前回の記事に引き続き、沖縄で出会ったザトウクジラについて紹介していきます。
1頭で泳ぐオスのクジラ
2月某日、那覇の港から2時間ほど船を走らせたところで、オスのクジラを発見しました。彼は広い海をゆっくりと泳ぎながら、つがいとなる相手を探していました。
大きさは10メートル程度でしょうか。人間と比較するとかなり大きく、近くに浮上してきたときはものすごい迫力を感じますが、その瞳はどこか悲しそうでした。ロシアもしくはフィリピンの近海から日本まで、1000キロメートル以上の距離を1頭で泳ぎ続けてきた彼は、どのような気持ちだったのでしょうか。
次の相手に出会えることにワクワクした気持ちか、それとも「誰も射止められなかったらどうしよう」という不安に満ちた気持ちか。
日本にいる間に彼が運命の相手に出会えることを、願うばかりです。
クジラのカップル
クジラのカップルにも出会いました。オスは「射止めた相手を離さないぞ!」と言わんばかりに、メスにピッタリとくっついて泳いでいました。
ザトウクジラのオスは、基本的に子育てをしません。交尾が終わったあとは、その場でお別れです。メスのクジラは子どもを身籠ったあとは北の海に戻り、11カ月ほどお腹の中で赤ちゃんを育てます。そして出産のタイミングになると、暖かくて比較的穏やかな気候の沖縄近海などにやってくるのです。
このカップルを見ることができたのは一瞬のことでした。お母さんと子どものペアとなって帰ってきた姿を見られることを期待して、来年の観察シーズンを待とうと思います。
幻想的な海で出会った親子
水深50~60メートルほどの、底が見えない海で出会ったクジラの親子です。太陽の光が深い海底に吸い込まれていく、日常では味わうことができない幻想的な世界でした。
水深20~30メートルのところでじっと休憩するお母さんクジラと、その周りを無邪気に泳ぎ回る子クジラ。
ずっと見ていたい光景ですが、お母さんの休憩が終わり、浮上して呼吸をしたあとは、そのまま一気に泳ぎ去ってしまいました。
こんなにも美しい世界でクジラの親子に出会えたことに、感謝をしながらシャッターを切ったことは、忘れられない思い出になりました。
【文・写真】
あき
1996年大阪府生まれ、東京都在住。水族館や水中、音楽ライブの撮影のほか、雑誌、Webメディアへの寄稿などを行う。2017年、水族館の生きものを綺麗に撮影したいと思い、写真を始める。2023年、国際フォトコンテスト8TH 35AWARDS「UNDERWATER PHOTOGRAPHY」で100Best photo選出、Top35 photographers選出。ほか『幻想的な水族館の世界カレンダー2024』(緑書房)など。
X(旧Twitter):@akira1027_photo
Instagram:@akira1027_photo
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