動物たちの健康を支える 老舗飼料メーカー

動物園の動物たちが、普段なにを食べて生活をしているのか知っていますか? 自然そのままに、野菜や肉を直接食べているイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。
実は多くの動物園では、栄養バランスの考えられた専用の食べ物が動物たちに与えられています。
今回は長年に渡って動物園用飼料の製造開発を続けるオリエンタル酵母工業さんに、動物園でのフード事情をお聞きしました!

写真:オリエンタル酵母工業の川中嶋さん

写真:オリエンタル酵母工業外観

動物園飼料って、どんなもの?

当社は、1960年代に日本で初めて動物園用飼料の製造を開始しました。当初はサル用のビスケット製造からスタートし、動物園からの要望を受けて、徐々にラインナップを増やしてきました。現在では、草食動物用、霊長類用、鳥類用など19種類の動物園用飼料を製造しています。「創業の精神に基づき、社業を通じて人類の健康に寄与する」という、当社の経営理念に沿った事業として、動物の健康と人々の笑顔に貢献することを目指しています。
動物園用飼料を扱う上で、「動物園動物が健康で美しくなること」を大切にしています。そのためには、動物ごとに適した飼料が必要であり、開発の際には、生態、食性、栄養面などに配慮しています。また、当社の動物園用飼料は、国内の自社工場での製造、成分分析を行っており、品質にこだわった製品を動物たちへ提供しています。

写真:サル用飼料(ZAS)。栄養価が高く、サルが持ちやすい形状になっている。一部のサルが体内で合成できないビタミンCが配合されている

当社では、牧草や魚粉、小麦粉などを用いて製造した「ペレット」と呼ばれる固型飼料を主に製造しています。動物種ごとに食性や必要となる栄養素が違いますので、特徴に合わせてレシピを考えています。
最もポピュラーなものは、「草食動物用飼料」です。こちらは、ウサギやワラビーなどの小さい動物から、ゾウやキリンなどの大型の動物まで、3種類のサイズの飼料を製造しています。
また、ビーバーは体がさほど大きくないのですが、ネズミの仲間であり歯が伸び続けるため、歯を削るために粒が大きく固いZGF(大型動物用)が与えられています。手で器用に持ち、泳ぎながら少しずつ食べられるので、エンリッチメント(飼育環境をよりよくする方策)のツールにもなっています。

写真:草食動物用飼料。動物種に合わせて食べやすい大きさになっている(左よりZC、ZF、ZGF)

写真:ビーバーは、伸び続ける歯を削るために、粒が大きく固い動物用飼料が与えられている(撮影場所:ニフレル)

他には、「クマ」、「フラミンゴ」、「トキ」など、動物種ごとに特化させたペレットも製造しています。
クマ用飼料は、雑食のクマに合わせてトウモロコシや魚粉などの原料を選んで配合しています。クマは甘い餌を好むので、糖蜜を入れるなど、味にもこだわっています。

写真:クマ用飼料(KS)。糖蜜を加えて、クマが好む味付けのペレットにしている

写真:クマ用飼料は、雑食のクマに合わせて配合されている(撮影場所:みさき公園)

フラミンゴ用飼料は、赤く美しい羽色を保つために、赤い色素を添加しています。野生のフラミンゴは、餌としている甲殻類などから羽を赤くする色素を摂取しているため、自然に近づけるための工夫をしています。一般的に鳥類の繁殖には、高い栄養価が求められるため、トキ用飼料は油脂コーティングなどをして、他の飼料よりも栄養価を高めています。日本でトキ用飼料を製造しているのは当社だけですので、飼料を通して貴重なトキの保全にも貢献しています。

写真:上がフラミンゴ用飼料(FS)、下がトキ用飼料(TOKI)。ペレットが水に浮くように加工されている

実は、こんな使い方をされています

当社の動物園用飼料は、国内の動物園で広く採用されています。飼育されている動物たちの主食としてはもちろん、来園者とのコミュニケーションにも使用いただいているようです。クマ用飼料は、来園者が投げ入れて、キャッチするクマを観察するなど、クマの行動を観察するツールとしても用いられています。麩を棒状に加工した飼料は、小動物のふれあいコーナーなどで使われています。小さなペレットを手から与えると、動物たちに嚙まれてしまう可能性があります。棒状に加工したことで、子どもたちにも扱いやすく、楽しい思い出づくりにも貢献できています。

写真:棒状の麩飼料(ZFU)。子どもでも扱いやすく、ベタつかない

写真:動物園用飼料は、クマの行動を観察するツールとしても使用されている(撮影場所:東武動物公園)

開発には多くの苦労が……

動物園用飼料の開発は、現場である動物園へのヒアリング調査からスタートします。現場の飼育員さんからの要望をまとめ、既存の製品から課題を見つけることで、開発コンセプトを固めます。その後、試作品を作り、動物園での給与試験を繰り返しながら完成、販売となります。
当社が販売しているトキ用飼料も、上野動物園から相談を受けたことから開発がスタートしました。当初はアジや鯨肉などが与えられていましたが、栄養バランスが合わず、飼育が上手くいかなかったようです。ミンチにした馬肉と、当社が開発したサプリメントを混合し、トキが必要とする栄養に合う人工飼料を与えたことで、トキの繁殖に成功しました。順調にトキの数が増えたことで、今度はミンチ作業や飼料の混合に大きな手間がかかるようになりました。そこで飼育員さんから新たなトキ飼料の開発の相談を受け、当時の社長が「トキを救う名誉な仕事なのだから、利益を度外視してでも協力しよう」と、開発がスタートしました。試行錯誤の結果、2008年にペレットタイプのトキ用飼料が完成し、今では上野動物園だけではなく、佐渡トキ保護センターなどでも使用されています。貴重なトキの保全事業に協力できていることは、会社としての誇りです。
また、近年では、2023年に「高繊維草食動物用飼料」を開発しました。こちらは、動物園から、通常の餌では下痢になる動物がいる、豊富な繊維質を動物たちに与えたい、という声から開発が始まりました。コロナ禍で餌などが輸入しにくい時期だったということもあり、国内で安定的に生産できる当社へ開発を依頼されたのだと思います。ヒアリングの結果から、「豊富な繊維源を使用し、下痢の改善が期待できる素材を入れた飼料」という開発コンセプトが決定しました。こちらも様々なレシピを設計し、動物園での試験を繰り返しながら、新製品として販売しました。最初のヒアリングからは、おおよそ5年程度かかっての完成でした。国内の学会発表でも好評をいただき、現在は多くの動物園にて順調に導入が進んでいます。

写真:高繊維草食動物用飼料(ZHF)。苦労を重ねて発売された新製品。動物たちの健康を支えている

動物園の来園者へのメッセージ

動物園の動物たちが何を食べているのかに注目すると、新たな発見があるかもしれません。動物園では、牧草や野菜、肉類だけではなく、ペレットやサプリメントを与えることで、健康で長生きができるように工夫をしています。餌についての疑問があれば、飼育員さんに質問してみてください。きっと詳しく答えてくれると思います。この記事をきっかけに、動物園に興味を持っていただき、多くの人が足を運んでいただけると大変嬉しいです。

川中嶋 良雅(かわなかじま・りょうが)
埼玉県出身。日本大学 生物資源科学部動物資源科学科卒業(野生動物学研究室)。2016年にオリエンタル酵母工業へ入社。バイオ事業本部に所属し動物園用飼料を担当。 動物園等に対して動物園用飼料の紹介を行っている。趣味は、動物園・水族館巡り。イヌ、ネコ、ヤギ、ヒツジ、ポニー、インコ、ボールパイソン、ヒョウモントカゲモドキ、フトアゴヒゲトカゲなどの飼育経験あり。

オリエンタル酵母工業株式会社

公式サイト:https://www.oyc.co.jp/
動物園用飼料一覧:https://www.oyc.co.jp/bio/zooanimal/zooanimal.html