についてご紹介しました。

愛犬に合ったワクチンの種類、その頻度、そしてフィラリア予防薬の種類などについては、必ずかかりつけの動物病院で相談して決めてください。決して自分だけで判断せず、難しいことは専門家を頼ってくださいね。

[出典]
図1:松波登記臣. Chapter2 予防医療. 子犬と子猫の診療ガイド. 竹内和義 監. 緑書房, 2022, p. 36-44.

【執筆者】
松波登記臣(まつなみ・ときお)
獣医師、博士(獣医学)。松波動物病院メディカルセンター(名古屋市、http://www.matsunami.co.jp/ )院長。日本大学生物資源科学部獣医学科卒業後、同大学大学院に進学し、博士号を取得。2011年より松波動物病院メディカルセンターに勤務。
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