春は、生きものの気配を感じる季節です。カエルは合唱をはじめ、公園の池ではカメが日光浴をしています。
庭先ではどうでしょうか? カサカサ、カサカサと、人の気配を感じて逃げる音を聞いてじっとしていると、その正体があらわになります。ニホンカナヘビです。日光浴をする定位置があるようで、日当たりのいい日には一旦逃げ出しても、すぐに元の場所へと戻ります。
今回は、ニホンカナヘビの生態の一部をご紹介します。
まるで身近な恐竜!
ニホンカナヘビは、春になると冬眠から目覚めて日光浴をします。日光浴で体温が高まった後は、餌探しです。動くものを見ると目をギラつかせてそっと近寄り、一気に獲物を仕留めます。
ニホンカナヘビをよく観察してみると、まるで恐竜のミニチュアのようなカッコイイ体つきをしています。獲物に噛み付くその姿も、まるで肉食恐竜が草食恐竜を仕留める様子をタイムトラベルして見ているようです。バリバリ、メキメキと獲物を食べたあとは、また日光浴に戻ります。身近に恐竜のような生きものがいるなんて、日本の自然はすごいですね!
器用な尾でするすると動く
ニホンカナヘビのメスは、小指の先ほどの卵を物陰に産んだ後は子育てせず、どこかに行ってしまいます。ここが、第5回でご紹介したニホントカゲと異なるところです。
孵化した幼体は成体と同じく、体に対して非常に長い尾をしています。これほど長い尾が小さな卵にうまく収容されていたことに驚かされます。
ニホンカナヘビの長い尾はバランスをとるのに役立っており、細い枝や草の上を、上手に尾を絡めながらスルスルと自由に移動します。また、敵に襲われたときには尾を自切できるほか、再生も可能です。
活動期間の尾には、このようにさまざまな使い道があります。しかし、活動が止まる冬季には長い尾は邪魔なのではと、いつも疑問に思っていました。ニホンカナヘビは、尾をどのように収納して越冬するのでしょうか?
上の写真は、探してもなかなか見つからなかった冬眠の姿です。1月に丘陵地の斜面にて、土に埋もれていた倒木を何気なくめくったところ、偶然にもその下で尾を丸めて冬眠していた姿に出会いました。尾を何重にも小さく巻いてコンパクトにし、体に乗せています。これまで観察してきたニホンカナヘビのさまざまな生態の中でも、一番驚かされた生態です。
ニホンカナヘビを通して自然に触れよう
インターネットでニホンカナヘビについて調べると、さまざまな世代の方が、飼育下や野外での生態について、観察日記や自由研究を公開しています。身近な存在であるがゆえに飼育や観察に力が入れやすいようです。「ニホンカナヘビのような身近な生きものが、自然に触れるきっかけとなればいいな」と思います。
【文・写真】
関 慎太郎(せき・しんたろう)
1972年兵庫県生まれ。自然写真家、びわこベース代表、日本両棲類研究所展示飼育部長。身近な生きものの生態写真撮影がライフワーク。滋賀県や京都府内の水族館立ち上げに関わる。『日本のいきものビジュアルガイド はっけん!』シリーズ(ニホンヤモリ、ニホンイシガメ、オオサンショウウオ、ニホンアマガエル、オタマジャクシ、イモリ、トカゲ、小型サンショウウオ)、『野外観察のための日本産両生類図鑑 第3版』『同 爬虫類図鑑 第3版』、『世界 温帯域の淡水魚図鑑』、『日本産 淡水性・汽水性エビ・カニ図鑑』(いずれも緑書房)、『うまれたよ! イモリ』(岩崎書店)、『日本サンショウウオ探検記 減り続ければいなくなる!?』(少年写真新聞社)など著書多数。最新刊『日本のいきものビジュアルガイド はっけん! カナヘビ』(緑書房)が2024年3月29日に発売。
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