水族館の大水槽はどうやって作られているの? NIPPURAが誇るアクリル技術

水族館で最初に目に入るのは魚? ペンギン? アシカ? ……いいえ、その前に「水槽」ではないでしょうか。

ひとくちに「水槽」といっても、中には深さが10メートル以上もあるものや、回遊式など、とても大きいものも存在します。皆さんは、それらがどのように作られているかご存じですか?

さまざまな水族館に水槽を納めているNIPPURAさんに、大きなアクリルパネルの作り方や、世界中の水族館での実績などについて、詳しくお話しをお聞きしました!

写真:NIPPURAの敷山靖洋さん

アクリルだからこそ可能だった回遊水槽!

きっかけは、1969年に「香川県の屋島に、東洋一の水族館を作る予定で、水族館のメイン水槽として柱のない大型回遊水槽を作りたい」という相談を受けたことです。

NIPPURAの創業者である敷山哲洋は当時、プラスチックの二次加工会社でアクリルの新しい接着技術を開発していました。その加工会社が、四国電力の子会社(当時)から上記の相談を受けたのです。

当時はガラス水槽が主力だったのですが、アクリルにはガラスよりも衝撃や圧力に強いという特徴があります。また、その回遊水槽を作るには、ガラス水槽では実現できない厚みが必要だったのですが、開発していたアクリルの接着技術で解決できると創業者は考えました。

ところが、前例もなく、万一の事故があった際のリスクも大きいことから、加工会社では反対する意見が多く出ました。

それでも実現可能だと考えた創業者は、1969年に独立し、依頼を引き受けることにしました。それが、NIPPURAの前身である日プラ化工の誕生でした。

写真:「日プラ化工」創業当時の写真

こうして出来上がったのが、屋島山上水族館(現、新屋島水族館)のアクリル製回遊水槽でした。お客さんが螺旋階段で回遊水槽の内側に入り、周り360度を見回せる水槽です。その後に縁があり、現在ではNIPPURAがこの水族館の運営を行っています。

写真:最初に納品したアクリル製回遊水槽

アクリルは熱をかけると柔らかくなるので、曲げたり、ガスを入れて膨らませたりして、いろいろな形に加工できます。沖縄美ら海水族館のメイン水槽のように、コンクリートの窓枠にはめ込むフラットパネルを作ることもありますし、カーブパネルを作ることもあります。それ以外にも、シリンダー型、長方形、楕円形、小判型、ドーム型など、手掛ける水槽の形は本当にさまざまです。

写真:沖縄美ら海水族館のアクアルームにはカーブパネルが使われている

大きな水槽はどうやって作っているの?

大きく厚い水槽は、繰り返し作業で作られています。ベースとなる4センチほどのパネルに、さらに4センチのパネルを1枚貼ると8センチの厚さになります。その上にさらに1枚貼ると12センチになります。その接着作業の繰り返しで、50センチ、60センチ、70センチの厚みを作り上げていくのです。必要さえあれば、厚さ1メートルのパネルを作ることもできます。

私たちのコアとなる技術は、透明なままで歪みを作らずに何枚も重ねる接着技術です。内部に歪みができてしまうと、水圧がかかったときに弱いところから割れてしまいます。均一に作っていれば、パネル全体で水圧を支えるので、壊れにくい構造になるわけです。

大きなパネルを作ったときは、特殊な輸送方法を取ります。例えば、沖縄美ら海水族館のメイン水槽のパネルは、厚さ60センチ×幅22.5メートル×縦8.2メートルなので、そのままトラックでは運べません。なので、分割して運びました。幅3.2メートル×縦8.2メートルのパネルを7セット作り、工場から現場に運び、現場で1枚ものに接着しています。

水族館に来るお客さんは水槽ではなく生き物に焦点を合わせて見ているので気づきませんが、パネルに焦点を合わせてずっと横に動いていくと、透明接着されたつなぎ面が正面にきたときにキラキラしているのが見えます。

写真:沖縄美ら海水族館のメイン水槽は、7枚のパネルを接着して作られている

ちなみに、工場は機械化しておらず、現場に持ち込める道具だけでパネルを作成しています。現場での接着作業は手作業になるため、工場での接着作業だけを機械化すると、1枚のパネルの中に製作方法の違う接着面が存在することになり、強度差がついてしまうわけです。強度差は、構造の弱さにつながります。機械と同じ接着を現場で再現するのは難しいので、逆転の発想で、工場を現場化しました。もちろん現場での作業は、パネル周りの防水シールの工事や、コンクリートの壁面の防水ライニング工事なども含めて、すべて自社で施工しています。

沖縄美ら海水族館は2002年に「世界最大のアクリルパネル」として当時のギネス世界記録に認定されました。これは水槽の水量(7500トン)ではなく、パネルが世界最大ということになります。2008年にはドバイのザ・ドバイモールで、3.3メートルのパネルを10枚つないで幅33メートルのパネルを作りました。2014年には中国の中国珠海・長隆海洋王国で、パネルを13枚つないで幅39.6メートルのパネルを作りました(2014年ギネス世界記録認定「世界最大のアクリルパネル」)。2023年には同じ水族館で、幅46.2メートルのパネルを作っています。どれも、同じ接着技術を使って作成しています。

写真: 2002年に「世界最大のアクリルパネル」としてギネス世界記録に認定された沖縄美ら海水族館

写真:ザ・ドバイモールの幅33メートルのパネルは、2度目のギネス記録となった

写真:2014年には中国珠海・長隆海洋王国で幅39.6メートルのパネルを作成

写真:2023年には中国珠海・長隆海洋王国で幅46.2メートルのパネルを作成した

国際的に活躍するきっかけとなったモントレーベイ水族館(アメリカ)

1982年から海外市場には進出していたのですが、国際的に大きく認められるようになったのは1994年にモントレーベイ水族館に水槽を納品してからです。1993年に、世界最大の水槽を作りたいと考えたモントレーベイ水族館から問い合わせを受けました。水族館では先に、アメリカのメーカーに相談していたようなのですが、「1枚のパネルでは難しいので、柱を入れて分割しましょう」と言われてしまい、なんとかできないかと海外のメーカーを探していたようです。

問い合わせを受けてから、すぐに契約となったわけではありません。競争相手として、アメリカのメーカーが1社と、日本のメーカーが1社いました。価格だけではなく、設計アイデア、品質、そしてなによりも安全性を比べられました。水槽は「透明度が高くて、形が綺麗」であれば良いわけではありません。半永久的にかかる水圧に耐えられる強度があり、絶対安全な構造物である必要があります。

最後に3社で競争入札を行い、わが社は価格的には2番手でした。海上輸送費の分だけ差がついてしまい、アメリカのメーカーのほうが15パーセントほど安かったわけです。「これは落ちたな」と覚悟していたのですが、なんと「あなたたちの製品を採用したい」と連絡を受けました。不思議に思っていたところ、契約の打ち合わせで「NIPPURAの品質が一番だと思ったのであなたたちに決めた。15パーセント高いのは、品質への価格」と言っていただけたのです。そこまで言われてしまっては、ものづくり屋として後には引けません。120パーセントの力で工事に取り組みました。

写真:モントレーベイ水族館で施工中の写真

当時わが社は、アジアでの実績はあったものの、アメリカやヨーロッパでの実績はありませんでした。モントレーベイ水族館も、いろいろな方面から「なぜ日本の企業に発注したのか?」と尋ねられたようです。それでも水族館の方は「NIPPURAの品質は世界一だ。私たちの判断に間違いはない」と答えていたそうです。当時の館長さんが除幕式で「これが世界最大の水槽です」ではなく、「これがNIPPURAのテクノロジーです」と言ってくださったのは忘れられません。

そのお披露目をきっかけに、アメリカの複数の水族館から相談を受けるようになり、実績を重ねることとなりました。

写真:モントレーベイ水族館に納品した大水槽

そんな中、あるとき香川の本社にスペイン語で電話がかかってきました。何とスペインのマドリード水族館からの依頼でした。その仕事がヨーロッパ進出の足掛かりとなり、フランス、イギリス、ポルトガル、ドイツ、ベルギー、オランダ、ポーランドなどと、実績を重ねました。その後、何かと「世界一」が好きなサウジアラビアやドバイなど中東から引き合いを受けるようになり、同時に東南アジアでの仕事も多く手掛けるようになりました。そうして、気がついたら納入実績で世界を一周していました。今では日本を除いて63カ国に納めています。海外で大型アクリル水槽を納品した数は、水族館、リゾートホテル、空港、駅舎、人が泳ぐ水槽などの事例をすべて合わせて400プロジェクト以上です。

モントレーベイ水族館に水槽を納品する前は、日本国内での打ち合わせで「町工場の水槽屋ごとき」という扱いを受けることもありました。しかし、日本の企業も海外視察などで私たちの実績を知ったのでしょう。私たちが世界一周から帰ってくると、大手設計事務所や大手ゼネコンからも、プロとして意見を求められるようになっていました。

実は、沖縄美ら海水族館でも「柱をなくして1枚にしましょう」と提案をしたのはわが社のほうからでした。

最大30センチ厚のパネルが「大パネル」と言われていた時代ですから、言葉だけの説得では難しく、鹿児島の別現場まで視察に来てもらいました。30センチで透明度の高いパネルを見せて「同じように重ねていったら60センチが作れますよね」と話し、納得していただきました。沖縄美ら海水族館のメイン水槽は、いろいろな種類の魚が泳いでいて、水質も素晴らしいので、水槽の前にいるだけで非日常空間を味わえます。水槽に柱があったら、まったく違った雰囲気になっていたでしょうね。

写真:沖縄美ら海水族館の大水槽の前では非日常を体験できる

「ぜひ、いろいろな水族館に行って楽しんで」

ぜひ、いろいろな水族館に足を運んでみてください。

私たちが作っている水槽はあくまでもハードであって、水族館はソフトが重要です。水族館の方に「世界一の大きさの水槽を作るには何メートルにすればいいか」とよく相談されるのですが、「大きさで勝負しなくても、良い水族館にはできる」という話をします。水族館に行く人は、水槽を見に行くわけではなくて、水槽の中を見に行くわけです。水槽ではなく、展示されている生き物、その管理方法、展示や案内、飼育員さんの説明などが水族館の良さにつながると考えています。

NIPPURAが運営している新屋島水族館の従業員にも、「水族館の大小や新旧は、水族館の価値とは関係がない」と伝えています。55年前に建てられた水族館ですが、今でも新屋島水族館には多くの方が訪れます。

水族館によって展示されている生き物は違いますし、同じ種類であったとしても個体差があります。海外の水族館にも当然、国ごとの特徴があります。展示の方法も千差万別です。いろいろな水族館に行って、それぞれの個性を楽しんでください。

敷山靖洋(しきやま・やすひろ)
NIPPURA株式会社代表取締役社長。1961年生まれ、香川県高松市出身。1988年日プラ海洋設備株式会社に入社。2021年に代表取締役社長に就任。

NIPPURA株式会社

https://www.nippura.com